『プロペト』と『ヒルドイド』、同じ保湿剤の違いは?~副作用と保湿効果・値段の比較
記事の内容
回答:刺激の少ない『プロペト』、保湿効果の高い『ヒルドイド』
『プロペト(一般名:白色ワセリン)』と『ヒルドイド(一般名:ヘパリン類似物質)』は、どちらも保湿効果のある塗り薬です。
皮膚への刺激が少ないのは『プロペト』、保湿効果が高いのは『ヒルドイド』です。
ただし、『ヒルドイド』は『プロペト』に比べて値段が10倍近く高いため、必要に応じて使い分けます。
回答の根拠①:刺激の少ない『プロペト』
『プロペト』は、油分が皮膚を覆うことで水分の蒸発を防ぐ保湿剤です1)。
『プロペト』の成分である「白色ワセリン」は、ステロイド外用剤をはじめ様々な軟膏薬の基剤(ベース)としても使われるもので、これ自体にほとんど副作用はありません(添付文書に記載のある「接触性皮膚炎」1)は、繊維や金属・植物でも起こるものです)。
『ヒルドイド』も副作用の少ない保湿剤ですが、傷のある場所に使うと刺激を感じることがあります2)。また、抗凝固薬の「ヘパリン」と似た構造をしているため、出血性疾患を持つ人には「禁忌」に指定されています2)。
1) プロペト 添付文書
2) ヒルドイドソフト軟膏 添付文書
このことから、『プロペト』の方が刺激などの副作用も少なく、また皮膚の状態に関わらず使用できる、より安全性の高い保湿剤と言えます。
『プロペト』は添加物が使われておらず、不純物も少ない
『プロペト』は添加物が全く入っていない、純粋な「白色ワセリン」だけの薬です。また、その「白色ワセリン」を眼科用としても使えるよう、より厳密に精製して不純物を取り除いた製剤です1)。
そのため、添加物や不純物による刺激やアレルギーの心配も少なく、皮膚が敏感な人でも使いやすい保湿剤です。
回答の根拠②:保湿効果の高い『ヒルドイド』
『ヒルドイド』は、周囲の水分を集めることで皮膚の保水力を高める保湿剤です。
お風呂あがり(入浴1分後)に塗布した場合、得られる角質の水分保持力は『プロペト』よりも『ヒルドイド』の方が2.5倍近く高いことが報告されています3)。
3) 日皮会誌.121(7):1421-6,(2011)
また、塗布後に非常にベタベタする『プロペト』に比べ、『ヒルドイド』の「ソフト軟膏」や「ローション」はさらっとしているため、使用感が良いのも大きな利点です。ただし、『ヒルドイド』は『プロペト』に比べると値段が10倍近く高いため、費用対効果も考えて選ぶ必要があります。
※値段の比較(2018年改訂時)
プロペト・・・・ 2.34円(1gあたり)
ヒルドイド・・・22.20円(1gあたり)※クリーム・軟膏・ローション剤
ステロイドの外用剤と一緒に使うこともある
『ヒルドイド』は、ステロイドの外用剤とよく一緒に処方されます。通常は、必要ない部分にまでステロイドを塗り広げてしまわないように、『ヒルドイド』を広く塗布した後、ステロイド外用剤を症状の酷い部分にピンポイントで塗布する、といった使い方をします。
しかし、塗布する順序を入れ替えても、治療効果に影響するほどの吸収差は生じないこと4)、また副作用のリスクも変わらないこと5)がそれぞれ報告されているため、厳密にこだわる必要はありません。
4) 西日皮膚.73(3):248-52,(2011)
5) 日皮会誌.123(14):3117-22,(2013)
また、別々に塗布するのが手間な場合は『ヒルドイド』とステロイド外用剤を混ぜて使うこともあります。
薬剤師としてのアドバイス:保湿剤は、思っているよりもたくさん塗る必要がある
『プロペト』や『ヒルドイド』といった保湿剤は、乳液のように薄く延ばした上で擦り込んで使う人は少なくありませんが、保湿剤はあまりに薄く延ばしてしまうと、薬の効果が弱まってしまいます。
一般的に、保湿剤を塗ったあとの皮膚にティッシュをかぶせた際、そのティッシュがさらりと落ちずにひっかかる程度の量を使う必要があります。
