■サイト内検索


スポンサードリンク

統計学 検査値

/

腫瘍マーカーの値が高かったら、確実に癌なの?~精密検査の要・不要を判断するふるい分け

回答:あくまで「可能性が高い」

 腫瘍マーカーが「陽性」を示した、「異常値」であったからといって、必ず「がん」があるわけではありません。
 逆に、腫瘍マーカーが「陰性」を示した、「正常値」であったからといって、絶対に「がん」が無いわけでもありません。

 色々な腫瘍マーカーに設定されている基準値の範囲は、あくまで「統計学的に処理した数値」であって、絶対的な基準ではありません。

 ただし、腫瘍マーカーの値が正常から大きく外れていた場合には、「がん」である可能性が高いため、さらに精密検査をする必要があります。
 

回答の根拠:腫瘍マーカーは、「ふるい分け」のための補助的な役割

 国民全員の全身を精密に検査していては、時間や病院がいくらあっても足りません。そのため、精密検査をする必要があるかどうかを、何かの基準で選ぶ必要があります。

 この時に用いる基準が、「腫瘍マーカー」です。
腫瘍マーカーのふるい分け
 つまり、「腫瘍マーカー」は「時間とお金をかけてまで、精密な検査をする必要があるかどうか?」という「ふるい分け(スクリーニング)」の方法として用いられています。

カットオフ値~どこかで線引きをする必要がある

 「腫瘍マーカー」が猛烈に高い人を集めると、全ての人に「がん」があります。
 「腫瘍マーカー」が非常に低い人を集めると、全ての人に「がん」がありません。

 「腫瘍マーカー」が微妙に高い人を集めると、たまに「がん」の人が混じっています。

 「がん」の人を効率良く見つけるためには、たまに「がん」の人が混じっているくらいの値で線引きをし、精密検査に回す必要があります。

 この線引きが「カットオフ値」で、これより低ければ正常、これより高ければ異常ということになります。
腫瘍マーカーとカットオフ値

 例えば①を「カットオフ値」とすると、「がん」の患者を見逃してしまう恐れはほとんどありませんが、「がん」でない人を無駄な検査に回してしまうことが増えます。
 例えば②を「カットオフ値」とすると、無駄な検査をする回数は減りますが、「がん」の患者を見逃してしまう恐れが高くなります。

 この「カットオフ値」をどこで設定するのか、という設定は、時代の推移や技術の進歩、検査に使用する試薬などによって変わることがあります。
 そのため、腫瘍マーカーの数値だけで「がん」の有無を判断することはできず、あくまでレントゲンやMRI、その他の精密検査の必要性を確認する、効率良い検査をするための補助的な役割を担っています。

薬剤師としてのアドバイス:病院によって検査値が変わることも

 この腫瘍マーカーは、抗原抗体反応を利用した方法で検出しています。こうした反応は、使う試薬・使う機械によって若干の差が生じます。
 そのため、ボーダーライン上の人では、健康診断で「異常値」が出たのに、近所のかかりつけ病院で再検査したら何ともなかった、ということが起こり得ます。

 このように、腫瘍マーカーは現在のところ絶対的な基準ではなく、あくまで補助的な基準として使われているものだ、ということを知っておくと良いでしょう。

 ただし、どちらかで「異常値」が出た場合には、念のため精密検査をしておくことをお勧めします

腫瘍マーカーの例①:AFP

 AFPはα-フェトプロテインという”肝臓がん”の腫瘍マーカーとして用いられている物質。
 基準値は0~10ng/mL(CLIA法)もしくは0~20ng/mL(RIA固相法)と、測定方法によって異なる。
 200を越えると肝臓がんの可能性もあるが、肝炎や肝硬変である可能性も高い。
 400を越えると肝臓がんの可能性が非常に高い。

腫瘍マーカーの例②:CEA

 CEAは現在最もよく用いられている腫瘍マーカーの1つ。
 基準値は0~5ng/mL。
 高齢者や喫煙者では若干高くなる傾向がある。
 10を越えると身体のどこかにがんがある可能性がある。
 20をこえると転移がんの可能性がある。

※他の腫瘍マーカーの例
・CA15-3:基準値は0~30U/mL。2倍以上の値になると、乳がんなどの可能性が高い。
CA19-9:基準値は0~37U/mL。2倍以上の値になると、膵臓などにがんがある可能性が高い。
・CA125:基準値は0~25U/mL(閉経後は0~40U/mL)。異常値の場合、卵巣がんや子宮がんの可能性が高い。
・CA602:基準値は0~63U/mL。200を越えると卵巣がんの可能性が高い。
・TPA:基準値は0~125U/mL。異常値の場合、身体のどこかにがんがある可能性がある。
PSA:基準値は0~4ng/mL。加齢と共に高くなるが、1年に0.75ng/mL以上増加すると、前立腺がんの可能性が高い。
・CYFRA:基準値は0~2ng/mL。基準値を越えた時点から、肺がんである可能性が高い。
・SCC:基準値は0~1.5ng/mL。異常値の場合、子宮がんや食道がんなどの可能性がある。
・NSE:基準値は0~10ng/mL。異常値の場合、神経細胞に腫瘍がある可能性がある。
・SLX:基準値は0~38U/mL。異常値の場合、身体のどこかにがんがある可能性が高い。
・hCG:基準値は0~0.2ng/mL。異常値の場合、卵巣や精巣、肺にがんがある可能性がある。
・PIVKA-Ⅱ:基準値は0~40mAU/mL。異常値の場合、肝臓がんである可能性がある。

 参考)臨床検査値ハンドブック(じほう社)

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講演・シンポジウム等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

利益相反(COI)
特定の製薬企業との利害関係、開示すべき利益相反関係にある製薬企業は一切ありません。

■ご意見・ご要望・仕事依頼などはこちらへ

■カテゴリ選択・サイト内検索

スポンサードリンク

■おすすめ記事

  1. 『ミラペックス』と『ペルマックス』、同じパーキンソン病治療薬…
  2. 『アダラート』・『カルブロック』・『アテレック』、同じCa拮…
  3. 『ロキソニン』と『セレコックス』、同じ鎮痛薬の違いは?~速効…
  4. 『パタノール』と『インタール』、同じアレルギー点眼液の違いは…
  5. 『ノルバデックス』と『アリミデックス』、同じ乳がん治療薬の違…
  6. 『アドエア』と『シムビコート』、同じ喘息吸入薬の違いは?~デ…
  7. 『ロイコボリン』と『フォリアミン』、同じ葉酸の薬の違いは? …

■お勧め書籍・ブログ

recommended
recommended

■提携・協力先リンク

オンライン病気事典メドレー

banner2-r

250×63

スポンサードリンク
PAGE TOP