『ペンタサ』と『アサコール』、同じ「メサラジン」製剤の違いは?~ドラッグ・デリバリー・システムの違いによる適応症の差
記事の内容
回答:小腸から大腸に作用する『ペンタサ』と、大腸に特化した『アサコール』
『ペンタサ(一般名:メサラジン)』と『アサコール(一般名:メサラジン)』は、どちらも抗炎症作用を持つ「メサラジン」の薬で、潰瘍性大腸炎の治療に用います。
『ペンタサ』は、小腸から大腸の広い範囲に作用するため、「潰瘍性大腸炎」だけでなく、小腸に病変のある「クローン病」にも効果があります。
『アサコール』は、小腸をそのまま通過し、回腸から大腸で作用するため、「潰瘍性大腸炎」の治療に特化した薬です。
「メサラジン」は、そのまま飲むと小腸で吸収されてしまうため、何らかの方法で薬を大腸まで届ける必要があります。
『ペンタサ』と『アサコール』は同じ成分の薬ですが、薬を大腸まで届けるための製剤工夫(ドラッグ・デリバリー・システム(DDS))が違うため、作用する範囲や適応症が異なります。
回答の根拠①:小腸から大腸まで広く薬が作用する『ペンタサ』
『ペンタサ』は、有効成分「メサラジン」を「エチルセルロース」でコーティングした放出調節製剤です1)。このコーティングには小さな穴がたくさん空いているため、そこから少しずつ薬が放出されます。
そのため『ペンタサ』は、小腸から大腸にかけて広く薬が作用し、「潰瘍性大腸炎」だけでなく、小腸に病変のある「クローン病」にも効果があります2)。
1) ペンタサ錠 インタビューフォーム
2) ペンタサ錠 添付文書
回答の根拠②:大腸でのみ溶ける、『アサコール』の放出調節システム
『アサコール』のコーティングは、pH7以上になると溶けるように設計されています3)。
3) アサコール錠 インタビューフォーム
胃や小腸では、胃酸があるためにpHは酸性に傾いています。そのため、薬のコーティングは溶けずにそのまま通過します。pH7以上になる回腸~大腸に到達すると、ここで初めてコーティングが溶けて薬が作用し始めます。
「潰瘍性大腸炎」の治療効果は、大腸での「メサラジン」濃度と相関します4)。そのため、大腸に高い濃度で「メサラジン」を届けられる『アサコール』は、「潰瘍性大腸炎」の治療に特化した薬と言えます。
4) Gut.47(3):410-4,(2000) PMID:10940280
胃酸を抑える薬との相互作用
胃内のpHは胃薬のPPIで大きく変動します。しかし、『アサコール』はPPIと併用しても、「メサラジン」の放出には影響ないことが報告されています5)。
5) Br J Clin Pharmacol.46:173-175,(1998) PMDI:9723828
薬剤師としてのアドバイス:薬は、1回量をまとめて全部1回で飲み込む必要はない
『ペンタサ』や『アサコール』は、飲む錠剤の数が多いのが難点です。
しかし、1回量の錠剤を、まとめて全部1回で飲み込まなければならないというわけではありません。特に、多くの錠剤をまとめて飲み込もうとすると、喉の反射によって吐き気を催す場合があります。
錠剤が大きかったり多かったりして飲みづらい場合には、1錠ずつ飲むようにしてください。
特に、『ペンタサ』や『アサコール』のように錠剤に工夫がされている薬を割ったり砕いたりすると、正しく薬が作用しなくなり、治療効果に影響してしまう恐れがあります。飲みにくいからといって、自己判断で薬に手を加えないようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ペンタサ』と『アサコール』は、どちらも「メサラジン」の薬で、腸への届き方が異なる
2. 『ペンタサ』は、小腸から大腸にかけて広く作用するように設計されている薬
3. 『アサコール』は、大腸に高い濃度で薬を届ける「潰瘍性大腸炎」に特化した薬
添付文書記載内容の比較
■効能・効果
ペンタサ:潰瘍性大腸炎(重症を除く)、クローン病
アサコール:潰瘍性大腸炎(重症を除く)
■用法
ペンタサ:通常1日3回、活動期は1日2回・寛解期は1日1回も可
アサコール:通常1日3回、寛解期は1日1回も可
■用量
ペンタサ:1,500~4,000mg
アサコール:2,400~3,600mg
■主な副作用
ペンタサ:下痢(2.61%)、血便(1.11%)、腹痛(0.99%)、発疹(0.67%)、発熱(0.59%)など
アサコール:腹痛(2.9%)、下痢(2.1%)、頭痛(1.3%)、腹部膨満(1.3%)、悪心(1.3%)など
■取扱い上の注意
ペンタサ:かまずに服用、粉砕も避ける。ただし、必要に応じて二分割して服用可
アサコール:かまずに服用、粉砕も行わない
■剤型の種類
ペンタサ:錠(250mg、500mg)、顆粒、坐剤、注腸
アサコール:錠(400mg)
■製造販売元
ペンタサ:杏林製薬
アサコール:協和発酵キリン・ゼリア新薬工業
+αの情報①:潰瘍性大腸炎は、きちんと服薬することで9割が寛解へ
潰瘍性大腸炎は、『ペンタサ』や『アサコール』の服用をきちんと続けることで、9割近くが寛解を維持できることが知られています。その一方で、飲み忘れ等があるとこの効果は4割程度にまで落ちてしまいます6)。
6) Am J Med.114:39-43,(2003) PMID:12543288
1回に服用する錠剤の数も多くなる傾向がありますが、症状が治まってきたからといって勝手に薬を止めてしまわず、徹底して薬の服用を続けることをお勧めします。
+αの情報②:1日1回で良い『リアルダ』
『ペンタサ』や『アサコール』は、通常1日3回飲む必要があり、1回に飲む錠剤の数も多い傾向があります。こうした服用回数・錠数の多さは、飲み忘れや治療中断などの原因になってしまいます。
新しく登場した『リアルダ(一般名:メサラジン)』は、1日1回の服用で済む薬で、こうした負担を減らせる薬として期待されています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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