『ロキソニン』と『セレコックス』、同じ鎮痛薬の違いは?~速効性と持続性、COX-1・COX-2と副作用の関係
記事の内容
回答:速く効く『ロキソニン』、長く効いて胃にも優しい『セレコックス』
『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』と『セレコックス(一般名:セレコキシブ)』は、どちらもNSAIDsに分類される痛み止めです。
速く効くのは『ロキソニン』、長く効くのは『セレコックス』です。
また、『セレコックス』は『ロキソニン』よりも胃にやさしいほか、常用量であれば「アスピリン喘息」でも比較的安全に使えるといった特徴がありますが、値段はやや高めです。
回答の根拠①:鎮痛効果の強弱と、速効性・持続性の比較
一般的な痛みに対して、「ロキソプロフェン」と「セレコキシブ」の鎮痛効果の強さは同程度とされています1,2,3)。
1) Prog Med.29(suppl.2):2853-72,(2009)
2) J Orthop Sci.21(2):172-7,(2016) PMID:26888227
3) Int J Oral Maxillofac Surg.43(12):1509-13,(2014) PMID:25270186
「ロキソプロフェン」は速効性に優れた薬で、通常は飲んで1時間以内に効き始めるため、頭痛や生理痛のような急な痛みに適した痛み止めです。しかし、腰痛やケガ、手術後などのように昼夜を問わず痛みが続いている状況では、「ロキソプロフェン」では夜間に効果が切れて痛みがぶり返してくることがあります。
こういった際には、効果が長続きする「セレコキシブ」が適しています。
実際、「ロキソプロフェン」を1日3回で服用するよりも、「セレコキシブ」を1日2回で服用する方が鎮痛効果は長続きし、特に夜間の痛みに対してより効果的であることが報告されています4)。
4) Mod Rheumatol.24(1):144-9,(2014) PMID:24261771
回答の根拠②:「COX-1」と「COX-2」の違いと、胃粘膜への副作用
「ロキソプロフェン」と「セレコキシブ」は、どちらも酵素「シクロオキシゲナーゼ(COX)」を阻害することで炎症・痛み・発熱を和らげる作用を持ちます。
この「COX」には、似た構造の「COX-1」と「COX-2」という2つのサブタイプが存在しています。
COX-1:日常的に存在し、胃の血流を維持して胃粘膜を保護しているもの
COX-2:ケガなどで組織が傷ついた時に増え、炎症・痛み・発熱を起こすもの
「ロキソプロフェン」や『ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)』といった一般的なNSAIDsは、「COX-1」と「COX-2」の両方を阻害します。そのため、炎症や痛み・発熱を抑えると同時に、胃粘膜を荒らす副作用を起こしてしまいます。
一方、「セレコキシブ」は「COX-2」を選択的に阻害します5)。そのため、胃粘膜への副作用は少ないまま、鎮痛効果を発揮することができます。実際、「セレコキシブ」では、消化性潰瘍などの胃腸障害が通常のNSAIDsよりも起こりにくいことが確認されています6,7,8)。
5) セレコックス錠 添付文書
6) Digestion.83(1-2):108-23,(2011) PMID:21042022
7) Lancet.376(9736):173-9,(2010) PMID:20638563
8) Am J Gastroenterol.95(7):1681-90,(2000) PMID:10925968
ただし、あくまで”起こりにくい”だけで、起こらないわけではないため、「セレコキシブ」も消化性潰瘍がある人には禁忌5)であるほか、PPIや『ムコスタ(一般名:レバミピド)』などの薬と一緒に使うこともあります。
「アスピリン喘息」に対する、「セレコキシブ」の安全性
「アスピリン喘息」は解熱鎮痛薬が原因で起こるアレルギーですが、主に「COX-1」が関与していることがわかっています。そのため、「COX-1」に対する作用の少ない「セレコキシブ」は常用量であれば安全に投与できる、とされています9,10)。
