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回答:効果の高い『パタノール』、コンタクトレンズを装着したまま使える『アレジオン』
『パタノール(一般名:オロパタジン)』と『アレジオン(一般名:エピナスチン)』は、どちらも眼のアレルギー症状に使う点眼薬です。
『パタノール』は、効果の高い薬です。
『アレジオン』は、コンタクトレンズをつけたままでも点眼できるように工夫された薬です。
どちらも副作用の少ない点眼薬ですが、眼の痒みや充血といった症状の強さ、コンタクトレンズの有無といった状況によって使い分けるのが一般的です。また、『アレジオン』には1日2回の点眼だけで良い改良版もあります。
回答の根拠①:抗ヒスタミン薬の点眼で、最も効果の高い「オロパタジン」
抗ヒスタミン薬の点眼薬には「ケトチフェン」「レボカバスチン」「オロパタジン」「エピナスチン」といくつか種類があります。効果に劇的な違いは無さそう1)ですが、「オロパタジン」は眼の痒みや充血に対して、最も速く、よく効く傾向が確認されています2,3,4)。
そのため、花粉症などで眼の症状が強く現れている人には、「オロパタジン」の点眼薬が最も適した薬と言えます。
1) Ocul Immunol Inflamm.25(5):663-677,(2017) PMID:27192186
2) Acta Ophthalmol Scand Suppl.2000:(230):52-5,(2000) PMID:11057352
3) Curr Med Res Opin.20(12):1953-8,(2004) PMID:15701212
4) Curr Med Res Opin.23(6):1445-52,(2007) PMID:17559743
点眼薬は使うとすぐに効く
花粉症などによる眼のアレルギー症状には、飲み薬の抗ヒスタミン薬やステロイドの点鼻薬でも、ほとんど同じくらいの効果を得られます5)。そのため、眼の症状があるからといって、必ずしも点眼薬が必要というわけではありません。
しかし、点眼薬は飲み薬や点鼻薬に比べると、使ってすぐ(数十秒から数分程度)で効果が発揮される5)ため、「今すぐ眼の症状を何とかしたい」という時に便利です。
5) Clin Ther.25(8):2245-67,(2003) PMID:14512132
回答の根拠②:コンタクトレンズを装着したままでも使える「エピナスチン」の製剤
点眼薬を安全に使うためには、薬液の中で雑菌が繁殖しないように防腐剤や保存料等を添加する必要があります。このことから、多くの点眼薬には添加物として「塩化ベンザルコニウム」が用いられています。
しかし、この「塩化ベンザルコニウム」は含水性のソフトコンタクトレンズに吸着し、角膜炎を引き起こすことがあります。そのため、「塩化ベンザルコニウム」を含む点眼薬を使う場合は、コンタクトレンズを外してから点眼し、5分ほどしてから装着し直す…といった対策が必要になります6)。
6) CLAO J.24(4):227-31,(1998) PMID:9800062
その点、『アレジオン点眼液』を含むほとんどの「エピナスチン」点眼液には「塩化ベンザルコニウム」が使われていないため、コンタクトレンズを装着したままでも点眼できるようになっています。
1日2回の点眼で良いように改良された『アレジオンLX点眼液0.1%』
「オロパタジン」や「エピナスチン」の点眼液は、通常は1日4回の点眼が必要です。しかし「エピナスチン」の点眼液には、1日に2回だけの点眼で済むように改良された『アレジオンLX点眼液0.1%』があります7)。1日2回であれば点眼の手間が少ないだけでなく、日中に薬を持ち歩かなくて良いため、非常に便利な製剤と言えます。
ただし、『アレジオンLX点眼液0.1%』のジェネリック医薬品の中でも「エピナスチンLX点眼液0.1%「ニットー」」には「塩化ベンザルコニウム」が使われているため、コンタクトレンズを装着している人が使う際は注意が必要です8)。
7) アレジオンLX点眼液0.1% 添付文書
8) エピナスチンLX点眼液0.1%「ニットー」 添付文書
薬剤師としてのアドバイス:点眼液は「1回1滴」で十分
通常、点眼液の1滴は25~50μL程度です9)。しかし、もともとヒトの眼に収容できる液体の量は約30μLで、このうち常に目を潤している涙が約7μLほどありますので、残りの収容力は約23μLほどです。
つまり、点眼液は基本的に「1回1滴」で十分で、それ以上たくさん使っても、眼から溢れ出てしまって無駄になるだけだ、ということです。
