『バクタ配合錠』ってどんな薬?~ST合剤の2つの成分、PCPへの治療と予防の効果
回答:2種類の抗生物質を配合した”ST合剤”
『バクタ配合錠(一般名:スルファメトキサゾール+トリメトプリム)』は、2種類の抗生物質を配合した薬です。それぞれの有効成分の頭文字をとって”ST合剤”と呼ばれます。「スルファメトキサゾール」と「トリメトプリム」を1:5で配合することで、単独で使用した場合よりも、相乗効果によって高い抗菌力を発揮します。
従来は主に尿路感染症に使用されてきましたが、2012年に日和見感染症である「ニューモシスチス肺炎(PCP)」の”治療”と”予防”に適応が追加され、HIV感染者や免疫抑制剤使用者の感染制御にも大きく貢献できるようになりました。
回答の根拠①:葉酸の合成経路を連続してストップさせる
『バクタ』の有効成分である「スルファメトキサゾール」と「トリメトプリム」は、どちらも細菌の葉酸合成経路を阻害する作用を持っています。 「スルファメトキサゾール」は、パラアミノ安息香酸からジヒドロ葉酸への変換を阻害します。
「トリメトプリム」は、ジヒドロ葉酸からテトラヒドロ葉酸への変換を阻害します。
このように『バクタ』は2つの抗生物質は、葉酸合成経路の連続する2点に作用します1)。葉酸合成を阻害された細菌はDNAや核酸を作ることができず、数を増やせなくなります。
1) バクタ配合錠/配合顆粒 インタビューフォーム
一般的に、複数のポイントに作用する抗生物質は、”耐性菌”の出現が少ないとされています。しかし、『バクタ』などのST合剤に対する耐性菌は既に多く出現し、問題視されています。
詳しい回答②:ニューモシスチス肺炎(PCP)への治療と予防の効果
HIV感染者や、免疫抑制剤の使用者では、身体の免疫機能が低下しています。そのため、通常は体内にあっても病原菌とはなり得ない細菌によって、特殊な感染症を起こすことがあります。こうした、”普段は悪さをしない細菌による感染症”を、「日和見感染症」と呼びます。
ニューモシスチス肺炎(PCP)も「日和見感染症」の一つで、治療しなければ死亡率が100%と極めて致死性が高い疾患で、HIV感染者の死亡原因の15~20%を占めています2)。
また、免疫抑制剤使用者では、HIV感染者よりも症状が悪化しやすく、治療を行っても死亡率は40%にのぼるとされています2)。
2) 厚生労働省 「スルファメトキサゾール・トリメトプリム、ニューモシスチス肺炎の予防及び治療」 公知申請への該当性に係る報告書
以上のことから、ニューモシスチス肺炎(PCP)は「致死的な疾患」に区分され、その確立された治療方法と、発症の予防は極めて重要です。
『バクタ』は、他の抗生物質と比べると副作用が多く値段も高いため、日常的な感染症に使用されることはありません。
しかし、ニューモシスチス肺炎(PCP)に対して高い治療効果と発症抑制効果を発揮することから、重要な薬剤であると言えます。
※『バクタ配合錠』のニューモシスチス肺炎への適応 3)
治療:成人には1日9~12錠、小児には「トリメトプリム」として15~20mg/kgを、3~4回に分けて
予防:成人には1日1~2錠、小児には「トリメトプリム」として4~8mg/kgを、連日または週3日
3) バクタ配合錠/配合顆粒 添付文書
+αの情報:『バクタ』と『バクトラミン』
『バクタ』と同じ有効成分の薬に、『バクトラミン(一般名:スルファメトキサゾール+トリメトプリム)』があります。使用されている添加物に若干の差はありますが、有効成分の配合比率・量、適応症は全く同じ薬です3,4)。
4) バクトラミン配合錠/配合顆粒 添付文書
■含まれる有効成分
バクタ:スルファメトキサゾール+トリメトプリム(5:1)
バクトラミン:スルファメトキサゾール+トリメトプリム(5:1)
■適応症
バクタ:肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染、複雑性膀胱炎、腎盂腎炎、感染性腸炎、腸チフス、パラチフス、ニューモシスチス肺炎の治療と発症抑制
バクトラミン:肺炎、慢性呼吸器病変の二次感染、複雑性膀胱炎、腎盂腎炎、感染性腸炎、腸チフス、パラチフス、ニューモシスチス肺炎の治療と発症抑制
■製造販売元
バクタ:塩野義製薬
バクトラミン:中外製薬
■錠剤の添加物
バクタ:カルメロースCa、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸Mg
バクトラミン:カルメロースCa、ヒドロキシプロピルセルロース、ステアリン酸Mg、トウモロコシテンプン、ステアリン酸ポリオキシル40
■配合顆粒の添加物
バクタ:カルメロースCa、ヒドロキシプロピルセルロース、トウモロコシデンプン、白糖、含水二酸化ケイ素
バクトラミン:カルメロースCa、ヒドロキシプロピルセルロース、精製白糖、ステアリン酸ポリオキシル40
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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