『クレストール』・『リピトール』・『リバロ』、同じコレステロールの薬の違いは?~効果の強さ、使用実績、相互作用
記事の内容
回答:強力な『クレストール』、使用実績が豊富な『リピトール』、相互作用が少ない『リバロ』
『クレストール(一般名:ロスバスタチン)』、『リピトール(一般名:アトルバスタチン)』、『リバロ(一般名:ピタバスタチン)』は、いずれもLDL-コレステロール(LDL-C)値を下げる「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」です。
『クレストール』は、用量の幅が大きく、最も強力な作用を期待できます。
『リピトール』は、世界で最も広く使われているため使用実績が豊富です。
『リバロ』は、代謝酵素CYPの関与が少なく、相互作用の少ない薬です。
3つとも作用が強力な「ストロング・スタチン」と呼ばれる薬で、治療効果や副作用に大きな違いはありません。そのため、LDL-C値をどの程度下げる必要があるか、どんな併用薬を使っているかといった患者の状況によって使い分けるのが一般的です。
回答の根拠①:強力な『クレストール』~用量の幅
「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」は、LDL-C値を下げる作用の強さによって、「スタンダード」と「ストロング」の2種類に分類されます。『クレストール』・『リピトール』・『リバロ』は、作用が強力な「ストロング・スタチン」に分類される薬です。
ガイドライン上でも、特に「ストロング・スタチン」の厳密な使い分けに関する記載はなく、全て高LDL-C血症の第一選択薬として選ばれています1)。このことから、3つの薬の間に目立った優劣はないと言えます。
1) 日本動脈硬化学会 「動脈硬化性疾患予防ガイドライン (2012)」
実際、1日量を『クレストール』2.5mg、『リピトール』10mg、『リバロ』2mgに設定して比較した場合、LDL-C値やトリグリセリド値を下げる効果は同じで、副作用の発生頻度も同じだったことが示されています2)。
2) Circ J.75(6):1493-505,(2011) PMID:21498906
しかし、『クレストール』は用量の幅が広く、最大8倍の20mgにまで増やすことができます3)。そのため、より大きくLDL-C値を下げる必要がある場合に適した薬です。
※比較試験での用量と最大用量 3,4,5)
『クレストール』・・・2.5mg → 最大20mg(8倍)
『リピトール』・・・・10mg → 最大40mg(4倍)
『リバロ』・・・・・・ 2mg → 最大4mg(2倍)
3) クレストール錠 インタビューフォーム
4) リピトール錠 インタビューフォーム
5) リバロ錠 インタビューフォーム
回答の根拠②:使用実績が豊富な『リピトール』~降圧薬との配合剤
『リピトール』は、3つの「ストロング・スタチン」の中で最初に登場した薬です。そのため、使用実績が豊富で、世界でも最も広く使われています。
※国際誕生年と外国での販売状況 3,4,5)
『クレストール』・・・2002年、世界100ヵ国以上
『リピトール』・・・・1996年、世界140ヵ国以上
『リバロ』・・・・・・2003年、世界22ヵ国
このことから、『リピトール』は他の薬と併用した場合の有効性や安全性も多く報告され、特に高血圧の治療薬「Ca拮抗薬」との配合剤『カデュエット(一般名:アムロジピン + アトルバスタチン)』も登場しています。
回答の根拠③:相互作用のリスクが低い『リバロ』~CYP3A4と横紋筋融解症
『リバロ』の代謝にCYPはほとんど関与していません3,4,5)。そのため、『リバロ』はCYPに関係した相互作用が少ないという特徴があります。
一方、『リピトール』の代謝にはCYP3A4が関与しているため、この酵素を阻害する『クラリス(一般名:クラリスロマイシン)』や『エリスロシン(一般名:エリスロマイシン)』と併用すると、副作用の「横紋筋融解症」を起こすリスクが高まることが報告されています6)。
また、『クレストール』はCYP3A4阻害による明らかな相互作用はない3)とされていますが、『クラリス』との併用で「横紋筋融解症」や「急性腎障害」のリスクがやや高くなるという報告7)もあり、少し注意が必要です。
6) Ann Intern Med.158(12):869-76,(2013) PMID:23778904
7) CMAJ.187(3):174-80,(2015) PMID:25534598
このことから、相互作用リスクの高い薬を併用している場合は、影響の少ない『リバロ』が適した薬と言えます。
トランスポーター(OATP)に影響する薬との相互作用にも注意
