『パキシル』を急に止めると、頭痛や耳鳴りがするのは何故?~非線形薬物は血中濃度変化が大きい
回答:SSRIは減らすときも徐々に
『パキシル(一般名:パロキセチン)』などの「選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)」は、薬の飲み始めも、薬を止めるときも、徐々に減らしていく必要があります。
それまで40mgを服用していたのに、ある日突然0mgにしてしまうと、体内の薬の濃度が急に下がり、頭痛・吐き気・耳鳴り・めまいなどの離脱症状を起こす恐れがあります。
『パキシル』は特に、薬の血中濃度が大きく変動しやすい、という特徴があります。
そのためSSRIの中でも離脱症状を経験する人が多く、より気を付けて減量する必要があります。絶対に自己判断で薬を減らしたり止めたりしないようにしてください。
回答の根拠:『パキシル』は非線形薬物
10mgの薬を毎日飲んでいる人と、20mgの薬を毎日飲んでいる人の薬の血中濃度を比較すると、1:2になるのが普通です。倍の量を飲んでいれば、血中濃度も倍になります。
しかし、薬の中にはこうした単純計算ができないものがあり、『パキシル』もその1つです。
※『パキシル』服用時の、最大血中濃度 1)
10mg服用時・・・Cmax 1.93ng/mL
20mg服用時・・・Cmax 6.48ng/mL
30mg服用時・・・Cmax 26.89ng/mL
1) パキシル錠 添付文書
このように、『パキシル』は飲む量を10mgから倍の20mgに増やすと、血中濃度は約3倍になります。
20mgから1.5倍の30mgに増やすと、血中濃度は約4倍になります。
このように飲んだ量と血中濃度が比例しない薬が存在します。こうした特徴を「非線形性」と呼びます。
こうした「非線形」の薬は、薬の量を2倍にしたとき、血中濃度は3倍にも4倍にも上昇する可能性があります。同様に、薬の量を半分にしたとき、血中濃度は50%にも25%にも低下する可能性があります。
つまり「非線形」の薬は、単純な予想よりも遥かに大きく血中濃度が変動する薬、と言えます。
『パキシル』の減量や中止で離脱症状が起こりやすいのは、このように血中濃度が大きく変動する「非線形性」が要因の1つです。
薬剤師としてのアドバイス:薬の量は、医師と相談の上で決める
薬をなるべく飲みたくない、という気持ちに無理はありません。
しかし、だからと言って自己判断で薬を止めてしまったり、飲む量を変えてしまったりすると症状が悪化し、かえって治療が長引いてしまうことになります。
自分がどういった治療を望むのか、医師にしっかりと伝えて相談し、納得のいく治療を進めるようにしてください。
その中で、薬に関する疑問や不安は、ぜひ薬剤師も頼って欲しいと思います。
+αの情報:非線形薬物の例
「非線形」を示す薬は、『パキシル』の他にもARBである『ミカルディス(一般名:テルミサルタン)』、水虫治療薬である『イトリゾール(一般名:イトラコナゾール)』などが存在します。
また、単独では「非線形」を示さない薬であったとしても、他の薬との飲み合わせによって、複合的に「非線形」を示す可能性もあります。
薬の血中濃度は効果や副作用に大きく関係しています。単純な計算では予測できないケースが多々ありますので、自己判断で薬の量を変えたり、飲み方を変えることは絶対にやめましょう。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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