PPIとH2ブロッカー、同じ胃酸を抑える薬の違いは?~効果の強さと、投与日数の制限、ピロリ偽陰性
記事の内容
回答:「PPI」の方が強力、「H2ブロッカー」には日数制限やピロリ菌検査への影響がない
「PPI(プロトンポンプ阻害薬)」と「H2ブロッカー」は、どちらも「胃酸分泌抑制薬」に分類される薬で、消化性潰瘍の治療に用います。
「PPI」の方が、1日1回の服用でより強力な効果が得られます。しかし保険適用上、投与日数に上限があるほか、ピロリ菌の検査結果に影響することがあります。
「H2ブロッカー」にはこうした制限はなく、ピロリ菌の検査結果にも影響しません。
そのため、治療の初期は「PPI」、長期の維持療法には「H2ブロッカー」を使うのが一般的です。
また、「PPI」は日中、「H2ブロッカー」は夜間の胃酸過多に効果的なため、例外的に併用することもあります。
回答の根拠①:「PPI」の高い効果~消化性潰瘍の第一選択薬
「PPI」と「H2ブロッカー」は、どちらも胃酸の分泌を抑える作用があります。
酸の分泌を抑える効果は「PPI」の方が強力なため、消化性潰瘍の第一選択薬には「PPI」が選ばれています1)。
1) 日本消化器学会 「消化性潰瘍診療ガイドライン (2009)」
併用薬や持病・アレルギーなど、何らかの事情によって「PPI」を使えない場合には「H2ブロッカー」を使います。
「PPI」の効果は長続きするので1日1回で良い
「PPI」は、酸分泌を行う最終段階である「プロトンポンプ(H+/K+ -ATPase)」を阻害することで酸の分泌を抑えます。この阻害作用は24時間にわたって続くため、「PPI」はいずれも1日1回の服用で済みます。
「H2ブロッカー」は、胃粘膜にある胃壁細胞の「ヒスタミンH2受容体」に拮抗することで酸の分泌を抑えます。この拮抗作用は、薬の血中濃度が下がると無くなってしまうため、「H2ブロッカー」は多くの場合1日2回で服用する必要があります。
※代表的な「PPI」と「H2ブロッカー」の用法
『ネキシウム(一般名:エソメプラゾール)』:1日1回
『ガスター(一般名:ファモチジン)』:1日1~2回
回答の根拠②:「PPI」の投与日数の上限~保険適用上の問題
「PPI」は保険適用上、胃潰瘍では8週間、十二指腸潰瘍では6週間という投与日数の上限があり、それを超えて処方することはできません2)。
2) ネキシウムカプセル 添付文書
そのため、長期に渡って薬を使う場合、維持療法を行う場合には「H2ブロッカー」を選ぶ必要があります。
ただし、「再燃を繰り返す逆流性食道炎」の場合に限り、維持療法に「PPI」を使うことができます2)。
また、高齢者に対する「H2ブロッカー」の使用は、認知機能低下やせん妄のリスクになることが指摘されていることにも留意する必要があります3)。
3) 老年医学会 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン 2015」
回答の根拠③:ピロリ菌の検査結果への影響~偽陰性のリスク
「PPI」にはピロリ菌の活動を抑える静菌作用があるため、「PPI」の服用中はピロリ菌の検査で正しい結果が出ない(偽陰性)ことがあります。
そのため、少なくとも検査の2週間前からは薬の服用を一旦止めておく必要があります4)。
4) 日本ヘリコバクター学会 「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン (2016)」
このことから、ピロリ菌の検査前には結果に影響しない「H2ブロッカー」や、『セルベックス(一般名:テプレノン)』や『ムコスタ(レバミピド)』などの「胃粘膜保護薬」に切り替えておくのが一般的です。
なお、ピロリ菌の検査の中でも「抗体測定法」であれば、「PPI」の影響は受けないとされています4)。
薬剤師としてのアドバイス:ピロリ菌やNSAIDs、ストレスなどの原因の解決も必要
「PPI」や「H2ブロッカー」は消化性潰瘍に高い効果を発揮します。
しかし消化性潰瘍は、ピロリ菌の感染や、『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』などの痛み止め(NSAIDs)の副作用でも起こります。こういった場合、ピロリ除菌や痛み止めの中止など、根本的な原因を解決しなければ症状は改善しません。
また、ストレスや暴飲暴食も潰瘍・逆流性食道炎を悪化させる要因となります。
長く症状が続く場合は、薬の量を増やしたり使い続けたりするよりも、まずは原因を明確にすることが大切です。
ポイントのまとめ
1. 「PPI」の方が作用は強力で、消化性潰瘍の第一選択薬に選ばれている
2. 「H2ブロッカー」は、投与日数制限やピロリ偽陰性などの問題がない
3. 消化性潰瘍は、ピロリ菌やNSAIDsの副作用でも起こる
+αの情報①:昼と夜の効果の違い~NABに対する例外的な併用
「PPI」は、食事によって「プロトンポンプ」が活性化している時の方が高い効果が発揮されます5)。つまり、夜よりも、食事をする日中の方がよく効く傾向にあります。
そのため、重症の場合は「PPI」を飲んでいても夜間に胃酸の過分泌(Nocturnal Gastric Acid Breakthrough:NAB)が起こることがあります。
この場合、「PPI」と併せて「H2ブロッカー」を夜に1回追加投与することで症状を改善できることが報告されています6)。
5) Best Pract Res Clin Gastroenterol.27(3):401-14,(2013) PMID:23998978
6) J Gastroenterol.38(9):830-5,(2003) PMID:14564627
ただし、通常は「PPI」と「H2ブロッカー」はどちらか一方を選ぶべき薬で、こうした併用は例外的なものです。
+αの情報②:新しい胃酸分泌抑制薬、『タケキャブ』
「カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)」と呼ばれる、PPIの改良型の胃酸分泌抑制薬『タケキャブ(一般名:ボノプラザン)』が登場しています。
『タケキャブ』は、「PPI」の弱点であった「立ち上がりの遅さ」や「代謝酵素による個人差」が改善されています。また、ピロリ除菌に対しても「PPI」より成功率が高いことから、除菌の際にはよく使われる薬となっています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
2年目の初期研修医です。
大変わかりやすく勉強になりました。
これからもお時間のあるときに記事を更新して頂けますととてもうれしいです。