『クレストール』・『リピトール』・『リバロ』は、いずれも「有機アニオン輸送ポリペプチド(Organic anion transporting polypeptide:OATP)」によって肝臓に取り込まれます。そのため、この「OATP1B1」を阻害する作用を持つ『ネオーラル(一般名:シクロスポリン)』との併用によって、血中濃度が高まる恐れがあります。
『リピトール』は、添付文書上では『ネオーラル』と併用禁忌とされていませんが、併用によって『リピトール』の血中濃度が8.7倍にまで上昇する4)ため、『クレストール』や『リバロ』と同様、基本的に併用禁忌と考える必要があります。
薬剤師としてのアドバイス:「横紋筋融解症」についての正しい理解を
『クレストール』や『リピトール』、『リバロ』などの「HMG-CoA還元酵素阻害薬(スタチン)」は、「横紋筋融解症」の副作用が有名です。
しかし、筋肉が溶けてしまうような名前のインパクトばかりが強調され、ごく稀な副作用であることや、正しい症状・対応についての理解はあまりされていません。
「横紋筋融解症」は、筋肉がドロドロに溶けて無くなってしまうような副作用ではなく、損傷を受けた筋肉から流出した成分が腎臓を障害することが問題になる副作用です。
薬に限らず、脱水や熱中症などでも起こることがある症状で、早めに気付いて適切に対処すれば大きな問題とはなりません。名前に怯えて自己判断で薬を中断するようなことは、絶対に止めてください。
ただし、運動もしていないのに筋肉痛になった、手足に力が入らない、尿の色がコーラみたいな赤褐色になった、といったことがあれば、早めに病院を受診するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『クレストール』は用量の幅が広く、LDL-C値を下げる作用が強力
2. 『リピトール』は使用実績が豊富で、「Ca拮抗薬」との配合剤もある
3. 『リバロ』は代謝酵素CYPの影響をほとんど受けず、相互作用の心配が少ない
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆有効成分
クレストール:ロスバスタチン
リピトール:アトルバスタチン
リバロ:ピタバスタチン
◆適応症
クレストール:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症
リピトール:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症
リバロ:高コレステロール血症、家族性高コレステロール血症(※10歳以上の小児含む)
◆用法
クレストール:1日1回
リピトール:1日1回
リバロ:1日1回
◆用量
クレストール:2.5~20mg
リピトール:10~40mg
リバロ:1~4mg
◆関与する代謝酵素
クレストール:主にCYP2C9及びCYP2C19、CYP2D6やCYP3A4が関与する可能性も
リピトール:主にCYP3A4
リバロ:CYPではほとんど代謝されない
◆シクロスポリンとの併用とAUCへの影響
クレストール:併用禁忌(AUC 7倍)
リピトール:併用注意(AUC 8.7倍)
リバロ:併用禁忌(AUC 4.6倍)
◆剤型の種類
クレストール:錠剤(2.5mg、5mg)、OD錠(2.5mg、5mg)
リピトール:錠剤(5mg、10mg)
リバロ:錠剤(1mg、2mg、4mg)、OD錠(1mg、2mg、4mg) (※mgによって適応症が異なる)
◆製造販売元
クレストール:アストラゼネカ
リピトール:アステラス
リバロ:興和
+αの情報:水溶性・脂溶性の違い
『クレストール』は水溶性、『リピトール』と『リバロ』は脂溶性という違いがあります。
一般的に、脂溶性の薬は細胞膜の透過性に優れ、あらゆる臓器・組織に移行しやすい特徴があります。そのため、水溶性の薬と比べると、思いもよらない臓器での副作用が起こる可能性が高い傾向にあります。こうした背景から、水溶性のスタチンを推奨すべきという声もあります8)。
8) 日本薬理学会雑誌.120(4):261,(2002)
ただしこの見解では、水溶性・脂溶性に関わらず、本来作用すべき肝臓以外の細胞に影響するほどの量が移行するかどうかを慎重に見極めるべき、とも付け加えられています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【加筆修正】
『クレストール(一般名:ロスバスタチン)』と『クラリス(一般名:クラリスロマイシン)』の相互作用について、代謝酵素CYP3A4が主に関与したものではないことが正確に伝わる表現へ修正しました(参考文献7ほか)。
【加筆修正】
CYP3A4・OATP1B1阻害による相互作用について加筆し、全体の構図を変更しました。