■サイト内検索


スポンサードリンク

副作用 専門用語解説

/

交感神経と副交感神経の違い~「心臓」や「気管支」の薬を飲んだら、全く関係ない「眼」や「膀胱」で副作用が起こるのは何故?

回答:自律神経は全身に作用する

 心臓や肺は、「動け!」と思わなくても勝手に動いています。これは無意識で働く「自律神経」によって調節されているからです。

 こうした「自律神経」は心臓や肺だけでなく、瞳孔、気管支、血管、胃、腸、肝臓、膀胱、皮膚、筋肉などありとあらゆる組織に影響します。
 そのため「自律神経」に作用する薬を使用した場合、目的とする組織と全く関係のない別の組織にも影響する、といった現象が起こります。

 例気管支を広げるβ2刺激薬 → 動悸、手の震えの副作用

回答の根拠:共通の受容体で調節される

 「自律神経」は非常に様々な組織に影響を与えるにも関わらず、その影響に関与している受容体の種類は少なく、一括でまとめて調節しているようなシステムになっています。

 特に、「交感神経」を優位に働かせるアドレナリンの受容体は「α受容体」と「β受容体」の2種類だけでほとんどが機能しています。そのため、α受容体やβ受容体に作用する薬を使うと、あちこちの組織に影響してしまいます。

詳しい回答①:交感神経による作用

 「自律神経」のうち、「交感神経」は身体を”臨戦態勢”にします。本来、生物が獲物を狩るときの”攻撃”と、天敵に襲われたときの”回避”に活動する神経です。
 α受容体やβ受容体を刺激することで、「交感神経」が優位になった時と同じ作用を起こすことができます。

※遠くの獲物や敵を正確に察知するために、目を開き、視野を広げ、涙で視界が歪まないようにする
 瞳孔が広がる・・・瞳孔散大筋が収縮(α1)
 まぶたが上がる・・・眼瞼平滑筋が収縮(α1)
 遠くにピントが合う・・・毛様体筋が弛緩(β2)
 涙が減る・・・涙腺の血管収縮(α1)

※酸素供給を豊富にし、息切れしないようにする
 気管支を広げる・・・気管支平滑筋が弛緩(β2)
 肺の血管を広げる・・・肺血管を拡張(β2)

※全身に血液とエネルギーを豊富に供給し、活動を維持する
 心拍数を上げる・・・洞房結節での拍動数増加(β1、β2)、心臓の伝導速度の増加(β1、β2)
 心臓の収縮力を強化する・・・心房の収縮力増加(β1、β2)、心室の収縮力増加(β1、β2)

※血管を広げ、酸素やエネルギー供給が滞らないようにする一方、怪我による大量出血を防ぐ
 心臓や肺への血液供給を増やす・・・冠血管を拡張(β2)
 外傷による大量出血を防ぐ・・・皮膚、粘膜の血管を収縮(α1、α2)

※臨戦態勢に際し、差し迫って必要のない活動を低下させる
 消化活動を抑える・・・胃や腸の活動が低下(α1、α2、β1、β2)
 排尿活動を抑える・・・膀胱の基底部を弛緩(β2)、括約筋を収縮(α1)

※温存していたエネルギーを解放する
 肝臓のエネルギーを使う・・・肝臓のグリコーゲンを分解しグルコースを産生(α1、β2)
 脂肪のエネルギーを使う・・・脂肪を分解し熱を産生(α1、β1、β2、β3)

※強い力を発揮できるよう、筋力を増強する
 骨格筋・・・収縮力の増大、グリコーゲン分解促進(β2)

※オーバーヒートしないよう汗をかき、熱を逃がす
 熱を帯びた部位での発汗を促す・・・汗腺の局所的分泌を促進(α1)
 毛を逆立てて外気と触れる面積を増やす・・・立毛筋を収縮(α1)

