『エビプロスタット』ってどんな薬?~前立腺肥大に用いる植物エキスの配合薬
記事の内容
回答:5種の植物エキスを配合した薬で、軽症例によく使う
『エビプロスタット』は、5種の植物エキスを配合した、前立腺肥大に伴う排尿困難や頻尿といった症状改善薬です。
『エビプロスタット配合錠SG』と『エビプロスタット配合錠DB』の2種がありますが、どちらも有効成分は同じで、DBはSGの2倍量の錠剤です。
前立腺肥大の治療や症状改善には、主に『ハルナール(一般名:タムスロシン)』・『ユリーフ(一般名:シロドシン)』・『フリバス(一般名:ナフトピジル)』等のアドレナリン受容体に作用する薬が第一選択薬として使われます。
しかし、こうした薬は効果も高い反面、厄介な副作用があるもの事実です。
植物エキスの薬である『エビプロスタット』は、効果も緩和ではあるものの副作用も少ないため、そこまで症状が進んでいない軽症の患者によく使用されます。
回答の根拠①:前立腺肥大による膀胱トラブルの原理
前立腺肥大が起こると、尿路が圧迫されて狭くなります。これによって血流も悪化します。
排尿によって圧迫が緩和されると血流は戻りますが、このときに膀胱では「虚血再灌流障害」が繰り返し発生します。
その結果、繰り返される虚血と再灌流によって、大量のフリーラジカル(酸化ストレス)や炎症物質が産生され、膀胱の神経や筋肉に損傷と炎症が起こります。
これが、前立腺肥大によって排尿障害や頻尿、残尿感といった症状が進んでいく原因となっています。
回答の根拠②:植物エキスの薬効
『エビプロスタット』には、以下の5種の植物エキスが配合されています。
※エビプロスタット配合錠DBの有効成分(SGはこの半分量) 1)
オオウメガサソウエキス・・・・・1mg
ハコヤナギエキス・・・・・・・・・・1mg
セイヨウオキナグサエキス・・・1mg
スギナエキス・・・・・・・・・・・・・・2mg
精製小麦胚芽油・・・・・・・・・・・30mg
1) エビプロスタット配合錠DB 添付文書
オオウメガサソウ Chimaphila umbellata
「オオウメガサソウ」は、北アメリカで膀胱炎や頻尿に対する民間薬として使われてきた歴史があります。自生するものは準絶滅危惧種にも指定される貴重な植物です。
「オオウメガサソウ」のエキスには、酸化ストレスの本体であるスーパーオキシドやヒドロキシラジカルを消去する作用2)や、尿路における抗菌・利尿作用があります3)。
2) Phytomedicine.14(7-8):465-72,(2007) PMID:17583488
3) エビプロスタット配合錠DB インタビューフォーム
ハコヤナギ Populus tremula
「ハコヤナギ」は、ヨーロッパでは「ポプラ」、日本では「ヤマナラシ」と呼ばれる樹木のことです。ヨーロッパではこの樹の皮を膀胱炎や排尿困難の薬として利用してきた歴史があります。
「オオウメガサソウ」と同様に酸化ストレス軽減効果があります2)。
セイヨウオキナグサ Pulsatilla pratensis
「セイヨウオキナグサ」は、ヨーロッパで泌尿器系・生殖器系の炎症止めの民間薬として使われてきた歴史があります。
「セイヨウオキナグサ」のエキスには、尿路の抗菌作用3)と共に、酸化ストレスの本体であるヒドロキシラジカルを消去する効果2)があります。
スギナ Equisetum arvense
「スギナ」は、日本では「つくし」として馴染みのある植物です。「つくし」自体も薬草・ミネラル源として食用にされますが、これに着目して「スギナ茶」なども売られています。
「オオウメガサソウ」と同様、酸化ストレスの本体であるスーパーオキシドやヒドロキシラジカルを消去する作用2)と、尿路における抗菌・利尿作用3)を併せ持っています。
小麦胚芽油
「小麦胚芽油」は、小麦の胚芽からとれる油のことで、ビタミンEが豊富に含まれることで知られています。ビタミンEは抗酸化作用を持つものとしても有名です。
薬剤師としてのアドバイス:症状が進んだ例には、『ハルナール』や『ユリーフ』などを使う
『エビプロスタット』は、副作用も少ない分、効果も緩和です。
そのため、前立腺肥大症の診療ガイドラインにおいても、推奨グレードは「C1」に分類され、第一選択薬である『ハルナール』・『ユリーフ』・『フリバス』等の推奨グレード「A」とは大きな差があります。
あくまで、症状が進む前の軽症例に用いることや、補助的に使用するといった使い方をされる薬であって、この薬を主体に治療を進めていくような薬ではありません。
※推奨グレードの内容
A・・・行うよう強く勧められる
B・・・行うよう勧められる
C1・・・行うよう勧めるだけの根拠は明確ではないが、行うよう勧められるコンセンサス(意見や合意)がある
C2・・・行うよう薦めるだけの根拠が明確でなく、行うよう勧められるコンセンサス(意見や合意)もない
D・・・行わないよう勧められる
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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