『ザファテック』と『マリゼブ』、同じ週1回のDPP-4阻害薬の違いは?~効果の比較と腎障害への投与
記事の内容
回答:大きな違いはないが、『マリゼブ』は重度の腎障害でも使える
『ザファテック(一般名:トレラグリプチン)』と『マリゼブ(一般名:オマリグリプチン)』は、どちらも糖尿病に使う「DPP-4阻害薬」で、週1回の服用で良い薬です。
『ザファテック』と『マリゼブ』の効果に大きな違いはなく、適応症や薬の値段、飲み忘れた時の対応も同じため、特に厳密な使い分けは必要ありません。
ただし、効き目が長続きする理由の違いから、『マリゼブ』は中等度の腎障害では基本的に用量調節が必要ないという特徴があります。
回答の根拠①:『ザファテック』と『マリゼブ』の効果・適応症・値段
『ザファテック』と『マリゼブ』の効果を直接比較した試験はありません。
しかし臨床試験の段階では、週1回100mgの『ザファテック』と1日1回25mgの『ネシーナ(一般名:アログリプチン)』、週1回25mgの『マリゼブ』と1日1回50mg『ジャヌビア(一般名:シタグリプチン)』で、それぞれ効き目や安全性に大きな違いはないことが確認されています1,2)。
現状、DPP-4阻害薬の薬剤間に大きな違いは報告されていないこと、『ネシーナ』と『ジャヌビア』の間にも大きな違いはないことが既に報告されている3)ことから、『ザファテック』と『マリゼブ』にも厳密な使い分けが必要なほどの差はないと考えられます。
1) Lancet Diabetes Endocrinol .3(3):191-7,(2015) PMID: 25609193
2) マリゼブ錠 インタビューフォーム
3) Clin Ther.34(6):1247-1258,(2012) PMID:22608780
また、『ザファテック』と『マリゼブ』の適応症は「2型糖尿病」と同じで2,4)、薬の値段にも大きな違いはありません。そのため、基本的には特別な使い分けは必要ありません。
4) ザファテック錠 インタビューフォーム
※薬価の比較 (2020改訂時)
ザファテック:25mg(275.50)、50mg(517.60)、100mg(971.20)
マリゼブ:12.5mg(492.90)、25mg(919.60)
飲み忘れた時の対応も同じ
『ザファテック』と『マリゼブ』は、飲み忘れた場合の対応も「飲み忘れに気付いた時点で決められた量を服用し、以降は元の予定通りに服用する」ことで同じです。
※毎週日曜日に服用していた場合の例
5日(日)に服用 → 12日(日)に忘れていた → 気づいた15日(水)に服用 → 19日(日)に服用
「DPP-4阻害薬」は、単独では低血糖の副作用を起こしにくい薬ですが、2回分をまとめて飲まないように注意してください。
回答の根拠②:中等度の腎障害では用量調節が不要の『マリゼブ』
腎機能が衰えていると、薬を体外へ排泄する機能も低下するため、薬が体内に蓄積しやすくなります。このとき、薬理活性を持つ物質が体内に蓄積すると、中毒性の副作用を起こすことがあります。そのため、腎障害がある場合は薬の量を減らしたり、その腎障害が重い場合は薬を使えなかったりといったことが起こります。
『ザファテック』は、血液中から薬が消失しても薬の活性が続くように設計された薬です4)。そのため、腎機能の低下で薬の排泄が遅れると、蓄積した薬によってその薬理活性が強まり、必要以上に薬が効き過ぎてしまう恐れがあります。このことから、中等度の腎機能障害の段階から用量を調節する必要があります4)。
一方で『マリゼブ』は、腎臓で一旦ろ過された後、大部分が再吸収され、血液中に戻ります2)。これによって薬は長く体内を循環し、効き目が1週間続くことになります。
このように『マリゼブ』は、もともと体内に薬が残るように設計された薬です。そのため、重度の腎障害・末期腎不全までは基本的に用量調節が不要とされています2)。
※腎機能による用量調節
ザファテック:通常100mg/週、中等度腎機能障害:50mg/週、重度腎機能障害・末期腎不全:25mg/週
マリゼブ:通常25mg/週、重度腎機能障害・末期腎不全:12.5mg/週
薬剤師としてのアドバイス:週1回の薬で、かえって飲み忘れが増えることもある
基本的に、薬を飲む回数や錠数は少ない方が負担も軽くなります。実際、DPP-4阻害薬でも、週1回服用でよい『ザファテック』や『マリゼブ』は、便利さなどの点で患者の満足度が高く5)、多くの人が週1回服用の薬を希望する6)ということも報告されています。
しかし、毎日の薬が既に習慣になっている場合や、日によって飲む薬の内容が変わると混乱してしまうような場合には、週1回の薬が必ずしも良いとは限りません。かえって飲み忘れが増えてしまうこともあります。
「1日1回の薬の方が飲み忘れは少なかった」ということは比較的よくあるため、自分にあった薬を主治医と相談しながら選ぶようにしてください。
5) Intern Med.56(19):2563-2569,(2017) PMID:28883229
6) J Clin Med Res.10(8):641-647,(2018) PMID:29977422
ポイントのまとめ
1. 『ザファテック』と『マリゼブ』は、効果も値段もほとんど同じ
2. 『マリゼブ』は、重度の腎障害・末期腎不全でも使える
3. 人によっては、週1回の薬でかえって飲み忘れが増えることもある
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
ザファテック:2型糖尿病
マリゼブ:2型糖尿病
◆用法
ザファテック:週1回
マリゼブ:週1回
◆非劣性を確認した試験での対照薬
ザファテック:ネシーナ(アログリプチン)
マリゼブ:ジャヌビア(シタグリプチン)
◆用量調節が必要になる腎症害
ザファテック:中等度から
マリゼブ:重度・末期腎不全から
◆剤型の種類
ザファテック:錠(25mg、50mg、100mg)
マリゼブ:錠(12.5mg、25mg)
◆製造販売元
ザファテック:武田薬品工業
マリゼブ:MSD
+αの情報:DPP-4阻害薬とSGLT-2阻害薬
「DPP-4阻害薬」と「SGLT-2阻害薬」は、どちらも新しい糖尿病治療薬として登場した薬ですが、特にリスクの高くない2型糖尿病患者や、高齢の糖尿病患者の心血管疾患や心不全、腎障害などを抑制する効果は「SGLT-2阻害薬」の方が優れている可能性が示されています7,8)。
7) Diabetes Obes Metab.23(1):75-85,(2021) PMID:32893440
8) Diabetes Obes Metab . 2020 Nov 25. doi: 10.1111/dom.14261. Online ahead of print. PMID:33236515
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【加筆修正】
『ザファテック』も重度の腎不全患者に対する禁忌が外れたため、用量調節が必要になる腎障害の度合いの違いで比較するように全体を加筆修正しました。