「PPI」と「H2ブロッカー」、同じ胃酸を抑える薬の違いは?~効果の強さと速さ、長期使用時の安全性
記事の内容
回答:効果が強力な「PPI」、速効性のある「H2ブロッカー」
「PPI(プロトンポンプ阻害薬)」と「H2ブロッカー」は、どちらも消化性潰瘍などの治療に用いる「胃酸分泌抑制薬」です。
「PPI」は効果が強力で、消化性潰瘍の第一選択薬です。
「H2ブロッカー」は効果が速く現れる、速効性に優れた薬です。

そのため、通常は効果の高い「PPI」がメインで使われますが、速効性が必要な状況では「H2ブロッカー」も選択肢になります。
ただし、保険適用上の縛りや副作用の観点から、長期にわたる継続使用には「H2ブロッカー」の方が適している面があります。
回答の根拠①:作用メカニズムの違い~胃酸の分泌を抑えるポイント
食べたものを消化するため、胃では強力な酸が分泌されていますが、この胃酸が出過ぎると胃粘膜を傷つけてしまうことになります。「PPI」や「H2ブロッカー」は、それぞれ異なる作用メカニズムで、この胃酸の分泌を減らします。

■「PPI」:プロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitor)
→胃の壁細胞にある、酸分泌の最終段階「プロトンポンプ」を阻害することで、胃酸分泌を減らします。
(具体的な薬の例):エソメプラゾール、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール
■「H2ブロッカー」:ヒスタミンH2受容体拮抗薬
→胃の壁細胞にある「ヒスタミンH2受容体」に拮抗することで、胃酸分泌を減らします。
(具体的な薬の例):ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジン、ラフチジン、シメチジンなど
回答の根拠②:効果の高い「PPI」が、消化性潰瘍の第一選択薬
「PPI」と「H2ブロッカー」は、どちらも胃酸の分泌を抑えますが、その効果は「PPI」の方が強力なため、消化性潰瘍の第一選択薬には「PPI」が選ばれています1)。
「H2ブロッカー」は、併用薬や持病、副作用などの事情で「PPI」を使えない場合に選ばれます。

1) 日本消化器学会 「消化性潰瘍診療ガイドライン (2020)」
「PPI」には投与日数がある~保険適用上の問題
「PPI」には保険適用上、胃潰瘍や逆流性食道炎では8週間、十二指腸潰瘍では6週間、胃食道逆流症では4週間という投与日数の上限が設定されています2)。
そのため、この期間以上に長期で薬を使う場合には、「H2ブロッカー」を選ぶ必要があります(※再発・再燃を繰り返す逆流性食道炎に対する維持療法2)を除く)。
※PPIの投与日数制限
胃潰瘍:8週間まで
逆流性食道炎:8週間まで(※再発・再燃を繰り返す場合は維持療法可)
十二指腸潰瘍:6週間まで
胃食道逆流症:4週間
2) ネキシウムカプセル 添付文書
回答の根拠③:速効性に優れる「H2ブロッカー」
薬を使ってから胃内pHが下がるまでの時間は「H2ブロッカー」の方が短い、つまり速効性に優れることがわかっています3)。そのため、速い効果が必要な場合には「H2ブロッカー」の方が適しています。
これは、PPIが効果を発揮するためには胃酸による活性化を受ける必要があるなど、薬効発現にやや時間がかかることが要因と考えられています。

