『タケキャブ』と『タケプロン』、同じ胃酸を抑える薬の違いは?~P-CABの改良点、PPIの強み、ピロリ除菌の成功率
記事の内容
回答:効果の高い『タケキャブ』、使用実績が豊富で値段の安い『タケプロン』
『タケキャブ(一般名:ボノプラザン)』と『タケプロン(一般名:ランソプラゾール)』は、どちらも胃酸を抑える薬です。
『タケキャブ』は、効果の高い「P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー)」という新しい薬です。
『タケプロン』は、使用実績が豊富で値段も安い「PPI(プロトンポンプ阻害薬)」という従来からある薬です。

基本的に、『タケキャブ』は『タケプロン』よりも様々な面で優れる”改良版”ですが、そこまでの性能が必要でない場合には『タケプロン』の方がコスパに優れることもあります。
回答の根拠①:「ボノプラザン」の改良点~P-CABの高い効果
「ボノプラザン」と「ランソプラゾール」などのPPIは、どちらも胃酸を抑えることで消化性潰瘍や逆流性食道炎などを治療する薬です。「ボノプラザン」は、「ランソプラゾール」などのPPIにあった弱点(例:胃酸による活性化が必要で効果の立ち上がりが遅い、代謝酵素による個人差が大きい)を改良して開発された薬1)です。

消化性潰瘍に対する効果には特に差がない2)ため、どちらの薬も”第一選択薬”として同列で扱われています3)が、重症の食道炎に対しては「ボノプラザン」の方が高い効果を得られる4,5)ため、優先的に使われています6)。
1) タケキャブ錠 インタビューフォーム
2) Dig Dis Sci.69(10):3863-3874,(2024) PMID:39294424
3) 日本消化器病学会「消化性潰瘍診療ガイドライン2020」
4) Am J Gastroenterol.119(5):803-813,(2024) PMID:38345252
5) Gastroenterology.164(1):61-71,(2023) PMID:36228734
6) 日本消化器病学会「GERD診療ガイドライン2021」
ピロリ除菌成功率も「ボノプラザン」の方が高い
「ボノプラザン」と「ランソプラゾール」などのPPIは、どちらもピロリ除菌に用いられますが、特に一次除菌の成功率は「ボノプラザン」を使った場合には92.6~95.8%と、「ランソプラゾール」などのPPIを使った場合の69.6~75.9%に比べて大幅に高い7,8)ことがわかっています。
二次除菌についても、特に日本人では「ボノプラザン」の方が成功率は高め9)とされているため、通常はピロリ除菌には「ボノプラザン」が使われます10)。

7) Gut.65(9):1439-46,(2016) PMID:26935876
8) Can J Gastroenterol Hepatol.2017:4385161,(2017) PMID:28349044
9) Therap Adv Gastroenterol.12:1756284819858511,(2019) PMID:31320930
10) 日本ヘリコバクター学会「H.pylori感染の診断と治療のガイドライン2024」
回答の根拠②:「ランソプラゾール」の強み~安価に使えるPPI
2014年に登場した「ボノプラザン」に比べると、1991年から使われている「ランソプラゾール」などのPPIの方が使用実績は豊富で、古い薬なぶん値段も安めです。

