『ノウリアスト』ってどんな薬?~wearing off現象の改善と、GABAシグナルの調整
記事の内容
回答:wearing off現象の改善に用いる
『ノウリアスト(一般名:イストラデフィリン)』は、パーキンソン病の治療薬「L-ドパ」の効果を増強し、作用時間を延長する作用があります。この作用により、「L-ドパ」の効果が切れてしてしまう「wearing off現象」を改善します。
また、脳の線条体にあるアデノシンA2A受容体に拮抗することで、運動機能を抑制するGABAシグナルを弱め、運動機能を高めます。
こうした作用によって、主たる治療薬「L-ドパ」製剤の効果を安定させ、パーキンソン病の治療効果を高めることを目的に使用されます。そのため、通常は単独では使用せず、必ず「L-ドパ」製剤と併用します。
回答の根拠①:L-ドパの作用増強と作用時間延長
パーキンソン病ではドパミン不足が起こっているため、ドパミンを補充する薬物治療が行われます。しかし、ドパミンはそのまま服用しても脳に到達しないため、前駆物質である「L-ドパ」を薬として使用します。
この「L-ドパ」は半減期が55分と非常に短い薬ですが、薬の効果は数時間以上持続します。これは、血液中の薬が消失しても、生成したドパミンが線条体シナプス小胞に保持されているからです。
ところが、ドパミン神経の脱落が進行すると、線条体シナプス小胞に保持できるドパミン量が少なくなります。保持されていないドパミンは速やかに分解されてしまいます。
その結果、薬でいくらドパミンを補充しても保持できず、半減期の通り短時間でドパミンが枯渇してしまうようになります。
これを「wearing off現象」と言います。
「wearing off現象」では、次の薬の服用前、特に昼前や夕方に症状が悪化し、無動や歩行困難が目立つようになります。
『ノウリアスト』は「L-ドパ」と併用することで、「L-ドパ」の作用を増強し、作用時間を延長する作用を持っています1)。この作用によって「wearing off現象」を改善することができます。
1) ノウリアスト錠 添付文書
回答の根拠②:アデノシン受容体に対する作用
『ノウリアスト』は、アデノシンA2A受容体を遮断します1)。
このアデノシンは、GABAシグナルを興奮させる作用を持っています。
GABAシグナルは、運動機能を抑制する作用を持っています。
つまり『ノウリアスト』は、運動機能を抑制する神経を弱めることによって、運動機能を維持します。
パーキンソン病ではドパミン分泌が減少することによって、相対的にアデノシンの作用が強くなっています。そのため、アデノシンを阻害することで運動機能を正常に整えることができます。
+αの情報:wearing off現象への対応
「wearing off現象」は薬」を正しく使っていたとしても、5~10年と治療を続けていると起きてしまう可能性があります。このとき重要なのは、「wearing off現象」によって生活に不便を来たすことなく、日常生活を送りながら治療を継続できるような方法をとることです。
そのためにまずは、「L-ドパ」の効果が切れてしまわないよう、服用間隔を短くし1日3~4回服用に増やすか、あるいはドパミン神経を直接動かす「ドパミン作動薬」を併用します。
※ドパミン作動薬の例
麦角系:『カバサール(一般名:カベルゴリン)』
非麦角系:『ビ・シフロール(一般名:プラミペキソール)』、『ミラペックス(※ビ・シフロールの徐放製剤)』、『レキップ(一般名:ロピニロール)』
若年者では、高齢者に比べて「wearing off現象」が起こりやすいことが報告されています2)。そのため、若年者では「L-ドパ」よりも「ドパミン作動薬」を治療開始薬とすることが推奨されています3)。
2) Neurology.41(2 ( Pt 1)):202-5,(1991) PMID:1992362
3) 日本神経学会「パーキンソン病治療ガイドライン」 (2011)
薬剤師としてのアドバイス:wearing off現象は診察室ではわからない
「wearing off現象」は、診察室では見つけにくい現象です。そのため、次の薬の服用前、特に昼前や夕方に症状が悪化し、無動や歩行困難が目立つようになった場合、本人あるいは家族が医師にその旨を伝える必要があります。
「wearing off現象」への対応は容易ではありません。安易に薬の量を増やすと、精神症状などの副作用を招く恐れがありますが、一方で副作用を恐れて薬の量が足りなくなると、薬が切れて動けなくなってしまいます。
こうしたジレンマを解消するためにも、『ノウリアスト』は期待されている薬と言えます。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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