3) J Gastroenterol.39(1):21-5,(2004) PMID:14767730
長期使用による骨粗鬆症や腎機能低下リスクは、「H2ブロッカー」の方が少なそう
「PPI」を長期間にわたって使い続けていると、骨粗鬆症やビタミンB12欠乏、腎機能低下などを起こすリスクが報告されています4)が、こうしたリスクは「PPI」よりも「H2ブロッカー」の方が小さい5,6,7)ことがわかっています。
そのため、長期的な維持治療の薬としては「H2ブロッカー」の方が安全な面があります。
ただし、「H2ブロッカー」は腎機能に応じて減量しなければ”せん妄”などの精神系の副作用が何倍も起こりやすくなります8)。特に高齢者が継続して使う場合には、個々の腎機能に合わせた用量調節が必須です。
4) Ther Adv Drug Saf.8(9):273-297,(2017) PMID:28861211
5) Osteoporos Int.30(1):103-114,(2019) PMID:30539272
6) BMC Geriatr.20(1):407,(2020) PMID:33059626
7) Kidney Int.91(6):1482-1494,(2017) PMID:28237709
8) Nephrol Dial Transplant.20(11):2376-84,(2005) PMID:16091377
薬剤師としてのアドバイス:「ピロリ菌」の除菌など、根本的な治療も必要
胃炎や消化性潰瘍の症状は「ピロリ菌」が原因で起こっていることもあります。この場合も「PPI」や「H2ブロッカー」を使うと一時的に症状は治まりますが、「ピロリ菌」が胃に感染している限りは根本的な解決にはなりません。抗菌薬を使ったピロリ除菌が必要です。
他にも痛み止め(NSAIDs)などの薬、偏った食事、ストレスなどでも消化性潰瘍の症状は現れますが、症状を繰り返している場合には「PPI」や「H2ブロッカー」といった対症療法の薬を使うだけでなく、根本的な原因の解決を目指すことも大切です。
ポイントのまとめ
1. 「PPI」の方が胃酸分泌抑制効果は強力で、消化性潰瘍の第一選択薬
2. 「H2ブロッカー」の方が速効性に優れ、投与日数制限もない
3. 長期投与時は、「H2ブロッカー」の方が骨粗鬆症や腎機能低下等のリスクは低そうだが、腎機能に応じた用量調節は必須
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
PPI | H2ブロッカー | |
正式名称 | プロトンポンプ阻害薬(Proton Pump Inhibitor) | ヒスタミンH2受容体拮抗薬 |
作用メカニズム | 胃の壁細胞にある、酸分泌の最終段階「プロトンポンプ」を阻害 | 胃の壁細胞にある「ヒスタミンH2受容体」に拮抗 |
主な薬剤 | エソメプラゾール、オメプラゾール、ランソプラゾール、ラベプラゾール | ファモチジン、ロキサチジン、ニザチジン、ラフチジン、シメチジンなど |
消化性潰瘍治療の立ち位置 | 第一選択薬 | PPIを使えない時の選択肢 |
用法 | 1日1回 | 1日1~2回 |
投与日数制限 | 胃潰瘍:8週間 逆流性食道炎:8週間 十二指腸潰瘍:6週間 胃食道逆流症:4週間 | なし |
ピロリ菌検査が偽陰性になるリスク | ある | 添付文書に記載はない |
最初の薬の登場年 | 1991年(オメプラゾール) | 1982年(シメチジン) |
OTC医薬品としての販売 | 『パリエットS』 | 『ガスター10』など |
+αの情報①:妊娠中の安全性
「PPI」と「H2ブロッカー」は、基本的にどちらも先天異常リスクとは関連しないことが確認されている9,10)ため、妊娠中でも特に制限をする必要はありません。
ただ、古くから使われている「H2ブロッカー」の方が使用実績は多い傾向にあります。
9) J Clin Pharmacol.50(1):81-7,(2010) PMID:19789371
10) N Engl J Med.363(22):2114-23,(2010) PMID:21105793
+αの情報②:ピロリ菌の検査への影響
「PPI」にはピロリ菌の活動を抑える静菌作用やウレアーゼ活性を抑制する作用があるため、「PPI」を服用しているとピロリ菌の各種検査で正しい結果が出ない(偽陰性:ピロリ菌に感染しているのに”検出”されない)ことがあります。
そのため、「PPI」を使っている状態で尿素呼気試験や迅速ウレアーゼ試験などを行うことはできません2,11)。
※尿素呼気試験や迅速ウレアーゼ試験を行う際のPPI
通常時の検査:2週間中止してから実施
ピロリ除菌治療の効果判定:治療終了から4週間以降に実施
「H2ブロッカー」にウレアーゼ活性を抑制する作用は確認されていませんが、尿素呼気試験では同様に偽陰性になってしまう可能性があります。ただ、その確率は15%程度で、こちらも薬の中止から2週間で正しい結果に戻るとされています12)。
11) 日本ヘリコプター学会「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2024」
12) Am J Gastroenterol.96(2):348-52,(2001) PMID:11232674
+αの情報③:例外的な併用
「PPI」は、食事によって「プロトンポンプ」が活性化している日中の方が効果はよく発揮される傾向にあります13)。そのため、相対的に効果が弱まってくる夜間には、「PPI」を使っていても胃酸の過分泌(Nocturnal Gastric Acid Breakthrough:NAB)の症状が現れることがあります。
この症状は、「PPI」と併せて「H2ブロッカー」を夜に1回追加投与することで解消できる場合があります14)。
13) Best Pract Res Clin Gastroenterol.27(3):401-14,(2013) PMID:23998978
14) J Gastroenterol.38(9):830-5,(2003) PMID:14564627
+αの情報④:新しい胃酸分泌抑制薬、『タケキャブ』
「カリウムイオン競合型アシッドブロッカー(P-CAB)」と呼ばれる、PPIの改良型の胃酸分泌抑制薬『タケキャブ(一般名:ボノプラザン)』が登場しています。
「ボノプラザン」は、「PPI」の弱点であった「立ち上がりの遅さ」や「代謝酵素による個人差」が改善され、ピロリ除菌に対しても「PPI」より成功率が高いことがわかっています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
2年目の初期研修医です。
大変わかりやすく勉強になりました。
これからもお時間のあるときに記事を更新して頂けますととてもうれしいです。