『フェロミア』と『リオナ』、「クエン酸第一鉄」と「クエン酸第二鉄」は何が違う?
記事の内容
回答:消化管から吸収される『フェロミア』、吸収されない『リオナ』
『フェロミア(一般名:クエン酸第一鉄)』は、「鉄欠乏性貧血」の治療薬です。
『リオナ(一般名:クエン酸第二鉄)』は、慢性腎不全に伴う「高リン血症」の治療薬です。
同じ鉄の化合物であっても、消化管から吸収されやすい第一鉄(2価:Fe2+)は鉄の補給剤として、消化管から吸収されにくい第二鉄(3価:Fe3+)はリン吸着剤として使用されます。
回答の根拠:第一鉄と第二鉄の違い
鉄の化合物が、リン(P)を吸着することは古くから知られています1)。
しかし同じ鉄と言っても、第一鉄(2価:Fe2+)と、第二鉄(3価:Fe3+)では、体内での働きが大きく異なります。
『フェロミア』に含まれる第一鉄(2価:Fe2+)は、消化管から吸収されやすい特徴を持っています1,2)。そのため、身体に鉄を補給する目的で、貧血の治療に用います。
第一鉄も確かにリン(P)を吸着しますが、吸着したまま吸収されるため、リン(P)の排出には不向きです。
『リオナ』に含まれる第二鉄(3価:Fe3+)は、消化管から吸収されにくい特徴を持っています1,2)。そのため、消化管でリン(P)を吸着したまま排泄させる目的で、高リン酸血症の治療に用います。
第二鉄も確かに鉄を含みますが、消化管から吸収されないため、鉄の補給には不向きです。
1) リオナ錠 インタビューフォーム
2) Arzneimittelforschung.37(1A):105-7,(1987) PMID:3566863
また、『ピートル(一般名:スクロオキシ水酸化鉄)』も第二鉄(3価:Fe3+)で、『リオナ』と同様に”リン吸着剤”として使用されます。
詳しい回答①:生体で必要なリン(P)の調節
生体では、リン(P)とカルシウム(Ca)の合計量は一定になるように調節されています。これを「カルシウム・リン積」と呼びます。
慢性腎不全になると腎臓の調節機能が働かなくなり、血液中のリン(P)濃度が上昇し、「高リン血症」を起こすことがあります。このとき、「高リン酸血症」そのものは特に自覚症状がありません。
しかし、過剰にリン(P)が存在すると、「カルシウム・リン積」を一定に保つために骨などからカルシウム(Ca)が流出します。こうして溢れ出したカルシウム(Ca)は、本来は骨ではない組織に沈着し、石灰化を起こします。
実際、慢性腎不全患者ではこうした「高リン血症」が原因となった、”組織の石灰化(骨化)”が頻繁に起こります。
詳しい回答②:鉄を補給しても治らない貧血もある
貧血のうち、血液の原料となる鉄が不足して起こる「鉄欠乏性貧血」は、『フェロミア』などの鉄剤を補給することで改善します。
しかし、免疫トラブル等で起こる「溶血性貧血」や、骨髄の機能に異常がある「再生不良性貧血」、慢性腎不全に伴う「腎性貧血」などでは、鉄を補給しても改善しないことがあります。
長く続く貧血は、鉄不足以外の原因を疑う必要があります。一度病院で検査を受けるようにしましょう。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
リオナの添付文書上にはアスコルビン酸などの還元剤との相互作用は記載されていませんが、リオナ服用中の患者がサプリメントとしてこのような還元剤が含まれている製品を摂取しようとしている場合、サプリメントを辞めるように指導したり、時間をずらすように指導した方が良いのでしょうか?
機序的に考えるとリオナがフェロミアになってしまい、リン吸着作用が低下してしまうような気がしてしまいます。
メーカーに確認をとってみたのですが、『リオナ』第三相試験で「アスコルビン酸」と併用した際に、鉄の動態に影響しないという結果が出ているようです。そのため、特に服用時間はあけなくても良いようです。
『インクレミン(一般名:ピロリン酸第二鉄)』では吸収改善を示唆する報告もある(PMID:15580812)ため、「ピロリン酸第二鉄」と「クエン酸第二鉄」とでは相互作用に違いがあるのかもしれません。
また、「アスコルビン酸」600mgと併用した場合、鉄20mgであれば吸収が増加するものの、60mgを超えると吸収は増えなくなる、とする報告もあります(PMID:2184546)。
『インクレミン』は鉄として1回服用量が3~30mg程度、『リオナ』は鉄として開始用量でも1回115mgほどの計算になるため、この鉄の量が影響している可能性も考えられると思います。