『オプスミット』ってどんな薬?~副作用と組織移行性から見る『トラクリア』、『ヴォリブリス』との比較
記事の内容
回答:強力な血管収縮因子「エンドセリン」をブロックする
『オプスミット(一般名:マシテンタン)』は、「エンドセリン受容体拮抗薬」です。肺動脈性肺高血圧症(PAH)という特殊な高血圧症に使用します。
「エンドセリン」は強力な血管収縮を持つ物質で、ARBやACE阻害薬がブロックする「アンジオテンシン」の10倍以上の強さを持っています。
既存の「エンドセリン受容体拮抗薬」である『トラクリア(一般名:ボセンタン)』、『ヴォリブリス(一般名:アンブリセンタン)』と比べて、『オプスミット』は効き目と安全性が高いと評価されています。
回答の根拠①:『オプスミット』の少ない副作用
『オプスミット』は、同じ「エンドセリン受容体拮抗薬」の『トラクリア』や『ヴォリブリス』と比べると、肝機能障害や間質性肺炎など重篤な副作用が少ないのが特徴です1,2,3)。
※「肝臓の検査値異常」の頻度
『オプスミット』・・・0.5~5%
『トラクリア』・・・47.6%
※「間質性肺炎」の注意喚起
『オプスミット』・・・なし
『ヴォリブリス』・・・あり
1) オプスミット錠 添付文書
2) トラクリア錠 インタビューフォーム
3) ヴォリブリス錠 添付文書
こうした差は、『オプスミット』の組織移行性が高いことが要因とされています4)。
4) N Engl J Med.369(9):809-18,(2013) PMID:23984728
回答の根拠②:pKaから見る高い組織移行性
『オプスミット』は、肺組織への分布が良好であることが示されています5)。
5) オプスミット錠 インタビューフォーム
組織への移行性は、酸解離定数「pKa」や、水溶性・脂溶性の指標である「分配係数」などによって推察することもできます。
薬が効果を発揮するためには、水である血液中から、脂である組織へ移行する必要があるため、脂溶性が高い方が有利です。
※『オプスミット』の性質
pKa 6.2
分配係数 2.9 (脂:水の分配率の概算 800:1)
※『トラクリア』の性質
pKa 5.1
分配係数 約2.7 (脂:水の分配率の概算 500:1)
※『ヴォリブリス』の性質
pKa 4.0
分配係数 1.20 (脂:水の分配率の概算 15:1)
このことから、『オプスミット』は最も組織へ移行しやすく、低い血中濃度でも高い効果を得られることがわかります。
+αの情報:「エンドセリン」は2つのタイプで絶妙なバランスをとっている
「エンドセリン」の受容体にはAとBの2タイプがあり、それぞれが自身で相反する作用を持つ特殊な物質です。
エンドセリンA・・・血圧を上げる(体液貯留)、血圧を下げる(レニン分泌抑制)
エンドセリンB・・・血圧を上げる(アルドステロン増加)、血圧を下げる(利尿促進)
さらに各臓器によってAとBの受容体分布にばらつきがあります。
こうした複雑な関係にある結果、「エンドセリンA」と「エンドセリンB」の作用によって血圧が急激に上下しないよう、絶妙なバランス調節がなされています6)。
6) Physiol Rev.91(1):1-77,(2011) PMID:21248162
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。