『ハートシート』ってどんな薬?~拒絶反応のない自家細胞を使った再生医療製品
記事の内容
回答:太ももの筋肉から採取した細胞を培養し、心臓に移植する
『ハートシート』は、2015年9月に5年間の条件付きでの販売承認がされた、世界初となる心不全治療用の「再生医療製品」です。
患者本人の太もも(大腿部)の筋肉から採取した細胞を培養し、それをシート状にして心臓に貼り付けます。これによって、心不全を改善することができます。
これまで、重症の心不全の効果的な治療は「心臓移植」しかありませんでした。しかし、「心臓移植」はドナー不足も深刻で、更に拒絶反応も起こる恐れがあります。
『ハートシート』はドナーも必要なく、更に自分の細胞を使った治療のため拒絶反応も起こらないことから、従来の心不全治療を変える画期的な薬として期待されています。
実際、大阪大学が「虚血性心筋症」の患者に『ハートシート』を使用したことを2016年8月5日に発表し、話題になっています。
回答の根拠①:作用機序~移植された骨格筋由来の芽細胞が、心筋の再生を促す
心臓の筋肉(心筋)は修復能力を持たないため、一度損傷すると再生することができません。
一方、”筋肉痛”が筋肉の損傷と修復に関係していることが有名なように、他の骨格筋は修復能力を持ち、損傷と修復を繰り返しています。
そのため、修復能力のある骨格筋(の筋芽細胞)を心筋に移植し、心筋の再生を促す試みは多く行われてきました。実際に、心不全や拡張型心筋症などのモデル動物において、骨格筋の細胞を移植することで心筋がある程度再生することが報告されています1,2)。
1) J Thorac Cardiovasc Surg.130(5):1333-41,(2005) PMID:16256786
2) Transplantation.90(4):364-72,(2010) PMID:20555308
回答の根拠②:心臓移植・LVADに代わる、重症心不全の治療の選択肢に
『ハートシート』は、NYHA心機能分類がⅢまたはⅣかつ安静時の左室駆出率35%以下という重症心不全に対する選択肢とされています。
通常、NYHA心機能分類がⅢ~Ⅳの心不全は手術適応となり3)、最も有効な治療方法は「心臓移植」です。しかし、「心臓移植」は日本では特にドナー不足が深刻です。
また、左室補助人工心臓(Left Ventricular Assist Device:LVAD)を使った治療は、移植後の感染症や血栓症などの問題が指摘されています。
3) 日本循環器学会、日本移植学会ほか「慢性心不全治療ガイドライン2010改訂版」
こうした現状で、『ハートシート』は心臓移植やLVADに代わる新しい選択肢として注目されています。
なぜシートなのか?~貼り付ければ、血流で流れてしまわない
これまで、細胞移植ではカテーテル等で患部に注入する方法がとられてきましたが、この方法では血流によって細胞が流れてしまい、移植効率が悪くなっていました4)。
4) Ann Thorac Surg.91(1):320-9,(2011) PMID:21172551
『ハートシート』は細胞をシート状に形成し、それを心臓表面に移植します。この方法であれば、血流で細胞が流れてしまうこともなく、高い移植効率を発揮することが可能です。
+αの情報①:再生医療の実用化として、第一歩
『ハートシート』は、2014年に薬事法が改正され「医薬品医療機器等法」になってから、再生医療製品として初めて承認された医療機器です。
2050年には日本でも2~3兆円規模の市場になると言われている再生医療として、『ハートシート』はその実用化の第一歩と言われています。
iPS細胞などの基礎研究は極めて進んでいるものの、実用化という点では欧米に大きく遅れをとっている中で、日本企業であるテルモ(株)が開発した『ハートシート』に寄せられる期待は大きいと言えます。
+αの情報②:心臓が元通りになるわけではないが、心臓の機能を改善させることに大きな意義
『ハートシート』による改善効果は、移植された筋芽細胞から放出される血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などによる血管新生作用と、それに伴う移植部位の心壁増大による後負荷の軽減によるものとされ、たとえ心不全の病態が改善しても、心筋が再生して心臓が元通りになるわけではないと考えられています5)。
5) 人工臓器41巻3号 「心不全に対する細胞シート移植の現状と展望」 (2012)
それでも、心不全の治療は難しく、心臓移植はドナー不足も深刻です。そのため『ハートシート』によって心臓の機能を改善し、生存率を高めることには大きな意味があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
私は2年半年前心筋梗塞になり44%の心筋壊死を起こしてしまった者(現在61歳)です。
現在CRTDを植え込んでおりますが家族もあり、まだまだ働きたい思いで一杯です。
ハートシートのニュースを聞き可能性に飛びつきました。少しでも現在より動けるようになればと心から思い、この最新記事を拝見いたしました。一つ視界が開けた気がいたします。
有難うございました。