『アクトス』と膀胱がんの関連は(2)~欧州でも因果関係は否定
1はこちら:https://www.fizz-di.jp/archives/1028201298.html
欧州医薬品庁(EMA)の要請によって行われた調査によって、『アクトス』と膀胱がんに因果関係はないとする報告がされました。また、この報告では『アクトス』を服用していることによって死亡率が低下することも併せて示されています1)。
1) JAMA.314(3):265-77,(2015) PMID:26197187
前回の記事でも紹介した通り、アメリカで糖尿病治療薬『アクトス(一般名:ピオグリタゾン)』によって膀胱がんになった、とする裁判が起こり、製造販売元である武田薬品工業(株)は2015年4月末に和解金24億円を支払うことを決定しています。
既に、FDAなどの要請によって『アクトス』と膀胱がんの因果関係を調べる研究は行われ、因果関係が否定されています。また、武田薬品工業も和解には応じたものの、『アクトス』と膀胱がんの因果関係については否定する立場を崩していません(各文献は前記事参照)。
回答の根拠:膀胱がんのハザード比は変わらず
今回の報告では、『アクトス』を服用していた場合の”膀胱がん”のハザード比は0.99(95%信頼区間:0.75-1.30)で、関連性は示されませんでした。
これは、米国食品医薬品局(FDA)の要請によって行われた調査とも見解が一致するものであり、共に『アクトス』と膀胱がんの因果関係を否定するものです。
また『アクトス』の服用は、その治療効果によって死亡リスクが軽減される(ハザード比0.67)ことが報告され、その有益性が示唆されています1)。
結局、賠償は何だったの?
この問題は、本当に患者の安全という点について議論されていたのか、アメリカが糖尿病薬の市場を奪いたいがために武田薬品工業へふっかけた話なのか、様々な憶測が飛び交っています。いずれにせよ、薬を使う人に不必要な不安感を与えたことや、企業のMRが振り回される結果になっていることは、大きな問題です。
今回、欧州のEMAの要請によって行われた調査においても、『アクトス』と膀胱がんの因果関係は否定されました。このことが、今後議論にどういった影響を与えるのか注意深く観察する必要があります。
しかし、一度「アクトス=膀胱がん」と強く印象付けられたイメージは簡単に払拭できるものではありません。因果関係についてまだ議論が続く中で賠償命令を出したアメリカの裁判所が、どういった意図で判決を下したのか、また色々な憶測が飛び交いそうです。
+αの情報:修正案では、有効性についても言及されている
欧州医薬品庁は、メトホルミンなど他の治療薬が使えない時や効かない時に、『アクトス』は2型糖尿病の有効な治療の選択肢である、との見解を示しています2)。
2) 欧州医薬品庁プレスリリース EMA/CHMP/847737/2011 ※PubMed外
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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