「ノロウイルス」や「ロタウイルス」は、何故アルコールで消毒できないの?~エンベロープの意義と、その弱点
回答:「エンベロープ」の無いウイルスには、アルコールが効かない
アルコール消毒液は、手の消毒にも使う、感染症予防のための消毒液です。しかし「ノロウイルス」や「ロタウイルス」など、「エンベロープ」という構造を持たないタイプのウイルス(ノンエンベロープ・ウイルス)には、十分な効果がありません。
そのため、消毒にはアルコールではなく、「次亜塩素酸」など塩素系の消毒液が必要です。
回答の根拠:アルコールが破壊するのは、ウイルスの「エンベロープ」
「エタノール」などのアルコール消毒液は、ウイルスの構造のうち「エンベロープ」と呼ばれる外膜に作用します。脂でできた「エンベロープ」は、アルコールで簡単に破壊することができます。そのため、「エンベロープ」を持つウイルスは、アルコール消毒することが可能です1)。
1) 感染症学雑誌.74(8):664,(2000)
ところが、ウイルスの中には元から「エンベロープ」を持っていないものが居ます。こういったウイルスに対しては、アルコールで破壊できる構造がないので、効果がありません。
エンベロープを持たないウイルス~ノンエンベロープ・ウイルス
「エンベロープ」を持たない「ノンエンベロープ・ウイルス」には、以下のようなタイプがあります。これらのウイルスは、アルコール消毒では効果がありません。・ノロウイルス (生牡蠣や、冬の食中毒で話題になるウイルス)
・ロタウイルス (ひどい下痢を起こすウイルス)
・ポリオウイルス
・アデノウイルス (プール熱などの結膜炎を起こすウイルス)
「エンベロープ」は胃酸でも破壊されます。そのため、胃腸炎の原因となるウイルスは、胃酸で破壊されない「ノンエンベロープ・ウイルス」がほとんどです。
エンベロープを持つウイルス~エンベロープ・ウイルス
「エンベロープ」を持つ「エンベロープ・ウイルス」には、以下のようなタイプがあります。これらのウイルスはアルコール消毒が可能です。・インフルエンザウイルス (流行性のインフルエンザ)
・単純ヘルペスウイルス
・風疹ウイルス
・C型肝炎ウイルス
・エイズウイルス (HIV)
「エンベロープ」は、他の生物の細胞に付着する際や、免疫システムからウイルスを守る際に重要な役割を担っています。
そのため、必ずしも「エンベロープ」はウイルスの弱点というわけではありません。
薬剤師としてのアドバイス:「ノロウイルス」の消毒には、塩素が必要
消毒液には、様々な種類のものがあります。これらは、どんな細菌・ウイルスの退治を目的にするのか、消毒する対象は何か、によって明確に使い分ける必要があります。
「ノロウイルス」の消毒には、「次亜塩素酸」という塩素系の消毒液を使う必要があります。
アルコールで何でも消毒できるわけではありませんので、正しく消毒液を選ぶようにしてください。
+αの情報:「エタノール」も、組み合わせによって「ノロウイルス」に効果がある
「エタノール」に、「クエン酸」や「硫酸亜鉛水和物」を組み合わせることで、「ノロウイルス」に対する効果が発揮されることがわかっています。そのため『ウエルセプト』などの消毒液は、塩素の匂いが気にならない「ノロウイルス」対策の消毒液として、広く使われています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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