詳しい回答②:副交感神経による作用

 「自律神経」のうち、「副交感神経」は身体を”休息状態”にします。戦闘で負った傷を癒したり、翌日の活動のために回復したりする神経です。
 α受容体やβ受容体を遮断することで、「副交感神経」が優位になった時と同じ作用を起こすことができます。

※近くにあるものを良く見て不要な怪我をしないようにし、眼の粘膜も守る
 瞳孔が小さくなる・・・瞳孔括約筋が収縮(α1)
 近くにピントが合う・・・毛様体筋が収縮(β2)
 涙で目を守る・・・涙腺分泌を促進(α1)

※肺の活動を抑え、気管の粘膜も守る
 気管支を縮める・・・気管支平滑筋が収縮(β2)
 分泌液で粘膜を守る・・・気管支分泌を促進(α1、β2)

※心臓の活動を抑え、負担を減らす
 心拍数を下げる・・・洞房結節での拍動数減少(β1、β2)
 心臓の収縮力を弱める・・・心房の収縮力低下(β1、β2)、心室の収縮力低下(β1、β2)
 
※食事や排泄などの活動を促す
 消化活動を促す・・・胃や腸の活動を増強(α1、α2、β1、β2)
 排尿活動を促す・・・膀胱の基底部を収縮(β2)、括約筋を弛緩(α1)

※体温を維持する
 全身の発汗を促す・・・全身的な分泌促進(α1)

薬剤師としてのアドバイス:人によって副作用の出方もいろいろ

 上記のように、1つの受容体を刺激するだけで全身の様々な組織に影響が出ます。このとき、その人にとって敏感な場所で副作用を実感することになります。逆に強い場所や鈍感な場所では副作用を感じないこともあります。
 その結果、α受容体やβ受容体に作用する薬の添付文書には、様々な種類の副作用が列挙されることになり、さも危険な薬であるかのような印象を受けてしまいます。

 しかし、多くの副作用も元を辿れば「自律神経」への影響で共通しているため、とりたてて副作用の多い危険な薬というわけでもありません。

+αの情報:副交感神経を強く刺激する薬は致命的な”毒”になる

 「副交感神経」は、α受容体やβ受容体を遮断すること以外にも優位にする方法があります。

直接刺激:ムスカリン受容体(M受容体)の刺激
間接刺激:コリン類似薬、抗ChE薬によってアセチルコリン濃度を高める

 しかし、「副交感神経」を強烈に刺激すると、瞳孔が収縮し過ぎて視界が真っ暗になったり、気管支が収縮し過ぎて窒息したり、心拍数や心臓の収縮力が低下し過ぎて低血圧になったりと、時に致命的になり得る影響が出ます。

 そのため、「副交感神経」を強烈に刺激する薬物は人体に対して”毒”になります。有名なものに「サリン」などが該当します。また、逆に「副交感神経」の刺激を遮断する「アトロピン」は解毒薬としても有名です。

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講演・シンポジウム等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

利益相反(COI)
特定の製薬企業との利害関係、開示すべき利益相反関係にある製薬企業は一切ありません。

■ご意見・ご要望・仕事依頼などはこちらへ

■カテゴリ選択・サイト内検索

スポンサードリンク

■おすすめ記事

  1. 乗り物酔いのOTC、どんな選び方をすれば良い?~予防・治療の…
  2. 『アイトロール』と『ニトロール』、同じ硝酸薬の違いは?~初回…
  3. ステロイド外用剤の『リンデロン』、DP・V・VG・Aの違いは…
  4. OTCの痛み止め(内服・外用)、各成分の特徴から考える使い分…
  5. 添付文書に記載された副作用頻度の数字を、単純に比較してはいけ…
  6. 第52回 日本薬剤師会学術大会 分科会26に参加して
  7. 「ピボキシル基」を持つ抗菌薬で低血糖が起こるのは何故?~カル…

■お勧め書籍・ブログ

recommended
recommended

■提携・協力先リンク

オンライン病気事典メドレー

banner2-r

250×63

スポンサードリンク
PAGE TOP