交感神経と副交感神経の違い~「心臓」や「気管支」の薬を飲んだら、全く関係ない「眼」や「膀胱」で副作用が起こるのは何故?
回答:自律神経は全身に作用する
心臓や肺は、「動け!」と思わなくても勝手に動いています。これは無意識で働く「自律神経」によって調節されているからです。 こうした「自律神経」は心臓や肺だけでなく、瞳孔、気管支、血管、胃、腸、肝臓、膀胱、皮膚、筋肉などありとあらゆる組織に影響します。
そのため「自律神経」に作用する薬を使用した場合、目的とする組織と全く関係のない別の組織にも影響する、といった現象が起こります。
例:気管支を広げるβ2刺激薬 → 動悸、手の震えの副作用
回答の根拠:共通の受容体で調節される
「自律神経」は非常に様々な組織に影響を与えるにも関わらず、その影響に関与している受容体の種類は少なく、一括でまとめて調節しているようなシステムになっています。特に、「交感神経」を優位に働かせるアドレナリンの受容体は「α受容体」と「β受容体」の2種類だけでほとんどが機能しています。そのため、α受容体やβ受容体に作用する薬を使うと、あちこちの組織に影響してしまいます。
詳しい回答①:交感神経による作用
「自律神経」のうち、「交感神経」は身体を”臨戦態勢”にします。本来、生物が獲物を狩るときの”攻撃”と、天敵に襲われたときの”回避”に活動する神経です。α受容体やβ受容体を刺激することで、「交感神経」が優位になった時と同じ作用を起こすことができます。
※遠くの獲物や敵を正確に察知するために、目を開き、視野を広げ、涙で視界が歪まないようにする
瞳孔が広がる・・・瞳孔散大筋が収縮(α1)
まぶたが上がる・・・眼瞼平滑筋が収縮(α1)
遠くにピントが合う・・・毛様体筋が弛緩(β2)
涙が減る・・・涙腺の血管収縮(α1)
※酸素供給を豊富にし、息切れしないようにする
気管支を広げる・・・気管支平滑筋が弛緩(β2)
肺の血管を広げる・・・肺血管を拡張(β2)
※全身に血液とエネルギーを豊富に供給し、活動を維持する
心拍数を上げる・・・洞房結節での拍動数増加(β1、β2)、心臓の伝導速度の増加(β1、β2)
心臓の収縮力を強化する・・・心房の収縮力増加(β1、β2)、心室の収縮力増加(β1、β2)
※血管を広げ、酸素やエネルギー供給が滞らないようにする一方、怪我による大量出血を防ぐ
心臓や肺への血液供給を増やす・・・冠血管を拡張(β2)
外傷による大量出血を防ぐ・・・皮膚、粘膜の血管を収縮(α1、α2)
※臨戦態勢に際し、差し迫って必要のない活動を低下させる
消化活動を抑える・・・胃や腸の活動が低下(α1、α2、β1、β2)
排尿活動を抑える・・・膀胱の基底部を弛緩(β2)、括約筋を収縮(α1)
※温存していたエネルギーを解放する
肝臓のエネルギーを使う・・・肝臓のグリコーゲンを分解しグルコースを産生(α1、β2)
脂肪のエネルギーを使う・・・脂肪を分解し熱を産生(α1、β1、β2、β3)
※強い力を発揮できるよう、筋力を増強する
骨格筋・・・収縮力の増大、グリコーゲン分解促進(β2)
※オーバーヒートしないよう汗をかき、熱を逃がす
熱を帯びた部位での発汗を促す・・・汗腺の局所的分泌を促進(α1)
毛を逆立てて外気と触れる面積を増やす・・・立毛筋を収縮(α1)
詳しい回答②:副交感神経による作用
「自律神経」のうち、「副交感神経」は身体を”休息状態”にします。戦闘で負った傷を癒したり、翌日の活動のために回復したりする神経です。α受容体やβ受容体を遮断することで、「副交感神経」が優位になった時と同じ作用を起こすことができます。
※近くにあるものを良く見て不要な怪我をしないようにし、眼の粘膜も守る
瞳孔が小さくなる・・・瞳孔括約筋が収縮(α1)
近くにピントが合う・・・毛様体筋が収縮(β2)
涙で目を守る・・・涙腺分泌を促進(α1)
※肺の活動を抑え、気管の粘膜も守る
気管支を縮める・・・気管支平滑筋が収縮(β2)
分泌液で粘膜を守る・・・気管支分泌を促進(α1、β2)
※心臓の活動を抑え、負担を減らす
心拍数を下げる・・・洞房結節での拍動数減少(β1、β2)
心臓の収縮力を弱める・・・心房の収縮力低下(β1、β2)、心室の収縮力低下(β1、β2)
※食事や排泄などの活動を促す
消化活動を促す・・・胃や腸の活動を増強(α1、α2、β1、β2)
排尿活動を促す・・・膀胱の基底部を収縮(β2)、括約筋を弛緩(α1)
※体温を維持する
全身の発汗を促す・・・全身的な分泌促進(α1)
薬剤師としてのアドバイス:人によって副作用の出方もいろいろ
上記のように、1つの受容体を刺激するだけで全身の様々な組織に影響が出ます。このとき、その人にとって敏感な場所で副作用を実感することになります。逆に強い場所や鈍感な場所では副作用を感じないこともあります。その結果、α受容体やβ受容体に作用する薬の添付文書には、様々な種類の副作用が列挙されることになり、さも危険な薬であるかのような印象を受けてしまいます。
しかし、多くの副作用も元を辿れば「自律神経」への影響で共通しているため、とりたてて副作用の多い危険な薬というわけでもありません。
+αの情報:副交感神経を強く刺激する薬は致命的な”毒”になる
「副交感神経」は、α受容体やβ受容体を遮断すること以外にも優位にする方法があります。直接刺激:ムスカリン受容体(M受容体)の刺激
間接刺激:コリン類似薬、抗ChE薬によってアセチルコリン濃度を高める
しかし、「副交感神経」を強烈に刺激すると、瞳孔が収縮し過ぎて視界が真っ暗になったり、気管支が収縮し過ぎて窒息したり、心拍数や心臓の収縮力が低下し過ぎて低血圧になったりと、時に致命的になり得る影響が出ます。
そのため、「副交感神経」を強烈に刺激する薬物は人体に対して”毒”になります。有名なものに「サリン」などが該当します。また、逆に「副交感神経」の刺激を遮断する「アトロピン」は解毒薬としても有名です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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