そのため、特に「ボノプラザン」でなければならない理由がない場合には、安価に使える「ランソプラゾール」などのPPIの方が、コスパに優れることもあります。
薬剤 | 2024改訂時の薬価 |
タケキャブ (ボノプラザン) | 10mg(94.30)、20mg(141.00) |
タケプロン (ランソプラゾール) | 15mg(20.40)、30mg(34.50) |
オメプラール (オメプラゾール) | 10mg(21.70)、20mg(33.60) |
パリエット (ラベプラゾール) | 5mg(21.60)、10mg(35.80)、20mg(61.00) |
ネキシウム (エソメプラゾール) | 10mg(34.70)、20mg(59.30) |
実際、「ボノプラザン」にまだ十分な使用実績がない、低用量アスピリンなどの抗血小板薬の副作用対策にはPPIの方が推奨度は高く設定されています3)。
薬剤師としてのアドバイス:薬の値段も重要な判断基準
一般的に、新しい薬はこれまでの薬をさらに改良したようなものが多いですが、そのぶん値段は高くなります。しかし、新しい薬の方がすべての面で優れているとは限りません。時には、古いぶん使用実績が豊富で値段も安い薬の方が”良い薬”になることも多々あります。
薬代も、長く薬を使い続けていると大きな負担になってきます。高価な新しい薬を使う必要があるかどうか、カタログスペックの優劣ではなく自分に合った薬を選ぶために、医師や薬剤師ともしっかり相談することが大切です。
ポイントのまとめ
1. 『タケキャブ(ボノプラザン)』は、『タケプロン(ランソプラゾール)』を改良したP-CAB
2. 食道炎やピロリ除菌に対しては『タケキャブ(ボノプラザン)』の方が効果は高い
3. 消化性潰瘍や抗血小板薬の副作用対策では、使用実績が豊富で値段も安い『タケキャブ(ランソプラゾール)』でも良さそう
薬のカタログスペックの比較
添付文書、インタビューフォーム、その他資料の記載内容の比較
ボノプラザン | ランソプラゾール | |
先発医薬品名 | タケキャブ | タケプロン |
薬効分類 | P-CAB(カリウムイオン競合型アシッドブロッカー) | PPI(プロトンポンプ阻害薬) |
名前の由来 | 武田薬品工業のP-CAB | 武田薬品工業のプロトンポンプ阻害薬 |
胃・十二指腸潰瘍、逆流性食道炎 | 適応あり | 適応あり |
低用量アスピリン/NSAIDs使用時の副作用予防 | 適応あり | 適応あり |
用法 | 1日1回 | 1日1回 |
投与日数制限 | 胃潰瘍:8週間 逆流性食道炎:8週間 十二指腸潰瘍:6週間 胃食道逆流症:適応なし | 胃潰瘍:8週間 逆流性食道炎:8週間 十二指腸潰瘍:6週間 胃食道逆流症:4週間 |
消化性潰瘍治療の立ち位置3) | 第一選択薬 | 第一選択薬 |
GERD治療の立ち位置6) | 優先 | 選択肢 |
ピロリ一次除菌の成功率7,8) | 92.6~95.8% | 69.6~75.9% |
ピロリ菌検査が偽陰性になるリスク | 添付文書には記載なし | あり |
CYP2C19の個人差で起こる動態変化 | 35%未満 | AUC:3倍 Cmax:1.7倍 t1/2:2倍 |
販売年 | 2014年 | 1992年 |
妊娠中の使用 | 制限なし オーストラリア基準 【評価なし】 | 制限なし オーストラリア基準【B3】 |
ピロリ除菌の配合剤 | 一次除菌:ボノサップ 二次除菌:ボノピオン | (2018年に販売中止) |
抗血小板薬との配合剤 | キャプピリン配合錠(アスピリン+ボノプラザン) | タケルダ配合錠(アスピリン+ランソプラゾール) |
剤型 | 錠(10mg、20mg)、OD錠(10mg、20mg) | OD錠(15mg、30mg)、カプセル(15mg、30mg)、静注 |
世界での販売状況 | 日米とアジアを中心に10ヵ国以上 | 日本、欧米各国を中心に100ヵ国近く |
先発医薬品の製造販売元 | 武田薬品工業 | 武田薬品工業 |
同成分のOTC医薬品 | (販売なし) | (販売なし) |
+αの情報①:代謝酵素による影響の大きさ
「ボノプラザン」と「ランソプラゾール」は、どちらも代謝酵素CYP2C19の影響を受けるため、この代謝酵素が強く作用する人(EM:Extensive Metabolizer)、あまり作用しない人(PM:Poor Metabolizer)で血中濃度に差が生じることになります。
このとき生じる血中濃度の変動は、「ボノプラザン」では35%未満にとどまる1)のに対し、「ランソプラゾール」では2~3倍近い差が生じる11)など、その影響は大きい傾向にあります。そのため、「ボノプラザン」の方が個人差は少なく、安定して高い効果を得られる薬と言えます。

11) タケプロンOD錠 インタビューフォーム
+αの情報②:「ボノプラザン」でもピロリ菌の検査は”偽陰性”になる可能性がある
「ボノプラザン」も、「ランソプラゾール」などのPPIと同様、尿素呼気試験や迅速ウレアーゼ試験を偽陰性(※ピロリ菌に感染しているのに”検出”されないこと)にすることがあります。
明確な休薬期間は定まっていません1,10)が、PPIと同様の休薬を行うのが一般的です。
※尿素呼気試験や迅速ウレアーゼ試験を行う前のPPI
通常時:2週間中止してから実施
ピロリ除菌治療の効果判定:治療終了から4週間以降に実施
+αの情報③:”重篤な副作用”はPPIの方が少ない可能性
「ボノプラザン」に比べると、「ランソプラゾール」の方が膵炎や筋力低下などの”重篤な有害事象”は少なかった、という報告があります12)。薬との関連はまだ明確になっていませんが、こうした症状は他の「ボノプラザン」の研究でも報告されている13)ため、今後の調査にも注意しておく必要があります。
12) Front Pharmacol.14:1304552,(2024) PMID:38273830
13) Medicine (Baltimore).101(47):e31807,(2022) PMID:36451489
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【修正】
『タケキャブ』には「ウレアーゼ活性」への作用が無いことから、当初はピロリ菌検査にも影響しないものと解釈していましたが、実際には偽陰性が起こるケースもあり、改訂になったガイドラインでも休薬が必要とされたため、その旨を修正しています。