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知っておくべきこと 薬物動態学

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薬の効き目が、人によって違うのは何故?~吸収・代謝・分布・感受性の個人差

回答:個人差は、吸収・代謝・分布・感受性の4ステップで生じる

 同じ薬の、同じ量を飲んでも、人によって効き目が違うことがあります。薬にはこうした「個人差」がつきものです。

 お酒でも、ビール1杯で酔って眠ってしまう人がいたり、ビール5杯飲んでも全然平気な人がいたりします。お酒を「酔っぱらう薬」と考えると、前者は「よく効く人」、後者は「全く効かない人」ということになります。

 こうした個人差は、薬を飲んだあとに起こる以下の4つの段階において、それぞれ別の要因で生じます。

1. 小腸での「吸収」
2. 肝臓での「代謝」
3. 脂肪への「分布」
4. 患部の「感受性」

1.吸収~小腸で生じる差

 ※酸塩基解離定数「pKa」や、薬の解離型(イオン型)・非解離型(非イオン型)については複雑なため、別記事を参照してください。

 一般的に、薬を飲むと有効成分が小腸から吸収されます。このとき、小腸の環境によって吸収される速さや量に差が生まれます。

 例えば、小腸の動きが活発で食べたものもすぐに大腸へ送られてしまう場合、薬の成分が小腸に留まっている時間が短いので、薬の吸収量も減ります。
 逆に、小腸の動きが鈍っている場合、薬が長く小腸に留まることになるため、薬の吸収量が増えます。
小腸での薬の吸収

 脂の多い食事をした場合、消化に時間がかかるため、食べ物は胃に長く留まることになります。すると、一緒に飲んだ薬も胃に長く留まって、なかなか小腸に届きません。(胃内容排泄速度という指標)
薬の吸収と、胃内容排泄
 一般的に、薬は食前に服用した方が吸収が早い傾向にあるのは、こうした理由があります。

※脂の多い食事をした方が吸収が早くなる薬もあります。

2.代謝~肝臓で生じる差

 薬が小腸から吸収されると、最初に必ず肝臓を通り、代謝を受けてから全身の循環血液中に乗ることになります。この時に肝臓で受ける影響を「初回通過効果」と呼びます。

 肝臓では様々なものに対する「分解酵素」を備えています。

 お酒の強い・弱いは、アルコール分解酵素を持っているかどうかによって決まります。分解酵素があれば、お酒を飲んでもあまり酔っぱらいません。分解酵素がなければ、少量のお酒ですぐに酔ってしまいます。

 お酒を「酔っぱらうための薬」と考えると、お酒に強い人=お酒が効かない人、お酒に弱い人=お酒がよく効く人、ということになります。

 薬もそれぞれの成分に対して、専用の分解酵素があります。この分解酵素がある場合、薬を飲んでもすぐに分解されてしまうので効果が低くなります。分解酵素がなければ、薬の効果は高くなります。

 胃薬(PPI)の『オメプラール(一般名:オメプラゾール)』は、この分解酵素の有無によって効果に大きな差が生じます。この差によって「ピロリ菌」の除菌成功率にも大きな影響を与えることが知られています。
ピロリ除菌成功率と代謝速度 

 そのため、現在は分解酵素の影響を受けない『ネキシウム(一般名:エソメプラゾール)』が、個人差の少ない薬として広く使用されています。

 このような「分解酵素」の有無による個人差は、薬の効果に最も影響を与える要素です。今後、遺伝子解析などで一人一人の分解酵素の強さ(代謝能力)を予め測定しておき、その人に最も適切な薬の種類や量を決定していく、「テーラーメイド医療」が発達してくると予想されます。

3.分布~脂肪で生じる差

 薬が効果を発揮するためには、症状のある場所へ薬が到達する必要があります。胃が痛むのに、薬が足に集まっても意味がありません。

 薬がどういった場所に集まるのかは、薬が水溶性か脂溶性か、分子量が大きいか小さいか、酸性か塩基性か、といった化学構造の要素で決まります。

 例えば、脂溶性の薬を服用した場合、肥満体質の人とやせ型の人で薬の分布は変わります。本来、届くべき目的地に薬が到達するまでの間、道中あちこちに脂肪があると、その脂肪分に薬が溶け込んでいってしまいます。
 すると、目的地に到達する薬の量は減ってしまいます。
薬の分布と脂肪量
 高齢者では筋肉が衰えて脂肪の割合が多くなっています。そのため、若者とは薬の効き目に大きな差が生じることになります。
 こうしたことから、高齢者には専用のガイドラインが設けられる等の対応がとられています。

4.感受性~患部で生じる差

 1~3の影響を全てクリアし、同じ量の有効成分が目的地に到達したとしても、同じだけの効果を発揮するとは限りません。

 薬に対する「感受性」が異なるからです。同じ量の有効成分がそこに存在していても、それによってどれだけの生理活性を発揮するかは、その人の体質や体調によって大きく異なります。

 例えば、抗がん剤などを使用する際でも、がん細胞の遺伝子型や特徴によって薬の効果に大きな差が生じることが知られています。

薬剤師としてのアドバイス:他人の感想はあくまで参考程度に

 この薬は眠くなる、副作用が強い、とても良く効く・・・など、薬を服用した際の感想や経験談はあちこちで目にすることができます。
 しかし、こうした感想や体験談はあくまでその個人のものであって、全ての人に共通するわけではありません。

 全ての人が、ビールジョッキ1杯で気持ちよく酔うわけではありません。

 薬にも、抗ヒスタミン薬の眠気など個人差が非常に大きなものがあります。他人の感想はあくまで参考程度に留め、実際の効果や副作用を飲む前から決めつけてしまわないようにしてください。

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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コメント

    • なつみかん
    • 2016年 4月 22日

    非常にわかりやすい解説ありがとうございます!
    今後の人生にとってプラスの素晴らしい情報でした!
    なぜ人によって、薬の効いてくる時間が違うのかとか
    効き目の強さが違うのかとかそういうのも理解出来ました!

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薬の比較と使い分け100(2017年)
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■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
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【講義・講演等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学/和歌山県立医科大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

 

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