薬を飲んでいる間も、授乳して良いと言われた。何故?~乳児が摂取する薬の量(RID)を概算する
回答:添付文書の画一的な表現だけで判断するべきではない
母親が服用した薬の成分が、母乳中へ移行することがあります。その場合、薬の種類や量によっては、授乳を控えなければならないことがあります。しかし、母乳に移行しない薬や、移行しても乳児に影響しないような薬であれば、服用中でも授乳が可能です。
こうした授乳の可否は、薬の種類や量によって異なるため、一つずつ個別に確認する必要があります。薬の添付文書に書かれた「授乳を避けるべき」とする画一的な表現だけから判断することはできません。
詳しい回答:添付文書上は、授乳できない薬が多い
薬の添付文書にも、授乳の可否についての記載項目がありますが、”投与中は授乳を避けること”や、”やむを得ず投与する場合には授乳を中止させること”という後ろ向きな表現が、画一的に記載されているに留まっています。授乳によるメリットは、母子ともに極めて大きなものがあります。そのため、妊娠中の薬と同様、この添付文書の記載内容だけで授乳を中止してしまうことは、望ましいことではありません。
回答の根拠:相対的乳児薬物摂取量(RID)という指標
薬と授乳で問題になるのは、乳児が母乳から薬を摂取してしまい、それによって健康被害が生じることです。 この「乳児の薬物摂取量」は、「母乳中の薬物濃度」 × 「哺乳量」 で概算することができます。
また、「母乳中の薬物濃度」は、「母親の血中濃度」 × 「M/P比」で概算することができます。
「M/P比」は、”薬がどの程度、母乳へ移行するか”という値です。
「M/P比」が0.5ということは、母乳中の濃度は血液中の濃度の半分、ということを意味します。この値はインタビューフォーム等や文献から調べる必要があります。
「乳児の薬物摂取量(mg/kg/日)」 ÷ 「母親の薬物摂取量(mg/kg/日)」 ×100で、「相対的乳児薬物摂取量(RID)」という指標を算出することができます。
例えば、このRIDが0.2%と算出された場合、母親が服用した薬のうち、0.2%の量を乳児が摂取するということになります。※RIDは体重1kgあたりの数値です。50kgの母親と5kgの乳児であれば、摂取する薬の総量は0.02%ということになります。
薬は、当然ながら微量を摂取しても作用を発揮しません。このRIDが10%未満の薬であれば、授乳は概ね安全と評価されています1)。
1) 日本循環器学会 「小児期心疾患における薬物治療ガイドライン2012」
薬剤師としてのアドバイス:授乳のメリットを最大限に生かせるように
母乳は栄養バランスが良く、「免疫グロブリン」や「リゾチーム」、「ラクトフェリン」等を含み、乳児の免疫力を強化する作用があります。また、母体にとっても授乳をさせることで「オキシトシン」というホルモンが分泌され、これが後の卵巣がんや乳がんの発症リスクを低下させるとも言われています。
更に、授乳に際して母子が肌を触れ合うことによるメリットも高いことが示唆されています。
これらのことから、授乳は安易に中断せず、できる限り続けることをお勧めしています。
その際、薬剤師は画一的な表記に留まっている添付文書だけでなく、先述のようなRIDの概算や、より詳しい「Medications and Mother’s Milk 2012」などの安全性基準を参考に指導を行っています。
薬を服用中は授乳できない、と思い込まず、どうすれば授乳を続けられるのか、薬剤師に相談することをお勧めします。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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