このときの目安は、大人の指の第一関節の長さをチューブから出した量(1FTU / 1 Finger Tip Unit)を、手のひら2枚分の面積に使うこと、です。これは、通常思っているよりもかなり多めの量です。
保湿剤は薄く延ばして使うのではなく、しっかり多めに使うようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『プロペト』は、刺激が少なく、副作用もほとんどない
2. 『ヒルドイド』は、『プロペト』より保湿効果が2.5倍ほど高いが、値段も10倍近く高い
3. 保湿剤は薄く延ばし過ぎないよう、1FTUを目安にたっぷりと使う
添付文書・インタビューフォーム記載事項の比較
◆有効成分
プロペト:白色ワセリン(※通常の白色ワセリンよりも精製度が高い)
ヒルドイド:ヘパリン類似物質
◆薬効分類
プロペト:眼科用・一般軟膏基剤
ヒルドイド:血行促進・皮膚保湿剤
◆適応症
プロペト:眼科用軟膏基剤・一般軟膏基剤(調剤用)、皮膚保護剤
ヒルドイド:皮脂欠乏症、進行性指掌角皮症、凍瘡、肥厚性瘢痕・ケロイドの治療と予防、血行障害に基づく疼痛と炎症性疾患(注射後の硬結並びに疼痛)、血栓性静脈炎(痔核を含む)、外傷(打撲、捻挫、挫傷)後の腫脹・血腫・腱鞘炎・筋肉痛・関節炎、筋性斜頸(乳児期)
◆「禁忌」に指定されている事項
プロペト:なし
ヒルドイド:出血性の疾患
◆使われている添加物
プロペト:なし
ヒルドイド:主にグリセリンやパラオキシ安息香酸エチルなど(剤型によって異なる)
◆主な副作用
プロペト:接触皮膚炎
ヒルドイド:皮膚炎・掻痒・発疹
◆剤型の種類
プロペト:軟膏
ヒルドイド:クリーム、ソフト軟膏、ローション、ゲル
◆製造販売元
プロペト:丸石製薬
ヒルドイド:マルホ
+αの情報①:どちらも市販薬として購入できる
『プロペト』のような「ワセリン」製剤も、『ヒルドイド』と同じ「ヘパリン類似物質」も、どちらもOTC医薬品としてドラッグストア等で購入することができます。特に「ワセリン」製剤は500gでも1,000円未満で購入できる非常に安価な商品のため、「コストを気にせずたっぷり使う」という点では非常に便利な選択肢になります。
▲1,000円で購入できる両製剤。「ワセリン」なら500g、「ヘパリン類似物質」なら50g
+αの情報②:「お風呂上がり」に強くこだわる必要はない
保湿剤はよく「お風呂上がり」にすぐ塗布するように指示されます。これには、肌が乾燥し切ってしまう前に保湿剤を使うことで、入浴後の痒みなどを防ぐ目的があります。しかし、アトピー性皮膚炎の子どもに対する保湿剤の効果は、入浴1分後でも30分後でも効果に差がなかったことも報告されています6)。
「お風呂上がり」の速いうちに塗布できるに越したことはありませんが、親が髪も身体も拭くことなく、びしょびしょのままで風邪をひきそうになりながら子どもの保湿剤を塗る…といったことまでする必要はありません。
6) pediatr dermatol.26: 273–8,(2009) PMID:19706087
+αの情報③:『ヒルドイド』に『プロペト』を混ぜると、保湿効果は低下する
『ヒルドイド(ソフト軟膏)』に『プロペト』を混ぜると、保湿効果は低下することが報告されています7)。
値段の高い『ヒルドイド』を嵩増しする、使用感を変えるなどの目的で行うことは1つの選択肢ですが、保湿効果は劣化してしまうという点には注意が必要です。
7) 薬学雑誌.137(6):763-6,(2017)
+αの情報④:「エモリエント効果」と「モイスチャー効果」
保湿剤が持つ「保湿効果」には、大きく分けて2種類あります。
「エモリエント効果」・・・皮膚の乾燥を防ぐもの
「モイスチャー効果」・・・皮膚に潤いを与えるもの
一般的に、『プロペト』などの「エモリエント効果」よりも、『ヒルドイド』などの「モイスチャー効果」の方が保湿効果は高い傾向にあります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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