高齢者にはH2ブロッカーよりもPPIが良いのは何故?~老年医学会の推奨
記事の内容
回答:長期使用時の「認知機能の低下」リスクを考慮
老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」において、『ガスター(一般名:ファモチジン)』などのH2ブロッカーは「中止を考慮すべき薬(ストップ)」に分類されています。
これは、高齢者ではH2ブロッカーの長期使用によって、認知機能が低下するリスクがあるからです。
特に、こうした薬剤性の認知機能低下と、認知症などの疾患による認知機能低下は区別が難しく、不必要な薬の使用を招いてしまうリスクにもつながってしまいます。
一方、『ネキシウム(一般名:エソメプラゾール)』などのPPIは、高齢者が長期服用をしても大きなリスクがないため、「使用が推奨される薬(スタート)」に分類されています。
これらのリスクは、あくまで高齢者が長期使用した場合に問題となるものです。処方された薬を自己判断で飲まず、症状を放置してしまうと、胃炎や逆流性食道炎をぶり返すなど、認知機能の低下よりも遥かに大きなリスクがあります。
処方された薬に疑問がある場合には必ず医師・薬剤師に相談するようにし、自己判断で薬を止めたりしないようにしてください。
回答の根拠①:H2ブロッカーのリスク報告
『ガスター』等のH2ブロッカーを長期使用することで、高齢者の認知機能が低下するリスクが報告されています1,2)。
1) JAGS.59:251-7,(2011)
2) Pharmacoepidemiol Drug Saf.13(11):781-7,(2004) PMID:15386717
こうしたリスクを避けるため「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」では、できる限り使用を避け、PPIによる治療に切り替えることが推奨されています3)。
3) 老年医学会 「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」
回答の根拠②:認知症と、薬剤性の「せん妄」の区別は難しい
薬の副作用によって起こる精神系の副作用、特に「せん妄」と呼ばれる副作用は、症状に気付くことが難しいとされています。
特に高齢者の場合、常用している薬が原因で起きた「せん妄」と、本人に発症した「認知症」を区別することも難しいことが問題となっています。本当は薬の副作用であるにも関わらず、「認知症」と誤診されてしまう恐れもあります。
どういった原因で精神系の副作用が現れるのか、正確な機序はわかっていませんが、「薬剤性のせん妄」という副作用が存在することを認識し、安易に抗精神病薬を追加する前に、「薬を減らしてみる」という方法を考慮することも大切です。
こうした薬の「引き算」は、薬剤師の最も得意とする分野です。気になる場合は一度、信頼できる薬剤師に相談してみることをお勧めします。
薬剤師としてのアドバイス:薬に怯えず油断せず、正しく理解する
一般的に、高齢者では腎臓や肝臓の機能が低下しています。そのため、薬を解毒・分解するスピードが遅く、身体に蓄積しやすい状態になっています。
このことが、高齢者で様々な副作用が起こりやすい原因の1つとも考えられています。
薬は、使うリスクと使わないリスクを天秤にかけ、使った方が良いと判断された場合にのみ使用するのが鉄則です。
H2ブロッカーによる「せん妄」は確かにリスクが指摘されているものの、それを嫌って薬を止めてしまうと、胃炎や逆流性食道炎をぶり返して遥かに大きなリスクとなることも理解しておく必要があります。
+αの情報:新たに指摘されたPPIと認知症のリスク
2016年2月に、PPIの使用が認知症のリスクを高める可能性が指摘され4)、新たに注目を浴びています。
4) JAMA Neurol.73(4):410-6,(2016) PMID:26882076
ただし、この報告は「前向きコホート試験」と呼ばれる調査方法で行われたもので、まだエビデンスレベルも【2】のものです。
そのため、今後はよりエビデンスレベルの高い【1b】ランダム化比較試験(RCT)や、【1a】RCTのメタ解析などの研究によって、因果関係などを精査していかなければなりません。
たとえ胃薬であっても、不要な薬を服用する必要はありません。しかし、胃炎や食道炎を繰り返すことも、がん化も含めて健康に良いものではありません。今後の調査・研究に注目する必要があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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