β2刺激薬は、なぜドーピングの禁止薬物に選ばれているの?~喘息治療はドーピングになるのか
記事の内容
回答:大量に使うことで、筋力増強の効果が期待できるから
β2刺激薬は、呼吸を楽にするための「気管支拡張薬」として、子どもから大人の喘息まで幅広く使われています(例:『ホクナリン(一般名:ツロブテロール)』のテープ剤)。
しかし、β2刺激薬は大量に使用すると、交感神経興奮作用や蛋白同化作用による「筋力増強」の効果が得られる可能性があります。
薬物によって筋力を増強することは全面的に禁止されているため、間接的な作用であっても筋力増強の効果が期待できるβ2刺激薬は、「世界アンチ・ドーピング規程(WADA)」によって禁止薬物に指定されています。
ただし、筋力増強の効果が見込めない、つまり全身的な作用が少ない「吸入薬」を使った喘息治療は、薬の種類と使う量によっては許可されているものがあります。スピードスケートの清水宏保選手やフィギュアスケートの羽生結弦選手らが、喘息の「吸入薬」を使用しながらオリンピックでメダルを獲得していることも有名です。
β2刺激薬は全て、WADAの禁止薬物
全てのβ2刺激薬は、競技会の期間中だけでなく日頃から常に使用が禁止されています1)。これは、β2刺激薬を大量に使用した場合、交感神経刺激作用・蛋白同化作用を介して筋力増強効果が得られることがあるからです。
※常時使用禁止に指定されているβ2刺激薬の例
『ベネトリン(一般名:サルブタモール)』
『ブリカニール(一般名:テルブタリン)』
『ホクナリン(一般名:ツロブテロール)』
『メプチン(一般名:プロカテロール)』
『ベロテック(一般名:フェノテロール)』
『スピロペント(一般名:クレンブテロール)』
『オンブレス(一般名:インデカテロール)』
しかし、以下の3種類のβ2刺激薬は、例外として喘息治療のための使用が許可されています1)。ただし、治療に即した使い方をするよう決められており、1日量をまとめて1回で吸入することや、複数のβ2刺激薬を併用するなどの方法は「監視プログラム」で制限されています。
※例外的に許可されているβ2刺激薬(吸入薬3種)
『サルタノール(一般名:サルブタモール)』:ただし24時間で最大1600μg
『オーキシス(一般名:ホルモテロール)』:ただし24時間で最大54μg
『セレベント(一般名:サルメテロール)』:ただし推奨される治療法のみ
1) 世界アンチドーピング機構 「2016年禁止表(常に禁止されるもの(競技会(時)および競技会外)」
許可されている薬でも、大量に使った場合は違反になる
例外的に許可されたβ2刺激薬も、大量に使用した場合は違反と見なされます。
※違反と見なされる可能性があるケース 1)
尿中の「サルブタモール」が1000 ng/mLを越える場合
尿中の「ホルモテロール」が40 ng/mLを越える場合
なお、尿量を増やす『ラシックス(一般名:フロセミド)』などの利尿薬を使うことで、尿中薬物濃度を低く見せかけることができます。そのため、利尿薬はドーピングを隠蔽させる恐れがあるとして、禁止薬物に指定されています1)。
ステロイドの吸入薬にも、使えるものがある
喘息治療の中心となるステロイドの「吸入薬」にも、使用が許可されているものがあります1)。ただし、あくまで「吸入薬」だけで、同じ有効成分でも「内服薬」は禁止(競技会時のみ)されています。
※使用が許可されている吸入ステロイド 1)
『オルベスコ(一般名:シクレソニド)』
『パルミコート(一般名:ブデソニド)』
『フルタイド(一般名:フルチカゾン)』
『キュバール(一般名:ベクロメタゾン)』
『アズマネックス(一般名:モメタゾン)』
また、以下のステロイドとβ2刺激薬の配合吸入薬も、治療目的での使用が許可されています2)。
※使用が許可されている吸入ステロイド+β2刺激薬の配合薬
『シムビコート(一般名:ホルモテロール+ブテゾニド)』
『フルティフォーム(一般名:ホルモテロール+フルチカゾン)』
『アドエア(一般名:サルメテロール+フルチカゾン)』
2) 日本薬剤師会 「薬剤師のためのドーピング防止ガイドブック 2015年版」
薬剤師としてのアドバイス:市販の風邪薬や漢方薬でも禁止薬物になることに注意
「風邪薬を飲んだらドーピングに引っかかった」という話はよく耳にします。これは、市販の風邪薬にもよく配合されている「エフェドリン」類が、競技会中の禁止薬物に指定されているからです。
また、漢方薬に使われる「麻黄」や「半夏」などの生薬にも「エフェドリン」は含まれています。そのため、漢方薬であれば安心というわけでもありません。
安易に市販の風邪薬を服用すると、たとえ用法・用量を守って使用していたとしても、ドーピング検査で引っかかる恐れがあります。競技者はドーピングに対して理解すると共に、競技会の期間中に薬を使用する際には必ず医師・薬剤師に相談し、故意ではない禁止薬物の服用にも気を付けるようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 「β2刺激薬」は、大量使用で間接的な筋力増強作用が得られるため、禁止薬物に指定されている
2. 喘息の治療を目的に使う適切な量の「吸入のβ2刺激薬」は、種類や量によっては例外的に許可されている
3. 喘息治療にステロイドやβ2刺激薬を使う場合、ドーピング違反にならないものを選び、正しく使う必要がある
+αの情報:生薬に含まれる「ヒゲナミン」も禁止薬物に
2017年1月1日から、「ヒゲナミン」もβ2刺激薬の禁止薬物として例示されています。
「ヒゲナミン」は、「呉茱萸(ゴシュユ)」や「附子(ブシ)」、「細辛(サイシン)」、「丁子(チョウジ)」、「南天(ナンテン)」などの生薬に含まれています。
これらの成分は、「栄養補助食品」や「のど飴」などにも含まれていることがあるため、使用にはより注意が必要です。成分名を必ず確認の上で使用するようにしてください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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