なぜ”うつ病”は、他人に理解されにくいのか~理解を阻む最大の要因
はじめに
「うつ」の話をするとき、いつも衝突する2つの意見に出会います。
①「うつ」は想像を絶するような、筆舌に尽くしがたい苦痛を感じる壮絶な病である
②「うつ」なんて単なる甘えだ。誰だって気分が落ち込むこともある。
この2つの意見は、どちらかが正しければどちらかが誤りである、という対立論としてよく議論されています。しかし、本当にこの2つの意見は対立するものなのでしょうか。実は両立し得る意見なのではないでしょうか。
それぞれの「うつ」という言葉が具体的に何を指し示すのか?という点から考えたいと思います。
回答:「病名」と「症状」と「気分」が同じ
ふつう、「病名」・「症状」・「気分」は、それぞれ異なる表現になります。
例:インフルエンザの場合
病名・・・インフルエンザ
症状・・・高熱、頭痛、咳、吐き気、鼻水、関節痛
気分・・・しんどい、頭がぼんやりする、節々が痛い
例:肺炎の場合
病名・・・肺炎
症状・・・咳、酸素不足
気分・・・息が苦しい
そのため、患者が「頭がぼんやりする」と主張しても、それは単に集中力が無くてぼんやりしているわけではなく、「インフルエンザ」という病気によって”病的にぼんやり”しているということが理解できます。
あるいは、患者が「息苦しい」と主張しても、それは食べ過ぎたわけではなく、「肺炎」という病気によって”病的に息苦しい”ということが理解できます。
このように、通常は「病気」・「症状」・「気分」を我々はきちんと別の次元のものとして区別することができます。
ところが、”うつ病”がテーマになると大きく状況が変わります。
例:うつ病の場合
病気の名前・・・うつ病
症状の表現・・・うつ
感じる気分・・・うつ
全て同じ表現になってしまいます。これが理解を阻む大きな要因の一つになっていることは間違いありません。
患者が主張する「うつ」は”病的なうつ”、つまり「病気」のことです。ところが、周りの人が「うつ」と聞くと、自分でも経験がある”「気分」のうつ”のことと思ってしまいます。
病的な「うつ」と、正常な悲哀反応である「うつな気分」は、食べ過ぎて息苦しいことと、肺炎で息苦しいことと同じように、『全く次元の異なるもの』であることを念頭において接する必要があります。
先述の①の「うつ」は”病的なうつ”、②の「うつ」は”気分のうつ”です。そのため、対立する意見なのではなく、全く別の意見であると言えます。
「うつ病」の患者が感じている気分は、「うつな気分」どころではない
「うつ病」の辛さ云々について本投稿では述べませんが、「うつ病」の患者が感じている気分は「うつな気分」というものではありません。
文字通り、筆舌に尽くしがたい様々な苦痛が塊となって押し寄せているような状態です。単に、それを端的に表現する方法が無いために”うつ”という言葉になっているだけのものです。
ちょっとした気分の「うつ」と、病的な「うつ」とを混同することは、うつ病患者にとって最も大きな苦痛の1つです。
我々薬剤師が患者と接する際、軽々しく「私もうつな気分になることがあります」などと言おうものなら、それがどれほどの苦痛を与えるかを理解する必要があります。
求められるのは軽々しい共感ではなく、理解しようとする姿勢
薬剤師の接客教本を読むと、これでもかというほどに「共感」というキーワードが出てきます。しかし、”うつ病”に関して言えば、軽々しく共感できるものではありません。
しかし、だからといって何もできないわけでもありません。
そもそも、人と人とは他人同士、生まれも育ちも異なる人間が、100%全てをお互いに理解しあうことは不可能です。その大前提に立ち、”それでも1%でも多くを理解したい”という姿勢を示すことです。
”うつ病”患者は話を聞いて欲しがっているのだから話を聞こう、ということも盛んに述べられていますが、そもそも”うつ病”になると、「何を話して良いのかすらわからない」状態になっていることも多々あります。
そうした際には、頭の中でごちゃごちゃになっている複雑な問題を一緒に分解していくような、簡単な質問で話を引き出すことが効果的であると考えています。
「身体が重い」と言われたら、「朝と夜のどちらの方が重いと感じるのか?」と尋ねてみる。
「食欲がない」と言われたら、「例えば何だったら食べられそうか?好きな食べ物や果物は?」と尋ねてみる。
「病気が一向に良くならない」と言われたら、「先月できなかったことで、今月できるようになったことはありませんか?」と尋ねてみる。
”うつ病”患者は、思考が極端に偏って、全部ダメとか100%無理といったような発言をする傾向にあります。こうした自動思考に対して、具体的な例を提示しながら反論していくことで、頭の中でこんがらがっている複雑な感情の渦を少しずつ解いていくことができるはずです。
ただし、一度にたくさんの質問をしても疲れてしまいます。焦らずに接していくという姿勢も必要です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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