「花粉症」に対する誤解と偏見をなくすために知ってほしい5つのこと~ヨーグルト・甜茶・トマト・牛乳の効果と影響
記事の内容
5つのテーマ
①ヨーグルトで「花粉症」が治る?
②どのメーカーの乳酸菌が一番「花粉症」に効く?
③甜茶は「花粉症」に良い?
④トマトのポリフェノールは「花粉症」に良い?
⑤牛乳を飲んでいると「花粉症」は悪化する?
はじめに:「花粉症に効果のある薬」とは
現在、「花粉症」などのアレルギー症状に効果が認められている医薬品には、以下のようなものがあります。
・抗ヒスタミン薬・・・アレルギー症状(鼻水、くしゃみ、痒み)の原因となる「ヒスタミン」をブロックする薬
・抗ロイコトリエン薬・・・アレルギー症状(鼻づまり、喘息)の原因となる「ロイコトリエン」をブロックする薬
※この2種類の違いについてはこちら
この2種類を治療の主軸とし、ステロイド点鼻薬などを組み合わせて治療を行います1)。これはガイドラインでも定められている、治療効果に対して根拠のあるものです。
1) 日本アレルギー学会 「鼻アレルギー診療ガイドライン (2013)」
疑問①:ヨーグルトで「花粉症」が治る?
ヨーグルト単独で、「花粉症」を”治療”することは困難です。薬物治療と併せて、補助的なものとして利用しましょう。
実際に、ヨーグルトの効果を実証した試験においても、抗ヒスタミン薬やステロイド点鼻薬などとヨーグルトを併用して行っています2)。
2) スギ花粉症に対するL-55乳酸菌含有ヨーグルトの臨床効果 (2007)
また、この試験では単なるヨーグルトではなく、「L-55乳酸菌」という特殊な乳酸菌を使用しています。ただのヨーグルトでも腸内細菌を整える効果がありますが、「花粉症」に対する効果を期待するのであれば、入っている乳酸菌にも注意を払う必要があります。
疑問②:どのメーカーの乳酸菌が一番「花粉症」に効く?
現在、「花粉症」に対する緩和効果が期待できる乳酸菌として、色々な種類のものが販売されています。しかし、この緩和効果は個人の体質や体調によって大きく影響を受けるため、単純に比較することはできません。
「花粉症」に対する効果を神経質に調べるよりも、味の好みで選び、その食生活を続けることの方が重要です。
疑問③:甜茶は「花粉症」に良い?
甜茶(テンチャ)は中国茶の一種で、俗に”花粉症に良い”などと言われていますが、ヒトにおける有効性や安全性に対して信頼できる十分なデータはありません。
医薬品としても認められていないため、効果・効能があるような表記で販売することは薬事法違反になります。
薬理学的には甜茶エキスに「ヒスタミン」遊離阻害作用があること2)や、甜茶エキスを4週間投与すると「花粉症」の自覚症状を軽減した、という報告があること3)などから、何らかの良い影響が得られる可能性は考えられますが、まだ十分な検証とは言えません。
2) 炎症.15(2):167-173 (1995)
3) 日本臨床栄養学雑誌.23(3):5-14 (2001)
ひとつの健康習慣として、日頃のお茶を甜茶に変えてみようかな、くらいのものであれば良いですが、治療効果を期待して高いお金を払う必要までは無いと言えます。甘い味の珍しいお茶なので、気に入ったのであれば続けて使ってみることをお勧めします。
疑問④:トマトのポリフェノールは「花粉症」に良い?
トマトの皮に含まれている「トマト果皮ポリフェノール(ナリンゲニンカルコン)」が、俗に「花粉症」に良いと言われています。これは、「ナリンゲニンカルコン」が通年性アレルギー性鼻炎に対して緩和効果がある4)、という報告があることに由来しています。
4) Allergol Int.56(3):225-30,(2007) PMID:17519582
ただし、この試験では「ナリンゲニンカルコン」を毎日360mg欠かさず1ヶ月摂取しています。現在流通しているトマトやトマト加工食品にはどの程度の量が含まれているのか、正確な数値はわかりませんが、360mgを摂取するためにはおよそトマト10~20個程度が必要とされています5)。
5) キッコーマン(株) 「トマトのちから」 Webサイト
トマトには「リコピン」等も含まれ、健康に良いので積極的に食べるのは良いことですが、トマトばかり食べていると当然栄養が偏りますし、ケチャップを大量に摂取すると塩分過多になります。バランスのよい食事を心がけることが大切です。
また、「花粉症」を”治療”するためにはトマト単独では力不足です。薬物治療と併せて行うようにしましょう。
疑問⑤:牛乳を飲んでいると、「花粉症」は悪化する?
全く根拠のないデマです。牛乳と花粉症には何の因果関係もありません。
もしこれが正しければ、乳製品の摂取量が多いアルプスの遊牧民は極めてひどい花粉症患者集団になるはずです。そうではない、ということは、この情報が正しくない、ということです。
こうした誤解の中でよく、”牛乳に含まれるタンパク質が、胃の中で固まって腐敗し、花粉症やアトピー、癌などの原因になる”と述べられていますが、実際にこうしたリスクが上がるという報告も検証もありません。
確かに、牛乳に含まれるタンパク質「カゼイン」は、胃酸などによって一度固まります(凝集)。しかし、これが腐敗するほど胃に留まることはあり得ません。また、消化酵素が働きにくくなるということも、全くの事実無根です。
ただし、牛乳そのものにアレルギーがある場合は、牛乳を避ける必要があります。牛乳アレルギーなど他のアレルギーを持つ人には、花粉症の症状も酷い人が多い傾向にあります。
牛乳を避けたら花粉症の症状が軽くなった、という場合、それは「花粉症」の原因が牛乳だったというわけではなく、その人に牛乳アレルギーがある可能性があります。
薬剤師としてのアドバイス:効果・効能と、個人の感想をごっちゃにしない
「効果・効能」は、科学的根拠に基づいたもので、確実性があり誰でも効果を得られるものです。
「個人の感想」は、あくまで単なる感想なので、”おまじない”と同じで不確実です。
どちらも本人が効果を実感できるのであればそれで良いのですが、「個人の感想」には何の根拠もありません。たまたま、偶然効果が得られたように感じただけ、別の要因で効果が得られたものを誤解している、といった不確実な要素を含んでいます。
現在、「効果・効能」は医薬品しか謳うことができません。これは薬には信頼に足る科学的根拠があるからです。薬と健康食品をごちゃ混ぜにして、不必要な商品を買ってしまわないように気を付けましょう。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
この記事へのコメントはありません。