特に先発医薬品の『アレジオンLX点眼液0.1%』は、1本2,500円を超えるくらい高額(※1滴で約25円)なため、不必要にたくさんの薬を滴下しないよう気を付けることをお勧めします。
9) 薬剤学.72(5):312-317,(2012)
ポイントのまとめ
1. 『パタノール(オロパタジン)』は、効果や速効性に優れている
2. 『アレジオン(エピナスチン)』は、コンタクトレンズを装着したまま使える
3. 『アレジオンLX』は、1日2回の点眼で済むよう改良された製剤
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆有効成分
パタノール:オロパタジン
アレジオン:エピナスチン
◆適応症
パタノール:アレルギー性結膜炎
アレジオン:アレルギー性結膜炎
◆用法・用量
パタノール:1回1~2滴、1日4回
アレジオン:1回1滴、1日4回
(※『アレジオンLX点眼液0.1%』は1日2回)
◆「塩化ベンザルコニウム」の含有
パタノール:あり
アレジオン:なし
(※「エピナスチンLX点眼液0.1%「ニットー」」には含まれる)
◆薬液のpHと浸透圧比
パタノール:pH=約7.0、浸透圧比=0.9~1.1
アレジオン:pH=6.7~7.3、浸透圧比=0.9~1.1
◆薬価
パタノール:1瓶5mLで482円(1滴4~5円程度)
アレジオン:1瓶5mLで1,131円(1滴10~11円程度)
(※『アレジオンLX点眼液0.1%』は1瓶5mLで2,528円(1滴25円程度))
◆点眼後の自動車運転
パタノール:制限なし
アレジオン:制限なし
◆製造販売元
パタノール:ノバルティスファーマ/協和キリン
アレジオン:参天/日本ベーリンガーインゲルハイム
◆同成分のOTC医薬品
パタノール:(販売されていない)
アレジオン:(販売されていない)
+αの情報①:鎮静性の「抗ヒスタミン薬」は、点眼でも眠気に注意
「抗ヒスタミン薬」には眠くなる副作用があります。点眼薬ではその影響は小さいですが、「ケトチフェン」のような鎮静性の抗ヒスタミン薬の場合、点眼でも内服薬と同様に眠気や集中力・判断力の低下が起こる可能性(脳内ヒスタミン受容体は50%以上占有10))が指摘されています。
こうした全身作用のリスクを軽減するためには、点眼した後は目頭(涙管のあるところ)を軽く押さえて、薬液がすぐに喉の方へ流れていってしまうのを防ぐことが重要です11)。
10) Int J Mol Sci.20(1):213,(2019) PMID:30626077
11) Br J Clin Pharmacol.90(12):3087-3089,(2024) PMID:39462949
+αの情報②:「ケミカルメディエーター遊離抑制薬」との差
眼のアレルギー症状には、「クロモグリク酸Na」や「アシタザノラスト」といった「ケミカルメディエーター遊離抑制薬」を使うこともあります。「抗ヒスタミン薬」との優劣は明らかになっていません12)が、花粉飛散量の多い日などは「抗ヒスタミン薬」の方がより高い効果を期待できる、という報告もあります13)。
効果の高めな「抗ヒスタミン薬」、値段が安く眠くなりにくい「ケミカルメディエーター遊離抑制薬」、という使い分けをするのが一般的です。
12) Cochrane Database Syst Rev . 2015 Jun 1;2015(6):CD009566.PMID:26028608
13) Clin Ther.24(10):1561-75,(2002) PMID:12462286
+αの情報③:点眼薬の刺激や不快感は、薬液のpHや浸透圧比と関係している
点眼液のpHや浸透圧比が、ヒトの涙と近い性質であるほど”さしごこち”は良い、とされています14)。「オロパタジン」や「エピナスチン」の点眼液は、ヒトの涙とほとんど同じ性質のため、使ったときの刺激や不快感が少ない薬と言えます。
一方で、古い薬の『インタール(一般名:クロモグリク酸Na)』点眼液は、人間の涙とpHや浸透圧比が異なるため、使った時に一過性の刺激を感じることがあります。
※pHや浸透圧比
人間の涙:pH=7.25、浸透圧比=1.0
パタノール:pH=7.0、浸透圧比=0.9~1.1
アレジオン:pH=6.7~7.3、浸透圧比=0.9~1.1
インタール:pH=4.0~7.0、浸透圧比=0.25
14) 病院薬学.24(6):597-600,(1998)
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
大学病院の眼科に通院しています。
直近に処方された目薬がアレジオンで、バタノールからの変更だったので
他の記事と併せて大変参考になりました。
ありがとうございました。