『プレドニン』と『リンデロン』、同じステロイドの飲み薬の違いは?~作用の強さ・長さによる使い分け
記事の内容
回答:飲み方を工夫しやすい『プレドニン』、強力で大量投与に適した『リンデロン』
『プレドニン(一般名:プレドニゾロン)』と『リンデロン(一般名:ベタメタゾン)』は、どちらもステロイドの飲み薬です。
『プレドニン』は効き目が適度に続くため、隔日(1日おき)で飲んだり、朝夕で飲む量を変えたりと、副作用を減らすための工夫をしやすい薬です。
『リンデロン』は、『プレドニン』より効き目が強力で長続きします。さらに電解質への影響が小さいため、大量投与に適した薬です。
また『プレドニン』は、ある程度の量までは胎盤で分解されてしまうため、妊娠中でも比較的安全に使えることも特徴です。
回答の根拠①:『プレドニン』の使いやすさ~作用時間と飲み方の工夫
ステロイドの飲み薬は、その作用時間によって「短時間型」・「中間型」・「長時間型」の3つに分類することができます1)。
※短時間型のステロイド内服薬(生物学的半減期:8~12時間)
『コートン(一般名:コルチゾン)』
『コートリル(一般名:ヒドロコルチゾン)』
※中間型のステロイド内服薬(生物学的半減期:12~26時間)
『プレドニン(一般名:プレドニゾロン)』
『メドロール(一般名:メチルプレドニゾロン)』
※長時間型のステロイド内服薬(生物学的半減期:36~54時間)
『リンデロン(一般名:ベタメタゾン)』
『デカドロン(一般名:デキサメタゾン)』
1) J Allergy Clin Immunol.76(2-2):312-20,(1985) PMID:4019959
ステロイドは副作用が問題になることも多いですが、様々な病気の治療に極めて効果的です。そのため、高い効果を維持しながら、できるだけ副作用を減らせるよう、様々な工夫が試行錯誤されてきました。
その中で現在も行われているのは、隔日(1日おき)で飲む、朝は多め・夜は少なめに量を調節する、といったものがあります2,3)。
2) 日内会誌.67(1):57-68,(1978) PMID:632638
3) 南江堂 「今日の治療薬 (2016)」
しかし、「短時間型の薬」では、飲む回数や量を減らすと途中で効き目が切れてしまう恐れがあります。
逆に、「長時間型の薬」では作用が安定してしまうため、飲み方を多少変えたところで大勢には影響せず、工夫の効果は薄くなります。
その点「中間型」の『プレドニン』は、作用時間が長過ぎず短か過ぎず、適度に効き目が続きます。そのため、こうした飲み方の工夫の恩恵を得やすい薬です。
回答の根拠②:『リンデロン』の強さ~抗炎症作用の強弱と換算量
ステロイドの飲み薬は、「ヒドロコルチゾン」を基準として、炎症を抑える効果の強弱が評価されています。
※「ヒドロコルチゾン」を1とした場合の、抗炎症作用 4)
『コートン(一般名:コルチゾン)』・・・・・・・・0.8
『コートリル(一般名:ヒドロコルチゾン)』・・・・1.0
『プレドニン(一般名:プレドニゾロン)』・・・・・4.0
『メドロール(一般名:メチルプレドニゾロン)』・・5.0
『デカドロン(一般名:デキサメタゾン)』・・・・ 25.0~30.0
『リンデロン(一般名:ベタメタゾン)』・・・・・ 25.0~30.0
4) リンデロン錠 インタビューフォーム
このように『リンデロン』は、同じ量の『プレドニン』よりも抗炎症作用が7~8倍強力です1,2)。また、作用も長続きする「長時間型」であることから、強い効き目が長続きする薬と言えます。
そのため、ステロイドが大量に必要な場合(パルス療法)や、他のステロイドでは効かないような場合に選択されます。
『リンデロン』が大量投与(パルス療法)に適する理由
ステロイドの作用には、炎症を抑える「糖質コルチコイド作用」と、電解質に影響する「鉱質コルチコイド作用」の2種類があります。
『リンデロン』は、『プレドニン』と違って電解質への影響が小さいという特徴があります。
※「ヒドロコルチゾン」を1とした場合の、電解質(鉱質コルチコイド)作用 4)
『コートン(一般名:コルチゾン)』・・・・・・・・・0.8
『コートリル(一般名:ヒドロコルチゾン)』・・・・・1.0
『プレドニン(一般名:プレドニゾロン)』・・・・・・0.8
『メドロール(一般名:メチルプレドニゾロン)』・・・<0.01
『デカドロン(一般名:デキサメタゾン)』・・・・・・<0.01
『リンデロン(一般名:ベタメタゾン)』・・・・・・・<0.01
ステロイドによる電解質への影響が強くなり過ぎると、血圧が上がるなどの副作用が現れる場合があります。そのため、炎症を抑える効果が強力で長続きし、更にこの電解質への影響が少ない『リンデロン』は、大量投与(パルス療法)に適した薬と言えます。
回答の根拠③:妊娠中の安全性~胎盤での分解
