『ワーファリン』が今でも使われているのは何故?~新規抗凝固薬との比較
記事の内容
回答:『ワーファリン』の方が優れている点もあるから
『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』は古い薬ですが、新しい抗凝固薬よりも優れている点が3つあります。
1. 多少の飲み忘れがあってもカバーできる(半減期が長い)
2. 効き目を客観的に評価しやすい(PT-INR)
3. 値段が安い
そのため、『プラザキサ(一般名:ダビガトラン)』や『イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)』などの新しい抗凝固薬が登場している現状でも、『ワーファリン』も広く使われています。
回答の根拠①:半減期の長さ~多少の飲み忘れをカバーできる
『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』の半減期は55~133時間と、新規抗凝固薬と比べても非常に長いのが特徴です1)。
1) ワーファリン錠 添付文書
※抗凝固薬の半減期
ワーファリン(一般名:ワルファリン)・・・・・55~133時間
プラザキサ(一般名:ダビガトラン)・・・・・・10.7~13.4時間
イグザレルト(一般名:リバーロキサバン)・・・5.7~12.6時間
エリキュース(一般名:アピキサバン)・・・・・6.12~8.11時間
リクシアナ(一般名:エドキサバン)・・・・・・4.9~19.2時間
そのため、『ワーファリン』は続けて服用していると、薬の血中濃度が非常に安定するようになります。
つまり、毎日規則正しく薬を服用し続けていれば、たまに少し薬を飲む時間が遅くなったとしても、血中濃度が大きくは変動することはありません。
一方、新規抗凝固薬は半減期が短く、ちょっとした飲み忘れでも血中濃度が下がり、効き目が弱まってしまうことがあります。
このことから、薬の飲み忘れが多い人、飲む時間が不規則な人などは、それをカバーするために半減期の長い『ワーファリン』を選ぶことがあります。
回答の根拠②:「PT-INR」で効き目を客観的に評価しやすい
『ワーファリン』には「PT-INR」という、「薬の効き目を客観的に評価できる指標」があります。
1962年に登場して以来、『ワーファリン』を安全かつ有効に使うために、この「PT-INR」がどの程度の範囲に収まっていれば病気の再発が起こらないか、副作用が起こらないか、といった検討が数多く行われ、豊富な使用実績とデータが蓄積されています。
実際に、この「PT-INR」の値については、1.5~2.0の範囲であれば出血リスクを増やさず治療できるとする報告2)、2.0~3.0の範囲であればより効果を高められるとする報告3)、70歳以上の高齢者であれば1.5~2.5の範囲が良いとする報告4)などがあります。
2) N Engl J Med.348(15):1425-1434,(2003) PMID:12601075
3) N Engl J Med.349(7):631-9,(2003) PMID:12917299
4) Circ J.77(9):2264-70,(2013) PMID:23708863
このように「PT-INR」は年齢や持病、その人の目指す治療などに合わせて目指すべき値が示されているため、個々の患者の状況に合わせて、薬の量を調整することができます。
新規抗凝固薬はこうした調節の手間が無くて良いという面もあります。しかし一方で、抗凝固薬の目的が心筋梗塞や脳梗塞の予防である以上、「PT-INR」という明確な基準がある『ワーファリン』を使った方が良いという考え方もあります。
回答の根拠③:値段が安い
『ワーファリン』は、新規抗凝固薬と比べると値段が10分の1以下と、非常に安い薬です。
※抗凝固薬の薬価 (2018年改訂時)
ワーファリン・・・0.5mg(9.60)、1mg(9.60)、5mg(9.90)
プラザキサ・・・・75mg(136.40)、110mg(239.30)
イグザレルト・・・10mg(368.50)、15mg(524.30)
エリキュース・・・2.5mg(140.80)、5mg(257.20)
リクシアナ・・・・15mg(294.20)、30mg(538.40)、60mg(545.60)
効果にさほど大きな違いがないのであれば、コストパフォーマンスに勝る選択基準はありません。
薬剤師としてのアドバイス:一概に、「どちらが優れる」とは言えない
これらの他にも、『ワーファリン』は「ビタミンK」を使えば解毒できるほか、錠剤は一包化ができること、微調整には顆粒もあるなど、調剤の面からも便利な点があります。
しかし新規抗凝固薬は全体的に、脳梗塞の予防効果が『ワーファリン』と同じかそれ以上で、なおかつ出血リスクは少ない、という長所があります(後述)。
さらに、定期的な血液検査をする必要がなく、納豆などの「ビタミンK」を豊富に含む食品の制限もないという点で患者の負担も少なくて済みます。
そのため一概にどちらが良いとは言えず、個々の状況に応じて『ワーファリン』か新規抗凝固薬か、その人によってより安全かつ効果的な薬、という基準で選ぶことになります。
ポイントのまとめ
1. 『ワーファリン』には、多少の飲み忘れならカバーできる「半減期の長さ」がある
2. 『ワーファリン』は定期的な血液検査が必要だが、それによって効き目を客観的に評価できる
3. 『ワーファリン』は新規抗凝固薬より遥かに安い
+αの情報:『ワーファリン』と新規抗凝固薬の代表的な比較試験
『ワーファリン』と新規抗凝固薬を比較した試験では、概ね脳梗塞の予防効果が『ワーファリン』と同じかそれ以上で、なおかつ出血リスクは少ない、という結果が出ています。
そのため、薬の効果では新規抗凝固薬の方が優れている、というのが現在の一般的な認識です。
※『ワーファリン』 vs 『プラザキサ』 (RE-LY試験) 5)
『ワーファリン』と『プラザキサ』の220mgでは同じ効果で、『プラザキサ』の方が大出血の副作用が少ない。
『プラザキサ』を300mgまで増やすと、大出血の副作用は同じくらいになるが、より高い効果が得られる。
※『ワーファリン』 vs 『イグザレルト』 (ROCKET-AF試験) 6)
『ワーファリン』と『イグザレルト』の効果は同じで、大出血のリスクもほぼ同程度だが、頭蓋内出血のリスクは『イグザレルト』の方が少ない。
※『ワーファリン』 vs 『エリキュース』 (ARISTOTLE試験) 7)
『エリキュース』は「脳梗塞や全身塞栓症」を防ぐ効果が『ワーファリン』よりも高く、さらに大出血のリスクが少ない。
5) N Engl J Med.361(12):1139-51,(2009) PMID:19717844
6) N Engl J Med.365(10):883-91,(2011) PMID:21830957
7) N Engl J Med.365(11):981-92,(2011) PMID:21870978
ただし、高齢者や体重の軽い人に対する低用量(2.5mgを1日2回)の『エリキュース』では『ワーファリン』よりも効果が劣るとする報告8)もあるように、薬を使う状況によって優劣は変わる可能性があります。
8) BMJ.356:j510,(2017) PMID:28188243
そのため、これらの試験結果だけでは安易に優劣はつけられず、年齢や持病といったリスク要素、薬の用量などによって慎重に検討する必要があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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