『メトグルコ』等の「メトホルミン製剤」が持つ”Legacy effect”って何?~肥満型が少ない日本でも期待できるか
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回答:治療を終えてから10年後でも、合併症を抑制した
「メトホルミン製剤」の治療は、その治療を終えた後も10年間に渡って予後を改善する効果が持続します。
治療を終えた後も続くこの効果を”Legacy effect(遺産効果)”と呼びます。
ただし、これらの効果は”肥満を伴う2型糖尿病患者”に対して評価されたもので、欧米よりも肥満が少ない日本でも全く同じことが言えるかどうかについては議論があります。
回答の根拠①:【UKPDS34】と【UKPD80】という臨床試験
1998年、肥満を伴う2型糖尿病に対して、「メトホルミン製剤」の治療と、SU剤やインスリンを使った治療とを比較する試験が行われました。
その結果、「メトホルミン」製剤の方が心筋梗塞や脳卒中、糖尿病関連死を抑制する効果が高い、という結果が出ます1)。
更に、この比較試験が終わってから10年間を追跡調査したところ、「メトホルミン製剤」での治療を行っていた人たちの方が予後も良く、合併症が抑制されていたことが報告されました2)。
1) Lancet.352(9131):854-65,(1998) PMID:9742977 通称【UKPDS34】
2) N Engl J Med.359(15):1577-89,(2008) PMID:18784090 通称【UKPDS80】
1998年の比較試験が終わった後は、一切治療への介入はないため、「メトホルミン製剤」での治療を行っていた人たちと、SU剤やインスリンで治療を行った人たちとは、同じ条件で暮らしています。
にも関わらず、「メトホルミン製剤」で治療を行った人たちの方が合併症が少なかったということは、つまり「メトホルミン製剤」の治療は、治療を終えた後も10年間に渡って効果が持続することを示唆しています。
治療を終えた後も続くこの効果を”Legacy effect(遺産効果)”と呼びます。
この研究では、早期段階から血糖をコントロールすることが、後々の合併症抑制につながることも併せて証明されています。
回答の根拠②:日本には、非肥満型の糖尿病も多い
欧米では肥満が多いため、米国糖尿病学会(ADA)や欧州糖尿病学会(EASD)は「メトホルミン」製剤を2型糖尿病の第一選択薬として推奨しています。
しかし、「メトホルミン製剤」の”非肥満型”の糖尿病患者への効果は、他の薬と差がないという報告もあります3)。
そのため、欧米に比べて肥満型の少ない日本では「インスリン分泌促進薬」や「DPP-4阻害薬」による治療が適しているという意見もあります。
3) Diabetes Care.29(11):2361-4,(2006) PMID:17065668
薬剤師としてのアドバイス:情報収集時には、民族や国民の習慣も踏まえて
「メトホルミン製剤」やUKPDS80の情報を収集すれば、「メトホルミン製剤」が非常に優れた薬であることがわかります。
確かにこれは一つの事実なのですが、同時にこれらの報告は”肥満を伴う2型糖尿病”への効果であり、日本では欧米に比べて肥満が少ないこと、そして非肥満型に対しては効果に差がないという事実も知っておく必要があります。
そのため、2型糖尿病に対して「メトホルミン製剤」が処方されないからといって、その治療方法が誤っているわけではありません。また、「メトホルミン製剤」を第一選択薬に選ばない日本が遅れている、というわけでもありません。
情報収集の際にはエビデンスレベルはもちろんのこと、研究対象となった民族や国の習慣も踏まえて読み込む必要があると言えます。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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