胎盤には、ステロイドを分解・不活性化する「11β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素(2型)」が多く存在しています5)。この酵素によって『プレドニン』は90%近くが不活性化されるため、1日20mg以下であれば胎児にまで影響することはありません6)
5) Front Horm Res.36:146-64,(2008) PMID:18230901
6) B J Dermatol.165(5):943-52,(2011) PMID:21729030
『リンデロン』は不活性化率が低い
『リンデロン』の場合、胎盤での不活性化は約33%と『プレドニン』よりも低くなっています5)。
そのため、妊娠中にステロイドが必要になった場合には、より胎児へ移行しにくい『プレドニン』を使うのが一般的です。
ただし、妊娠中の薬の安全性評価の一つである「オーストラリア基準」では、『プレドニン』と『リンデロン』はどちら最もリスクの低い【A】に分類され、妊婦に対しても基本的に安全な薬とされています。
これは、アレルギーの薬や痛み止めよりも安全とされる評価です。
※よく使われる薬の安全性評価の例
『アレグラ(一般名:フェキソフェナジン)』 → 【B2】
『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』 → 【C】
薬剤師としてのアドバイス:決められた1日量を、決められた期間飲むことが大切
ステロイドは、劇的な効果があるため、強烈な副作用があるように思われています。
しかし、多くの人が想像している強烈な副作用は、ほとんどがドーピング等で過量摂取した場合に起こる副作用で、病気の治療で使う量、特にアレルギーに使う少量で起こることは基本的にありません。
ステロイドは怖い薬だからと、自己判断で飲む量を変えたり、途中で止めてしまったりすると、それによって病状が悪化したり、別の副作用(離脱症状など)を起こしたりする恐れがあります。
必ず、決められた1日量を、決められた期間、きちんと指示通りに服用するようにしてください。それが、ステロイドの副作用を最も少なく抑える、最善の方法です。
何か不安や疑問を感じた場合には、一人で調べて考え込んだり薬を止めたりするのではなく、かかりつけの医師・薬剤師に相談するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『プレドニン』は作用時間が適度で、隔日投与や朝夕での調節がしやすい
2. 『リンデロン』は強力な抗炎症効果を持ち、電解質への影響も少ないので、大量投与に適している
3. 特に、1日20mg以下の『プレドニン』は、妊婦でも安全に使える
添付文書・インタビューフォーム記載事項の比較
◆一般名
プレドニン:プレドニゾロン
リンデロン:ベタメタゾン
◆用法・用量
プレドニン:通常、1日5~60mgを1~4回にわけて
リンデロン:通常、1日0.5~8mgを1~4回にわけて
◆生物学的半減期による分類
プレドニン:中間型
リンデロン:長時間型
◆抗炎症(糖質コルチコイド)作用の強さ:ヒドロコルチゾン換算
プレドニン:4.0
リンデロン:25.0~30.0
◆電解質(鉱質コルチコイド)作用の強さ:ヒドロコルチゾン換算
プレドニン:0.8
リンデロン:<0.01
◆剤型の種類
プレドニン:錠(5mg)、注射、眼軟膏、
リンデロン:錠(0.5mg)、散、シロップ、坐薬(0.5mg、1.0mg)、注射、ほか外用剤
+αの情報①:ステロイドは胃を荒らしやすい?
『プレドニン』や『リンデロン』などのステロイドは、単独でも胃を荒らすことがあるため、食後に服用するのが一般的です。
特に、『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』などのNSAIDsと併用することで、消化性潰瘍の副作用リスクが15倍近く高くなることが報告されています7)。
7) Ann Intern Med. 1991 May 1;114(9):735-40.PMID:2012355
+αの情報②:「生物学的半減期」と「血中濃度半減期」
ステロイドは、受容体との親和性が非常に高いため、血液中から薬が消失しても、簡単に受容体からは離れません。そのため、血液中の濃度が低くなってきても、ステロイドとしての薬理作用はしばらく続くことになります。
このとき、ステロイドとしての薬理作用が半分に減っていく時間を「生物学的半減期」と呼び、血中濃度の半減期とは別の指標として扱います。
実際、『プレドニン』の血中濃度の半減期は2.5時間ですが8)、生物学的半減期は12~26時間とされています1)。
8) プレドニン錠 添付文書
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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