尿酸値が高くても、痛風を起こしていなかったら治療しなくて良い?
記事の内容
回答:腎臓や心臓へのリスクになるので、治療した方が良い
「痛風」という発作症状のみに着目すれば、尿酸値が高くても起こさない可能性もあり、薬物療法が必ずしも必要とは限りません。
しかし、尿酸値が高い状態が続くと腎臓や心臓などに悪影響を与える可能性があります。少なくとも、尿酸値が高くて得をすることはありませんので、食生活や運動習慣の見直しは必要です。
こうした生活習慣の是正で下がらない場合や、尿酸値が非常に高い場合などは薬による治療が必要です。
回答の根拠①:痛風発作が起こる尿酸値
高尿酸血症は、痛風発作の直接の原因になります。尿酸は通常、6.4mg/dLまでしか溶けません1)。そのため、これより高くなると身体のどこかで結晶化することになります。
1) 高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第2版追補 (2012)
※痛風発作の年間発生頻度 2)
尿酸値が9.0mg/dL以上・・・4.9%
尿酸値が7.0~8.9mg/dL・・・0.5%
尿酸値が7.0mg/dL以下・・・0.1%
2) Am J Med.82(3):421-6,(1987) PMID:3826098
尿酸値は、一般的に男女とも7.0mg/dLまでは基準値内と設定されていますが、仮に9.0mg/dL以上であったとしても、痛風発作が起こる可能性は極めて高いというわけでもありません。
しかし、7.0mg/dL以下に維持することで、そのリスクを98%近くも下げることができるため、現在は7.0mg/dLを目標に尿酸値を下げるような治療が行われています。
痛風発作を起こしたことがある場合には、より厳しい6.0mg/dLが目標
痛風発作を起こしたことがある場合は6.0mg/dLが治療目標になります。
これは、12ヶ月以上、6.0mg/dL以下を維持することによって、関節液中の尿酸結晶が消失することが示されているからです3)。
3) J Rheumatol.28(3):577-80,(2001) PMID:11296962
回答の根拠②:腎臓への影響~CKDとの関連
慢性腎不全(Chronic Kidney Disease:CKD)は、高血圧や脂質異常症などの生活習慣病との関連性も深く、CKDの原因として高尿酸血症が多数派というわけではありません。
しかし、高尿酸血症も腎障害と密接に関連しています。腎機能が低下すると尿酸値は上昇し、尿酸値が上昇すると腎機能が障害を受ける、といった悪循環に陥ります。
※腎障害の発症リスク 4)
尿酸値が9.0mg/dL以上・・・3.12倍
尿酸値が7.0~8.9mg/dL・・・1.74倍
4) J Am Soc Nephrol.19(12):2407-13,(2008) PMID:18799720
回答の根拠③:心臓への影響~虚血性心疾患との関連
高尿酸血症が心臓に悪影響を与え、心筋梗塞などの虚血性心疾患の原因になる可能性も示唆されています。しかし、現在のところ相反する報告があり、腎臓への影響ほど明確にはなっていません1)。
今後、尿酸値を下げる治療によってどういったリスク低下が得られるのか、といった報告に注目しておく必要があります。
薬剤師としてのアドバイス:尿酸値を下げるために、生活習慣から改めよう
痛風の発作は、尿酸値の急上昇で起こるのではなく、急低下によって起こるとされています(結晶離脱説)。薬の飲み始めに痛風が起こる可能性があるのはそのためです。
こうした情報から薬を敬遠する人も少なからずおられますが、尿酸値が8.5~9.0mg/dLを超えるようなケースでなければ、まずは食事療法や飲酒制限、運動療法などから開始するのが一般的です。
ひと昔前まで、尿酸の素である「プリン体」さえ摂らなければ大丈夫、と言われていましたが、これは誤りです。確かに「プリン体」をたくさん含む食品を避けることは必要です。しかし、「プリン体」は様々な食品に含まれているため、純粋な”食べ過ぎ”によっても過剰摂取になります。
また、アルコールは代謝に関連して尿酸値を上昇させるため、「プリン体」の有無やお酒の種類に関わらず過剰摂取は控えた方が無難です。いわゆる晩酌程度、日本酒1合程度のアルコール量であればそれほど神経質になる必要はありません。
更に、ガイドラインでは週3回程度の軽い運動を継続して行うことも推奨されています。有酸素運動は直接尿酸値には影響しませんが、他の生活習慣病の因子を改善することにより、腎臓や心臓へのリスクを軽減することができます。
+αの情報:米国内科学会は、発作が起きても「薬を使わない」選択肢を残している
米国内科学会が2016年に発表したガイドラインでは、発作が再発しない限りは薬を使わないという選択肢も残していますが、腎障害に関する言及はしていません5)。
5) Ann Intern Med.1,doi:10.7326/M16-0570,(2016) PMID:27802508
具体的にどのくらいの値から、痛風発作だけでなく腎保護も目的にして薬を使うべきなのか、今後のより詳細な研究が待ち望まれています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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