■サイト内検索


スポンサードリンク

薬学コラム 副作用

/

”悪魔の証明”とは~まだ一度も確認されていない副作用でも、「起こらない」とは言えない

 「この薬を飲んだら血圧が上がる?」という質問をされた際、我々薬剤師はまず医薬品の添付文書を確認します。添付文書は医薬品に関する情報として「法的根拠」を持つ正式な書類です。

 この添付文書に”血圧が上がる副作用”が記載されていた場合には、必要に応じてその事実をお伝えしますが、記載されていなかった場合でも「血圧は絶対に上がりません」とは言えません。
 そのため、「この薬の影響で血圧が上がる可能性は考えにくいので、もし血圧が上がった場合には別の原因を考える方が妥当です」という返答になります。

 この”歯切れの悪い返答”は、なにも薬剤師が責任逃れをしているわけではありません。”無い”と証明することは非常に困難なのです。

”無い”と証明するのは難しい

 ”無い”ことの証明が難しいという有名な例に、【悪魔の証明】があります。

 例えば、この世に「フクロウ」が”存在する”ことを証明したい場合には、実際に「フクロウ」を捕まえれば証明できます。このように、”存在する”ことを証明するのは、実例を示せば良いので非常に簡単です。

 ところが、この世に「悪魔」が”存在しない”ことを証明したい場合には、これを証明する手段はありません。今日まで悪魔が姿を現さなかったことが、存在しないことの根拠にはならないからです。たまたま今日まで姿を現さなかっただけで、明日姿を現すかもしれない・・・そんな一言で簡単に反論できてしまいます。
悪魔の証明~存在しないことの証明
 添付文書に載っていない副作用も、この「悪魔」と同じものです。今日まで副作用が確認されていないことが、明日からも絶対に起こらないことの根拠にはならないのです。

副作用の予測は難しいから、補償制度がある

 薬が効き過ぎて起こる副作用や、薬を分解・代謝する肝臓や腎臓に負担がかかって起こる副作用などは、ある程度の予測が可能です。

 しかし、未知の副作用を予測することは極めて難しいものです。そのため、どんな薬にも「現在の科学技術では全く予測できない副作用」が潜んでいる可能性があるのも事実です(実際、「光学異性体」という存在が明らかになっていなかった時代に「サリドマイド事件」が起こっています)。

 こうした未知のリスクがあることから、たとえ細心の注意を払って薬を使っていても副作用を100%回避することは難しいとして、国は副作用が起きてしまった場合の補償制度「医薬品副作用被害救済制度」を設けています。この制度では、副作用で受けた被害の重さに応じて年金を受給することができます。

 ただし、この制度は「薬を正しく使っていた場合」に限ります。医師・薬剤師の指示に従わず自己流な使い方をした場合や、他人の薬を使った場合などは対象外になります。

 

薬は危ないものだから使わない・・・のではなく、正しく使う

 自動車事故を起こすかもしれないから、絶対に自動車には乗らない、という人は滅多に居ません。それは自動車事故というリスクと、自動車の便利さを天秤にかけて、便利さが遥かに勝るからです。

 しかし、万が一の事故に備えて、きちんと「リスク回避」と「リスク管理」を行っています。

・リスク回避・・・安全運転に努めること
・リスク管理・・・自動車保険に入ること

 安全運転をするから自動車保険に入らなくて良い、というわけではないことは周知の事実です。これは、「リスク回避」と「リスク管理」という全く別の次元の対策だからです。

 薬も同じで、副作用があるかもしれないから薬を飲まない、という生活は大変不便です。薬によって受けられる恩恵は、遥かに大きなものです。

 そのため、自動車と同じように「リスク回避」と「リスク管理」の両方を意識して使う必要があります。

・リスク回避・・・用法・用量を守り、医師・薬剤師の指示に従って、正しく使う
・リスク管理・・・「救済制度」の対象外にならないよう、他人の薬を使ったりしない

 

古い薬は、使用実績が豊富

 薬は研究・開発の段階で、統計学上に十分な数の臨床試験を行いデータを揃えているため、未知の副作用というものはそう頻繁に起こるものではありません。

 そのため、常に新薬の方が優れているというわけではなく、古く使用実績が豊富な薬の方がより安心である、という考え方もできます(例:古い薬である『ワーファリン』が今でも広く使われている理由)。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

前のページ

次のページ

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講演・シンポジウム等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

利益相反(COI)
特定の製薬企業との利害関係、開示すべき利益相反関係にある製薬企業は一切ありません。

■ご意見・ご要望・仕事依頼などはこちらへ

■カテゴリ選択・サイト内検索

■おすすめ記事

  1. 『キサラタン』・『タプロス』・『トラバタンズ』・『ルミガン』…
  2. 『アマリール』・『グリミクロン』・『オイグルコン』、同じ糖尿…
  3. 『ナゾネックス』と『リボスチン』、同じ点鼻薬の違いは?~アレ…
  4. 「ピボキシル基」を持つ抗菌薬で低血糖が起こるのは何故?~カル…
  5. 乗り物酔いのOTC、どんな選び方をすれば良い?~予防・治療の…

■お勧め書籍・ブログ

recommended
recommended

■提携・協力先リンク

オンライン病気事典メドレー

banner2-r

250×63

PAGE TOP