「うつ病」の人に、”頑張れ”と言ってはいけないのは何故?~安易な励ましは自殺を後押しする
回答①:わかってもらえない、と感じる
「頑張れ」という言葉が、必ずしも禁句というわけではありません。相手の事情も考えずに、適当に「頑張れ」と声をかけることが非常に危険である、ということです。
相手の話をじっくりと聞き、苦痛を少しでもわかち合い、自分がどれだけ相手のことを必要としているかを伝え、自分がどれだけ相手のことを理解しようとしているかを伝え、その上で出てきた励ましの言葉に「頑張れ」が含まれていても、それは何も悪いことではありません。
一般的に、「うつ病」患者が最も辛いと感じるのは”理解されない”ことです。自分でもよく理解できない苦痛を、何とか理解しようと悪戦苦闘しているのが、普通の「うつ病」患者の状態です。
そんな患者に対して、大して理解しようともせず、適当に「頑張れ」と声をかけてしまうと、どう思われるのか。
もし、職場などの比較的浅い関係であれば、こうなるはずです。
「もう死ぬほど頑張っているのに、この人も苦しみを理解してくれない。やっぱり自分を理解してくれる人は世の中に一人も居ないんだ」
もし、家族などの深い関係であれば、こうなるはずです。
「こんなに辛いのに、それでもやっぱり自分は頑張れていないんだ。自分はなんてダメなんだ、生きている価値なんて無い」
世の中に絶望するか、自分を完全否定するか、いずれにせよ自殺を後押ししてしまう可能性がある、極めて悪手です。
回答②:既に失敗した方法を提案する
一般的に「うつ病」患者は、常軌を逸した水準で物事を考え込んでいます。特に、「生きたい」という生物としての欲求と、「生きていては迷惑になる」とか「生きていても何も良いことはない」といった自己否定と絶望感の葛藤に関しては、四六時中考え続けていると言っても過言ではありません。
その現状を打開する方法は、それこそ”死にもの狂い”で考えています。あの手、この手、あらゆる方法を探っています。
そんな患者に対して、安易に「気分転換すれば良いよ」とか「気持ちを明るく持てば良いよ」と、適当な提案をしてしまうと、どういったことが起こるでしょうか。
ほとんどの場合、”既に試して失敗した”方法を提案してしまうことになるのです。すると、自分だけでなく、他の人でも打開策を見つけることができない、という強い絶望感に襲われます。他の人に頼ったとしても、今の状況を打開することは不可能である、と思い込んでしまうのです。
安易な提案によって、世の中には打開策が1つも存在しないと思い込ませてしまうことは、自殺を後押ししてしまう可能性がある、極めて悪手です。
薬剤師としてのアドバイス:じゃあ、どうすれば良いのか
基本的に、専門医へ任せましょう。素人が生半可な気持ちで接して、取り返しのつかない事態になってしまうことは、絶対に避けなければなりません。
例え本気で接するにしても、完全復帰するまでの長い年月を支え続ける覚悟と、共倒れにならないだけの自分の軸とが無ければ、無責任に踏み込むべきではありません。並大抵の覚悟では不可能です。
しかし、友人・家族として何もできることはないのか、というと、そうでもありません。
安易に理解したような素振りを見せず、純粋に”理解しよう”と相手の話を聞くのが良いです。
極論、他人は他人なので、その気持ちを100%完全に理解することは不可能です。だから、簡単に「理解できた」というのは可笑しな話です。100%理解することは不可能だ、ということを前提に、それでも99%までは理解してやるぞ、という姿勢を明らかにし、そうした態度で接する限り、「うつ病」患者に絶望を与えるようなことはないはずです。
そして、「うつ病」患者を支えようとして自分が倒れてしまわないよう、自分の心身の健康を維持することも非常に大切です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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