9) J Allergy Clin Immunol.118(4):773-86,(2006) PMID:17030227
10) 日本アレルギー学会 「喘息予防・管理ガイドライン(2021)」
「アスピリン喘息」の患者さんが使える鎮痛薬は少ないため、「セレコキシブ」は貴重な選択肢になります。
回答の根拠③:値段の差~後発医薬品(ジェネリック医薬品)の活用
「セレコキシブ」は、「ロキソプロフェン」よりも効果の持続性や副作用の少なさといった点で改良された薬ですが、そのぶん値段も高価です。「ロキソプロフェン」で問題ない場合は、敢えて高価な薬に手を出す必要はありません。
なお、経済的な負担を抑えながら「セレコキシブ」を使いたい場合は、後発医薬品(ジェネリック医薬品)を活用するのがお勧めです。
※1錠あたりの価格(2024年改訂時)
(先発医薬品)
ロキソニン:60mg(10.10)
セレコックス:100mg(23.80)、200mg錠(36.40)
(後発医薬品)
ロキソプロフェン:60mg(9.80~10.60)
セレコキシブ:100mg(6.10~10.50)、200mg錠(9.30~16.20)
値段の差が小さくなり、”服用回数”で選ぶことも増えてきた
2020年6月に「セレコキシブ」の後発医薬品(ジェネリック医薬品)が登場したことで、「セレコキシブ」を選ぶデメリットもかなり少なくなりました。そのため、最近では1日2回の服用で良い「セレコキシブ」の方が服薬の負担が少ない、という理由で選ばれることもあります。
※定期的に服用する場合の用法
ロキソプロフェン:1日3回
セレコキシブ:1日2回
薬剤師としてのアドバイス:薬の量を増やす前に、試せる方法が色々ある
通常、「ロキソプロフェン」は1日3回で服用しますが、食事の時間によっては”夕食後”から翌日の”朝食後”までの服用間隔が長くなり、寝ている間に薬の効き目が切れてしまうことがよく起こります。
「ロキソプロフェン」で日中は問題なく過ごせるが、「朝起きたときに痛みが強い」という人は、一度医師や薬剤師にその旨を相談してみてください。「セレコキシブ」のように”効き目が長続きする薬”に切り替えるだけで、すんなりと解決することが結構あります。
痛み止めが満足に効かないと、安易に”量”を増やしてしまう人は多いですが、痛み止めの量を増やせば胃が荒れる副作用などもはっきり増えてしまいます。痛み止めには様々な特色を持つ薬がたくさんありますので、自分の症状や状態に合った薬を見つけられるよう、医師・薬剤師には”困っていること”をなるべく具体的に伝えるようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ロキソニン(ロキソプロフェン)』は速効性、『セレコックス(セレコキシブ)』は持続性に優れる
2. 「セレコキシブ」は胃を荒らしにくく、アスピリン喘息でも使える
3. 「セレコキシブ」の値段はやや高め
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆適応症
ロキソニン:鎮痛・消炎・解熱
セレコックス:鎮痛・消炎
◆用法用量
ロキソニン:1回60mgを1日3回、もしくは頓服
セレコックス:1回100mg~200mgを1日2回
◆最高血中濃度到達時間(Tmax)
ロキソニン:0.79時間
セレコックス:2時間
◆半減期(t1/2)
ロキソニン:1.31時間
セレコックス:7~8時間
◆消化性潰瘍の患者に対する表記
ロキソニン:禁忌
セレコックス:禁忌
◆アスピリン喘息に対する表記
ロキソニン:禁忌
セレコックス:禁忌
◆妊娠後期の使用
ロキソニン:禁忌(オーストラリア基準【C】)
セレコックス:禁忌(オーストラリア基準【C】)
※妊婦に鎮痛薬が必要な場合は『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』を使うのが一般的
◆錠剤の種類
ロキソニン:60mgのみ
セレコックス:100mgと200mgの2種類
◆同一成分の市販薬
ロキソニン:『ロキソニンS』
セレコックス:(なし)
◆製造販売元
ロキソニン:第一三共
セレコックス:ヴィアトリス製薬
+αの情報①:COX-2阻害薬は心血管系リスクが高い?
