「イベルメクチン」は失明だけでなく、食糧問題も解決する薬~日本人のノーベル賞
記事の内容
発展途上国の失明の主な原因、「河川盲目症(オンコセルカ症)」の治療に
日本人が2年連続でノーベル医学・生理学賞を受賞し、話題になっています。今回の受賞は北里大学の大村智氏の「イベルメクチン」という抗寄生虫薬の発見と普及に対するものです。
「イベルメクチン」は、発展途上国で主な失明の原因となる「河川盲目症(オンコセルカ症)」の特効薬として、既に10億人以上に無償配布されていると言われています。
また、イヌやネコ、ウシ、ブタなどの動物用医薬品としても承認されています(例:『カルドメック錠』)。
日本でも使われている「イベルメクチン」の薬
「イベルメクチン」は、日本でも『ストロメクトール』という名前で、腸管糞線虫症や疥癬の治療薬として使用されています。
「イベルメクチン」は静岡県伊東市川奈の土壌から見つかった細菌「Streptomyces avermitilis」が作る「アベルメクチン類」を元に誘導された物質です1)。
1) ストロメクトール錠 インタビューフォーム
各報道では「エバーメクチン」と呼称されていますが、医薬品の添付文書やインタビューフォームでは「アベルメクチン」と記載されています。どちらも「Avermectin」のカタカナ表記です。
河川盲目症(オンコセルカ症)とは
「河川盲目症(オンコセルカ症)」は、ブユを介した寄生虫感染症です。ブユが刺した皮膚の傷口から寄生虫(ミクロフィラリア)が体内に侵入し、皮下組織に寄生してこぶをつくります。
このとき、皮膚には痒み・発疹などの症状が現れます。
また、眼球内部にミクロフィラリアが移動すると、視力の低下や失明にもつながります。
河川盲目症(オンコセルカ症)は、失明の原因の第2位に挙げられており、特に熱帯地域や西アフリカ、南米アマゾン川流域で1800万人以上が感染し、そのうち50万人が視覚障害、27万人が失明に至ると言われています2)。
2012年時点でも27のアフリカ諸国で1億3000万人以上が感染のリスクに曝されていることが報告されています3)。
2) メルクマニュアル 寄生虫感染症「オンコセルカ症」
3) WHO疫学週報 29153-160,No.15,(2014)
食糧問題にもつながる感染症
「河川盲目症(オンコセルカ症)」の問題は、単に失明のリスクのみに留まりません。
通常、ヒトが居住するのは安定した水源を確保できる、大きな河川の流域です。安定した水源があって、安定した食糧生産が可能になるからです。
ところが、「河川盲目症(オンコセルカ症)」は河川で繁殖するブユによって引き起こされるため、多くの人は河川の近くに居住することを避けます。これが「リバー・ブラインド」と呼ばれる所以です。
その結果、ヒトは安定した食糧生産が可能な河川流域から距離をとって生活するため、これが食糧不足の原因の一つにもつながっています。
副作用も少ない特効薬「イベルメクチン」
一般的にブユに何度も刺されなければ感染症を起こさないため、一時的に立ち入った程度では発症しません。また、根本的にブユに刺されなければ感染もしないため、防護服を着ることや、虫よけを使用することで防ぐことも可能です。
更に、「イベルメクチン」を年2回使用することで劇的に感染を減らすことも可能とされています1)。特に、年2回の「イベルメクチン」の集団投与が開始されてからわずか10年の間に、感染率が63%から20%にまで低下したとする報告もあります4)。
4) 第9回オンコセルカ症インターアメリカン会議(IACO’99)
こうした年2回の投与という量・頻度で使用する限り、ほとんど副作用の心配もありません。そのため、世界保健機関(WHO)とメルク社はこれまでに無償で10億人以上に「イベルメクチン」を配布するプログラムを行っています。
「河川盲目症(オンコセルカ症)」の感染をコントロールできれば、ヒトが大きな河川流域にも居住可能になるため、発展途上国で大きな問題になっている食糧問題も解決できる可能性があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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