『ベシケア』と『ベタニス』、同じ過活動膀胱の薬の違いは?~年齢と副作用、抗コリン薬とβ3刺激薬の使い分けと併用
記事の内容
回答:『ベシケア』は「第一選択薬」、『ベタニス』は中~高齢者向き
『ベシケア(一般名:ソリフェナシン)』と『ベタニス(一般名:ミラベグロン)』は、どちらも過活動膀胱に使う薬です。
『ベシケア』は、過活動膀胱の「第一選択薬」ですが、口の渇きや便秘といった副作用が起こりやすい薬です。
『ベタニス』は、こうした副作用は少ないですが、生殖器系へ影響する恐れがあります。
過活動膀胱の治療効果は同じくらいとされています。そのため『ベタニス』は、生殖器系への影響が問題にならない中~高齢者であれば、副作用の少ない薬として使うことができます。
片方で効果が不十分な場合には、2つを併用することもあります。
回答の根拠①:『ベシケア』と『ベタニス』~膀胱への作用と治療効果
膀胱は尿を溜めておく場所です。排尿する時には、膀胱を絞るように周りの筋肉(平滑筋)が「収縮」します。過活動膀胱では、膀胱の筋肉が「異常な収縮」を起こし、排尿の回数が増えてしまっています。
『ベシケア』や『ベタニス』は、どちらも膀胱平滑筋に作用してこの「異常な収縮」を解消し、膀胱に尿を溜めておくことができる状態に戻す薬です。
『ベシケア』は「抗コリン薬」です。「ムスカリンM3受容体」をブロック(遮断)することで、膀胱平滑筋の異常な収縮を和らげます1)。その結果、膀胱の緊張状態が解消され、尿意を感じる回数が減ります。
1) ベシケア錠 添付文書
『ベタニス』は「β3刺激薬」です。「アドレナリンβ3受容体」を刺激することで、膀胱平滑筋を弛緩させます2)。その結果、膀胱に溜めておける尿の量が増えます。
2) ベタニス錠 添付文書
過活動膀胱の「第一選択薬」としてよく使われるのは、使用実績の多い『ベシケア』などの「抗コリン薬」です3)が、新しい薬である『ベタニス』の効果も『ベシケア』と変わらないことが報告されています4)。
3) 日本排尿機能学会 「過活動膀胱診療ガイドライン(第2版)」,(2015)
4) BMC Urol.13:45,(2013) PMID:24047126
回答の根拠②:『ベタニス』が中~高齢者向きな理由
『ベシケア』などの「抗コリン薬」が作用する「ムスカリン受容体」は、膀胱だけでなく、口(唾液腺)・消化管(腸)・目(網様体)などにも存在しています。
そのため、副作用として口が渇く、目がかすむ、便秘になるといった症状が出やすい傾向にあります1)。また、前立腺肥大や緑内障の症状を悪化させることもあります。
「β3刺激薬」である『ベタニス』では、こうした副作用は非常に少なくなっています。
※抗コリン作用による副作用 1,2)
ベシケア:口内乾燥(28.3%)、便秘(14.4%)、霞視(3.3%)
ベタニス:口内乾燥(1.7%)、便秘(2.9%)
しかし『ベタニス』は、動物実験の段階で精嚢や子宮など生殖器系への影響が報告されています。そのため、若い人(生殖可能な年齢)への投与はできる限り避けるべきとされています2)。
そのため『ベタニス』を使うのは、基本的に生殖器系への影響が問題にならない中~高齢者に限られますが、加齢によって唾液が減る・便秘になる・視力が落ちる傾向にある高齢者では使いやすい薬と言えます
薬剤師としてのアドバイス:どこからが過活動膀胱か?
水をたくさん飲んだり、お酒やコーヒーを飲んだりすれば、誰でもトイレは近くなります。また、加齢によってトイレが近くなることもあります。
しかし、以下のような経験がある場合には、「過活動膀胱」である可能性があります。
※過活動膀胱かどうかの判断基準の例
1. 1日に8回以上トイレへ行く
2. 寝ていても、トイレに起きることがある
3. トイレの間隔が2時間もない
4. トイレに間に合わないことがある
こういった不調を、「歳だから仕方ない」と諦めてしまうことが少なくありません。しかし、過活動膀胱は『ベシケア』や『ベタニス』などの薬で治療することができます。
治療しなければ死んでしまうというような病気ではありませんが、日常生活に限らず旅行などの際に不安を感じる場合には、一度病院で相談することをお勧めします。
ポイントのまとめ
1. 『ベシケア(抗コリン薬)』は、年齢問わず使える、過活動膀胱の「第一選択薬」
2. 『ベタニス(β3刺激薬)』は、口渇・便秘・目のかすみといった副作用は少ないが、若い人には使えない
3. 歳のせいだと諦めず、日常生活や旅行などに支障を感じる場合は医師に相談を
添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較
◆薬理作用
ベシケア:ムスカリンM3受容体遮断薬
ベタニス:アドレナリンβ3受容体刺激薬
◆名前の由来
ベシケア:Vesica(膀胱)をCare(保護)
ベタニス:β3 agonistから
◆登場した年
ベシケア:2006年
ベタニス:2011年
◆適応症
ベシケア:過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁
ベタニス:過活動膀胱における尿意切迫感、頻尿及び切迫性尿失禁
◆用法
ベシケア:1日1回
ベタニス:1日1回、食後
◆警告の記載
ベシケア:特になし
ベタニス:生殖可能な年齢の患者への投与は、できる限り避ける
◆頻度の高い副作用
ベシケア:口内乾燥(28.3%)、便秘(14.4%)、霞視(3.3%)
ベタニス:便秘(2.9%)、口内乾燥(1.7%)
◆剤型の種類
ベシケア:錠(2.5mg、5mg)、OD錠(2.5mg、5mg)
ベタニス:錠(25mg、50mg)
◆製造販売元
ベシケア:アステラス製薬
ベタニス:アステラス製薬
+αの情報:併用することのメリット
2015年5月にアメリカで開催された「米国泌尿器科学会年次総会(AUA)」において、『ベシケア』単独では十分に効果が得られなかった場合に、『ベタニス』を追加投与することで効果が得られたとする報告がされています5)。
5) Ther Adv Urol.7(4):167-79,(2015) PMID:26445596
『ベシケア』と『ベタニス』の併用療法が今後、頻尿や尿失禁で苦しむ患者にとっての新しい治療の選択肢となることが期待されています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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