ベンゾジアゼピン系の睡眠薬を使っていると、認知症になる?~長期使用のリスクと、薬に頼らない睡眠習慣改善の勧め
記事の内容
回答:リスクは指摘されているので、薬にばかり頼るのは控えるべき
ベンゾジアゼピン系の薬を長期に渡って使用していると、認知症の発症リスクになる可能性が指摘されています。
しかし当然ながら、”睡眠薬が必要となるような状態”、つまり不眠症や睡眠の質が悪い状態が続くと、認知症に限らず人間の心身には様々な悪影響を及ぼします。そのため、薬を全く飲まずに我慢する、ということもまた大きなリスクにつながります。
特にベンゾジアゼピン系の薬については、薬に頼りきりになって量も種類もどんどん増えていくタイプの人と、全く眠れていないにも関わらず極端に薬に怯えて全く飲まないタイプの人と、二極化しています。
どちらの極端に陥っても健康に害を及ぼす恐れがあり、望ましいものではありません。
ベンゾジアゼピン系の薬も、短期間の使用であればこうしたリスクも考える必要がありません。
睡眠時間を確保すべき時には薬の力を借りることも選択肢に入れながら、根本的な不眠の原因を探り自身の睡眠習慣を見直していく、というバランスの良い姿勢が最も良い方法です。
回答の根拠:認知機能障害のリスク
ベンゾジアゼピン系の薬を使っている人は、全く薬を使っていない人と比べると15年後の認知症発症リスクが1.46~1.6倍になる、とする報告があります1)。
これは平均年齢78.2歳の人を対象に行ったもので、特に高齢者では認知症発症リスクにつながる恐れを指摘したものと言えます。
1) BMJ.345:e6231,(2012) PMID:23045258
また、そもそもベンゾジアゼピン系の薬は知覚処理や運動速度などの認知機能を低下させる作用があります。こうした作用によって不安や焦燥感を緩和する効果が期待できるのですが、あまり長期に渡って使用していると、薬を止めてから半年もの間、こうした機能低下が持続してしまうことも報告されています2)。
2) CNS Drugs.18(1):37-48,(2004) PMID:14731058
これらの報告があることを踏まえると、どんな不眠症にも簡単に睡眠薬を使い、眠れなければ薬をどんどん増やす、という方法がリスクを孕んだものである、ということは容易に想像できます。
実際、不眠症に対しては、永続的に薬を使うのではなく、必要な時に必要な量を使用し、症状が良くなってきたら薬を減量・中止することがガイドラインでも定められています3)。
また、慢性的な不眠症に対しては薬物療法よりも認知行動療法が効果的とする報告4)もあり、薬は必要に応じて最低限の量で使用すべき、という考え方は共通しています。
3) 日本睡眠学会 睡眠薬の適正な使用と休薬のための診療ガイドライン(2013)
4) Ann Intern Med.163(3):191-204,(2015) PMID:26054060
薬剤師としてのアドバイス①:バランスよく考えること
薬に頼りきりになってしまうと、例え睡眠時間は確保できても、薬を減らしていくことができず、副作用や認知機能障害といった新たな問題に悩まされることになってしまいます。
しかし、だからといって薬を拒絶していると、必要な睡眠時間を確保できず、不眠による健康への害が生じてしまいます。
睡眠薬については増やす・減らすといった二者択一の議論をするのではなく、必要な時には薬の力を借りながら、不眠の根本的な原因を探し解決していく、という姿勢が必要です。
特に、睡眠薬を使っているにも関わらず不眠を訴える人の中には、誤った睡眠習慣がより不眠に拍車をかけているケースが多く見受けられます。こうした場合、薬の議論をする前に、まずは睡眠習慣を見直すことが先決です。
薬剤師としてのアドバイス②:見直すべき睡眠習慣の例
高齢者向けの睡眠習慣改善の例には、以下のようなものがあります。
まずはこうした睡眠習慣の見直しを行い、それでも眠れない場合に薬の力を借りるようにしましょう。
また、既に睡眠薬を使っている場合は、薬の量や回数を減らせるよう、こうした睡眠習慣の改善を積極的に行うようにしましょう。
◆「睡眠は8時間」という固定概念にとらわれない
6時間以下の睡眠でも日中に眠くならなければそれで問題ありません。特に高齢になると必要な睡眠時間が短くなる傾向があります。
◆昼寝をし過ぎない
睡眠が足りていると人間は眠れません。諸説ありますが一般的には、昼寝は15時までの時間帯に、15~30分程度で行うのが適切とされています。また、起きた後は、身体を覚醒させるために太陽の光を浴びるようにしましょう。
◆お酒は逆効果
お酒を飲むと、眠りは浅くなって夜中に目が覚めやすくなります。また、トイレも近くなるために目が覚めることもあります。特に「中途覚醒」に悩むのであれば、お酒は完全に逆効果です。
◆タバコを控える
夜は喫煙を控えましょう。ニコチンは精神を刺激するため、寝付きも悪く、眠りも浅くなる方向へ働きます。
◆カフェインを控える
カフェインは目を覚ます効果があり、寝付きを悪くしたり、眠りを浅くしたりします。日本茶、紅茶、コーヒー、コーラ、チョコレート等、カフェインの入ったものはなるべく摂らないようにしましょう。不眠に悩んでいるのであれば、布団に入る4時間前からは控えるべきです。
◆眠れないのに布団に長居しない
起きたまま布団に長居すると、熟睡感が減ります。また、”布団=眠る場所”と身体が認識しなくなり、寝付きも悪くなります。眠くない場合は無理に布団に入らず、また早く目が覚めた場合は積極的に早起きをしましょう。基本的に、早寝早起きの習慣は、早起きが先です。
◆寝る前に食べない
ダイエット等の空腹状態では睡眠の質は下がります。また、就寝前に炭水化物や脂を摂ると、消化活動が活発になるために眠りの妨げになります。寝る前にどうしても何かを口にする際には、暖かい飲み物などにしておきましょう。
◆光や音、温度で妨害されない睡眠環境作り
照明をつけたままでは眠りが妨げられます。寝室はできるだけ暗くしましょう。音も入ってこないよう、ドアをしっかり閉める、雨戸を閉める等工夫しましょう。また、自分が心地よく感じる温度を保つようにしましょう。暖房や冷房の電気代を気にするのは、不眠症が治ってからで良いです。
もし、眠る時に脚がムズムズする、虫が這うような不快感があるなどの場合は「レストレスレッグス症候群」の恐れ、また激しいイビキや息苦しさは「睡眠時無呼吸症候群」など、不眠症とは別のトラブルを抱えている可能性もあります。
そういった場合は、一度主治医に”現状を正しく報告”し、対応を相談するようにしてください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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