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薬学コラム

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ヒトは、なぜ「37兆個」という膨大な数の細胞で1つの生命体になったの?

 地球上には、細胞1個だけで生活している”単細胞生物”もたくさん存在しています。細胞1つだけでも生存に必要な機能は十分に備わっているからです。
 ではなぜ、ヒトは「37兆個」という膨大な数の細胞で1つの生命体になったのでしょうか。100個とか1万個くらいでも良かったのではないでしょうか。あるいは、1000兆個くらいに増やしても良かったのではないでしょうか。

 今回は薬から少し離れて、ヒトの細胞が「37兆個」という微妙な数字に収束した理由のお話です。

”単細胞生物”のメリット・デメリット

 細胞1個だけで独立した生命体となっているものを”単細胞生物”と言います。細胞1個だけなので、複雑な機能は持ちません。餌をとって、エネルギーを作って、排泄して、子孫を残す。できる活動といえばそんなものです。

 単純な人間を”単細胞”と呼ぶのはこのためです。

 さて、この”単細胞生物”にはどんなメリットがあるでしょうか。

 まず、少ない材料・エネルギー量で、個体を増やせます。細胞1つ分の材料、細胞1つ分のエネルギーさえあれば、別個体を生み出すことができます。
 この圧倒的な増殖効率は、生存競争に極めて有利です。とにかく数を増やし、”数の暴力”で他を圧倒することができます。

 しかし、当然細胞1つしかないので、ちょっとしたミスが致命的になります。

 人間でもたまに「がん細胞」ができますが、細胞を作るときにはよくミスが起こります。ミスが起きた時、”単細胞生物”には細胞は1つしかないので、その個体は失敗した細胞で何とかしなければなりません。何とかならなければ死んでしまいます。
 他の細胞が頑張ってフォローする、というような芸当はできません。

少しのミスは、他の細胞でフォローできる”多細胞生物”へ

 先述のように、細胞が1つだけの”単細胞生物”では、その1つの細胞に問題があると、それだけで致命的な事態に陥ります。
 そこで、ちょっとくらいのミスならば、他の細胞がフォローすることで何とか生きていけるようにしよう、という戦略をとったのが、”多細胞生物”です。

 例えば5個の細胞が集まって1つの生命体を形成していると、1つの細胞に問題が生じてたとしても全体としては20%、他の4つの細胞でフォローすれば何とか生命を維持できる可能性があります。

 こうした戦略を進めていくうちに、100個だったら1つや2つの細胞に問題があっても平気だ、とか、1000個だったら10個くらいの細胞に問題があっても大丈夫とか、次第に細胞の数を増やしていくことになります。

 当然、細胞の数が多くなれば生命体としての大きさも大きくなるので、ケンカをしたときにも強くなります。ただし、あまりたくさんの細胞を集めると、それだけ増殖スピードも落ち、大量の材料やエネルギーも必要になります。少な過ぎず、多過ぎずという数を探る必要があります。

37兆個という数に収束した、ヒトという生命体

 ヒトも、こうした戦略で進化してきました。特に、細胞の数がある程度増えてくると、それぞれの細胞の得意分野によって活動を役割分担するようになってきます。

 とにかく数を増やすのが早い細胞は、生命体の一番外側で盾となる役割を。
 酵素を分泌するのが得意な細胞は、分泌腺となって酵素を作る役割を。
 情報伝達が得意な細胞は、神経や脳などの神経細胞となる役割を。

 生物は、こうした役割分担を経て様々な”機能”をもつ「臓器」を獲得していきます。

 さて、この「臓器」も当然ながら細胞でできています。1つの細胞だけが担当していると、その細胞に問題が生じたらすぐにダメになってしまいます。
 少しくらいの問題ならば、他の細胞でフォローできるように、「臓器」を担う細胞の数も次第に増えていきます。

 例えば、ヒトの肝臓は3500億個の細胞の集まりです。これがもし、10個程度の細胞でしかなかったらどうなるでしょうか。ほんの一夜、調子に乗ってお酒を飲んだだけで肝臓の大半が壊れてしまうことになります。3500億個も細胞があるから、多少不摂生をしたところで、すぐに生命に関わる問題にはならないのです。

 こうして、生存競争に必要な「臓器」を獲得し、この「臓器」にすぐ不測の事態が起きないよう細胞の数を増やしていった結果、ヒトは「37兆個」という膨大な数の細胞の集まりになりました。

1つ1つの”個性”を、吸収できるだけの数の多さ

 ある程度の数があると、たまに変なのが混じっていても全体として統率がとれるのは、どんなものも同じです。

 例えば、変な人が1%の確率で出現するとします。

 3人の会社には、変な人が出現する可能性は確かに少ないです。しかし、たまたま変な人が出現してしまったら、3人のうち1人が変な人という大変な事態に陥ります。これはリスク管理として問題があります。
 100人の会社には、おそらく1~2人くらい確実に変な人が出現します。それでも、残りの98~99人が頑張れば会社はなんとかなります。

 このように、変な人が現れないことを運任せに期待するより、変な人が現れても全体として統括がとれるようなシステムを作るのが、集団の力です。

 どうしても、1人1人の人間、1つ1つの細胞に焦点を当てると、”個性”があります。この”個性”は平均からのズレを意味します。こうした平均からの”ズレ”を、集団の力で吸収してしまうことができるのは、数が多いからできる芸当です。

 ヒトの場合、1つ1つの細胞の”個性”を消し、ヒトという生命体が問題なく活動できるようにするためには、37兆個という細胞の数が、少な過ぎず、多過ぎず、ちょうど良かった、ということです。

60兆個から37兆個への変化

 ひと昔前まで、ヒトの細胞は「60兆個」と言われてきました。これには特に明確な根拠はなく、細胞1個の重さがだいたい1ngなので、60kgになるには「60兆個」くらい必要だろう、という理由の暫定的な意見でした。

 つまるところ、膨大な数があるので計測するのも難しいため、どういった算出方法をするかによって推測値は大きく異なります。2013年には、色々な細胞の種類ごとに数を推算する算出方法によって「37兆個」であると報告する論文が発表されています1)。

 1) Ann Hum Biol.40(6):463-471,(2013) PMID:23829164

 どちらかというと、「37兆個」の方が信憑性があるのではないかと思います。
 

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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