「セレコキシブ」などのCOX-2選択的阻害薬の添付文書には、心筋梗塞や脳卒中などの心血管系疾患のリスクを増加させる恐れがある、とする警告が記載されています5)。
しかし、こうしたリスクは「ロキソプロフェン」などの通常のNSAIDsにもあるもの11)で、そのリスクは変わらない12)、むしろ「セレコキシブ」の方がリスクは低い13)とする報告もあります。
11) BMJ.332(7553):1302-8,(2006) PMID:16740558
12) N Engl J Med.375(26):2519-29,(2016) PMID:27959716
13) PLoS One.16(12):e0261239,(2021) PMID:34932581
こうした心血管系疾患のリスクは「セレコキシブ」やCOX-2阻害薬特有のものではなく、NSAIDsという薬全般で注意すべきもの、と認識しておくのが妥当です。
+αの情報②:COX-2阻害薬は腎臓にやさしい?
NSAIDsは胃だけでなく腎臓にも負担をかけやすい薬ですが、「セレコキシブ」のようなCOX-2阻害薬は、通常のNSAIDsに比べて腎臓にもやさしい可能性があります14)。
特に長期的に痛み止めを服用する必要がある際には、胃や腎臓への負担軽減を目的に「セレコキシブ」のようなCOX-2阻害薬を選ぶこともあります。
14) Eur Heart J Cardiovasc Pharmacother.8(6):611-621,(2022) PMID:35234840
+αの情報③:ニューキノロン系の抗生物質との相互作用
ニューキノロン系の抗生物質(例:『クラビット(一般名:レボフロキサシン)』)は、「ロキソプロフェン」などのNSAIDsと一緒に使うと痙攣を誘発する恐れがあると指摘されています。「セレコキシブ」もNSAIDsに分類される薬ですが、こうした副作用のリスクとなる作用は無いとされています15)。
15) J Pharmacol.507(1-3):69-76,(2005) PMID:15659296
+αの情報④:がん治療に対する上乗せ効果
一部のがん治療において、「セレコキシブ」を化学療法などと併用することがあります。これは、併用によって治療効果が高まる、とする報告がある16,17)からですが、効果はないとする報告18,19)もあり、がんの種類や進行度、タイプなどによってその意味は変わるようです。
16) BMC Gastroenterol.23(1):281,(2023) PMID:37580670
17) Curr Oncol.29(9):6137-6153,(2022) PMID:36135051
18) Eur J Clin Invest.53(6):e13973,(2023) PMID:36807298
19) JAMA Oncol.7(9):1291-1301,(2021) PMID:34264305
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
コメント失礼いたします。
差し支えなければ以下についてお教頂けたらと思います。
文献1)をフルテキストで確認してみたのですが、ロキソプロフェンに関する情報がみつかりませんでした。
どの結果から、ロキソプロフェンとセレコキシブの強さを比較されましたか?
どうぞよろしくお願い致します。
ご指摘ありがとうございます。
どうも文献の読み違い、もしくは引用の際に誤植をしていたようです、大変失礼致しました。
ロキソプロフェンとセレコキシブの鎮痛効果がほぼ同等、ということについて、以下のような文献を参照した旨に修正致しました。
変形関節症:Prog Med.26(suppl.3):2911-31,(2006)
腰痛症:Prog Med.29(suppl.2):2853-72,(2009)
靱帯・半月板の手術:J Orthop Sci.21(2):172-7,(2016) PMID:26888227
抜歯:Int J Oral Maxillofac Surg.43(12):1509-13,(2014) PMID:25270186