『麻黄湯』はインフルエンザに効く?~抗ウイルス薬との比較と使いどころ、重症化リスク
記事の内容
回答:普段元気な人であれば、病院へ行かずに『麻黄湯』で対応するのもアリ
漢方薬の『麻黄湯』は、インフルエンザに対して『タミフル(一般名:オセルタミビル)』などの抗ウイルス薬に劣らない効果も報告されています。
普段元気で持病もない人であれば、インフルエンザの疑いで必ずしも病院へ行く必要はないため、ドラッグストア等で購入できる『麻黄湯』がセルフメディケーションの選択肢として非常に便利です。
ただし、インフルエンザが重症化しやすいリスクを抱えている人、あるいは重症化の兆候が見られた際には病院受診をお勧めします。
回答の根拠①:抗ウイルス薬に劣らない『麻黄湯』の効果
『麻黄湯』にはウイルス増殖抑制作用があり、初期のインフルエンザに保険適応もある薬2)です。
実際、『麻黄湯』による症状緩和の効果は、『タミフル』や『リレンザ(一般名:ザナミビル)』といった抗ウイルス薬と差がないという報告もあります3)。
1) Cell.124(4):729-40,(2006) PMID:16497584
2) ツムラ麻黄湯エキス顆粒(医療用) 添付文書
3) J Infect Chemother.18(4):534-43,(2012) PMID:22350323
そのため、インフルエンザの重症化リスクを抱えていない人であれば『麻黄湯』と解熱薬の「アセトアミノフェン」くらいを準備しておけば、病院へ行かずにインフルエンザの治療を行うことも可能です。
『麻黄湯』であれば、インフルエンザでなくても効果がある
『麻黄湯』はインフルエンザ専用の薬ではなく、発汗や解熱・鎮痛・鎮痛・去痰などの作用を示す生薬を配合したものです4)。そのため、たとえインフルエンザでなくても、高熱があって節々が痛む・喉が痛い、咳が出るといった症状に効果が期待できます。
4) 三考塾 「漢方常用処方解説(第53版)」
こういった点で、「インフルエンザかどうか怪しい」という状態で使えるセルフメディケーションの選択肢として、非常に便利な薬と言えます。
回答の根拠②:病院を受診した方が良いケース
インフルエンザは普通の風邪と違って、時に「重症化」することもあります。そのため、「重症化」のリスクを抱える人や、「重症化」の兆候が見られた場合には、すぐに病院を受診することが大切です。
このとき、インフルエンザの「重症化」とは、38℃以上の高熱が出て関節が強く痛むことではなく、死亡や入院など生命に関わる事態に陥ることを指す点に注意が必要です。
※インフルエンザが「重症化」しやすい人 5)
年齢:5歳未満(特に2歳未満)、65歳以上(特に介護施設の長期居住者)
女性:妊娠中または産後2週間
体質:BMIが40以上
持病:糖尿病、喘息や慢性閉塞性肺疾患(COPD)、免疫不全、心不全・不整脈、腎障害・肝障害
服薬:「ステロイド」の内服中、「アスピリン」を長期服用している小児
※インフルエンザの「重症化」の兆候 6)
・呼吸困難や息切れ、呼吸が速い
・胸部や腹部の痛みと圧迫感
・眩暈や混乱、意識の混濁、反応が鈍い
・青みがかった肌
・ひどい嘔吐
・一旦症状が治まってからの再悪化
5) CDC 「People at High Risk of Developing Serious Flu–Related Complications」
6) CDC 「Influenza(Flu) What are the emergency warning signs of flu sickness?」
薬剤師としてのアドバイス:「インフルエンザに対するセルフメディケーション」という選択肢
健康な人であれば、基本的にインフルエンザは薬を使わなくても3~4日で治癒するため、家で寝ているだけでも十分です。しかし、実際に発症すると高熱や関節痛などの症状もけっこう辛いことから、少しでも早く回復したいと思うのが普通です。『タミフル』などの抗ウイルス薬は、症状のある時間を24時間ほど短縮させる程度の効果しかないと言われることもありますが、その効果がありがたく、薬を欲しいと思うのは無理ありません。
しかし、インフルエンザの流行期はどの病院も混雑していて待ち時間も長くなるほか、もし自分が「インフルエンザでなかった場合」には、他の人から本当にインフルエンザを伝染されてしまうリスクもあります。
そういった場合には、ドラッグストア等で購入できる上に、インフルエンザかどうかを問わず高熱や関節痛などの症状に効果が期待できる『麻黄湯』が非常に良い選択肢になります。インフルエンザの疑いで病院を受診するのが辛いと感じる人は、「インフルエンザに対するセルフメディケーション」という方法も考えてみることをお勧めします。
ただし、その際には「重症化」のリスクや兆候には十分に注意するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『麻黄湯』は、インフルエンザに対して「抗ウイルス薬」に劣らない効果も報告されている
2. 『麻黄湯』はドラッグストア等でも購入できるため、常備薬として準備しておくと便利
3. インフルエンザは時に重症化することもあるため、リスクや兆候の見落としには注意
+αの情報①:類似の漢方薬
インフルエンザ(流感)に保険適応のある漢方薬は、『麻黄湯』の他にもいくつかあります。『麻黄湯』はもともと元気な人(実証)向けの処方で、エフェドリンやカンゾウなども含むため、高齢者などに対する安易な使用には注意が必要です。
『柴胡桂枝湯』:『麻黄湯』ほど、初期・急性期ではない状態向け
『竹茹湯胆湯』:『麻黄湯』ほど、元々の体質が丈夫ではない人向け
+αの情報②:「感染」や「重症化」の予防にはワクチンが最も効果的
インフルエンザの予防策として、テレビなどでは色々な方法が紹介されています。しかし、実際にきちんと効果が検証された上で、最も効果的な方法とされているのはワクチン接種です7)。SNS等では「予防接種していてもインフルエンザに罹った、だからワクチンは意味がない」といった意見が出回ることもありますが、まずはワクチンの効果を正しく理解することが大切です。
7) WHO 「How can I avoid getting the flu?」
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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