「エリスロポエチン」って何?~腎臓病と貧血、高山病とドーピングの関係
回答:腎臓で作られる、造血ホルモン
「エリスロポエチン(Erythtopoietin:EPO)」は、主に腎臓で作られ、赤血球の分化・増殖を促進する造血ホルモンです。
そのため、慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease:CKD)などになると「エリスロポエチン」の産生が落ち、貧血(腎性貧血)になることが知られています。
また赤血球だけでなく、脳や心臓、腎臓、血管なども「エリスロポエチン」に感受性があり、心筋梗塞や脳梗塞時に起こる「虚血再灌流障害」を軽減する作用を持つことも多く報告されています1,2)。
1) Am J Nephrol.25(1):64-76,(2005) PMID:15746540
2) Lancet.365(9474):1890-2,(2005) PMID:15924987
こうした背景から「エリスロポエチン」は貧血治療薬の枠を超え、様々な組織保護の薬としての可能性が期待されています。そのため、最も成功したバイオ医薬品の代表として挙げられることもあります。
高山病から見つかったホルモン
16世紀に、スペインがインカ帝国に攻め入った際、スペイン兵だけが呼吸困難・めまい・失神を起こしたことが記録されています。これが世界で初めて記録された「高山病」です。
※インカ帝国は「マチュピチュ」などで有名な文明で、首都クスコは標高3,400mの高地にあります。
19世紀になると、高地に住む人は多血症であることが判明し、酸素濃度の低い環境が多血症を示すことが証明されました。
その後20世紀後半になって、多血症の原因である体内因子が「エリスロポエチン」と名付けられ、これが腎臓で作られていること等が次々と解明されていきます。現在もその複雑な作用について研究が続けられている最中です。
高地トレーニングとドーピング
酸素濃度が低い環境では、簡単に酸欠状態になってしまうため、通常よりも効率よく酸素を運ぶ必要があります。そのため、身体は「エリスロポエチン」を分泌して赤血球を増やし、酸素運搬能力を高めようとします3)。
3) Blood.74:645-51,(1989) PMID:2752138
スポーツ選手が高地トレーニングを行うのは、この身体の反応を利用し、酸素運搬能力を高めるためです。
つまり、「エリスロポエチン」を使えば高地トレーニングを行わなくとも、容易に圧倒的な持久力を手に入れることが可能です。
このことから、「エリスロポエチン」は世界アンチ・ドーピング規程により、競技会時および競技会外において常に禁止される”禁止薬物”に指定されています4)。
4) 2015年禁止表 世界アンチ・ドーピング規定
貧血への適応
慢性腎不全による透析患者は30万人を越え、その多くに「エリスロポエチン」製剤が処方されています。
現在、「エリスロポエチン」製剤として『エスポー(一般名:エポエチンα)』や『エポジン(一般名:エポエチンβ)』、『ネスプ(一般名:ダルベポエチンα)』、『ミルセラ(一般名:エポエチンβペゴル)』が、腎性貧血の治療や手術前の貯血に使用されています。
「エリスロポエチン」が低下して起こる腎性貧血では、赤血球の産生システムが低下しているため、材料である鉄を単純に補給するだけでは改善効果は得られません。鉄の補給だけで治療しようとすると、”鉄過剰”の状態になりやすいため、過不足ない投与をしなければなりません。
日本透析医学会が策定する「腎性貧血治療ガイドライン2015年版」では、鉄補充療法の強化や適応患者の拡大といった内容が新たに盛り込まれる予定になっています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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