■サイト内検索


スポンサードリンク

抗生物質 薬の誤解

/

風邪で病院へ行ったのに、抗生物質を出してくれない。何故?

回答:ほとんどの風邪に、抗生物質は不要

 「風邪」は、ほとんどが「ウイルス」によるものです。

 「細菌」と「ウイルス」は全くの別ものなので、「細菌」を退治する抗生物質では「ウイルス」には効きません。そのため、通常は「風邪」に抗生物質は必要ありません。
風邪と抗生物質~ウイルス性の感染症と細菌性の感染症
 それでも、「風邪」に抗生物質が処方された、と感じる場合もあります。
 それは、自分では「風邪」と思っていても、実際には中耳炎や副鼻腔炎・扁桃腺炎など「細菌」による感染症と診断されているケースがほとんどです。

 多くの人は、熱が出て、咳が出て、くしゃみ・鼻水が出るものを全て「風邪」と思ってしまう傾向にありますが、医師は似たような症状でも原因を特定し、それに応じた薬を使っています。

回答の根拠①:「細菌」と「ウイルス」、抗生物質(抗菌薬)と抗ウイルス薬

 「ウイルス」は、「細菌」と同じように人間にとっては病原体となる存在ですが、活動も構造も全く異なります

※「細菌」と「ウイルス」の違い
1.「細菌」は、「ウイルス」の1,000倍ほど大きい(代表的なもので)
2.「細菌」は食事もするし排泄もするが、「ウイルス」は全く食事も排泄もしない
3.「細菌」は自力で増えるが、「ウイルス」は自力で増えることができない
4.「細菌」はヒトと同じように食べて繁殖することが目的だが、「ウイルス」は何かに感染することが目的
5.「細菌」は動物や植物と同じ細胞構造を持っているが、「ウイルス」には細胞構造が無い

 そのため薬も全く別のもの、「細菌」には抗生物質(抗菌薬)、「ウイルス」には抗ウイルス薬を使わなければ効果がありません。

 「風邪症候群」の80~90%は「ウイルス」が原因とされている1)ため、抗生物質が必要となるケースは少ないのが現状です。
風邪症候群の原因微生物
 1) 日本呼吸器学会 「感染性呼吸器疾患(風邪症候群)」

インフルエンザの二次感染に抗生物質を使うことがある

 インフルエンザも「ウイルス」による感染症のため、抗生物質ではなく『タミフル(一般名:オセルタミビル)』などの抗ウイルス薬を使う必要があります。

 ただし、インフルエンザと一緒に、「細菌」の二次感染も併発している場合には抗生物質を使うことがあります。

回答の根拠②:”患者満足”のために抗生物質を処方するのは間違い

 「風邪で病院へ行ったのに抗生物質を出してくれない」という病院に対する不満はよく耳にしますが、必要ない薬を使うことは避けるべきです。いつでも必ず抗生物質を出す病院の方が変と言えます。

 かつては、患者を満足させるために処方される抗生物質、というものもありましたが、こうした間違った抗生物質の使用は「耐性菌」の原因にもなり、全くメリットはありません。

 実際、急性上気道炎で外来受診した患者の満足度は、病気についてより理解できた時に高くなり、抗生物質の処方の有無とは無関係であったことも報告されています2)。
患者の満足と抗生物質の処方
 2) Ann Emerg Med.50(3):213-20,(2007) PMID:17467120

薬剤師としてのアドバイス:ほっといても治るから、薬やワクチンを作るメリットが少ない

 厳密に言えば、「風邪」が「ウイルス」による感染症である以上、発症したら抗ウイルス薬を使えば早く治りますし、インフルエンザのようにワクチンを接種していれば予防できる可能性もあります。

 ところが、「風邪」は普通1~数日で自然に治ります。そのため、コストをかけてまで薬やワクチンを作るメリットがありません。
 また、「風邪」の原因となる「ウイルス」にも色々な種類があり、その全てを薬とワクチンで網羅しようとすると、効果の判定や安全性の確保に莫大なコストがかかります。

 そんな莫大なコストをかけて、ほっといても治る風邪の薬やワクチンを作ることには、あまり緊急性も必要性もありません。もし、安価で安全な、様々な種類のウイルスをまとめて退治できる「風邪薬」が開発されたら「ノーベル賞」だともいわれています。

 そのため、咳が出るなら咳止め、熱があるなら熱冷まし、くしゃみが出るなら抗アレルギー薬、といった対症療法を行いながら自然治癒を待つのが、現在の「風邪」の治療方法です。

+αの情報:同じような病名でも、細かな違いによって抗生物質の要・不要は変わる

 同じような病名でも、抗生物質が必要なもの、不要なものがあります。

 例えば、中耳炎の中でも「滲出性中耳炎」であれば抗生物質を使わなかったり、逆に普通は抗生物質を使わない咽頭炎でも「溶連菌」が原因であれば抗生物質を使ったり、といったケースがあります。

 極端に抗生物質を求めたり嫌ったりせず、どういった病気に対してどのような薬が処方されるのか、主治医ときちんとコミュニケーションをとりながら治療するようにしてください。

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

前のページ

次のページ

コメント

    • baby
    • 2017年 11月 08日

    保育園に通っている子(0~2歳くらい)は毎月抗生物質を服用していたりします。
    または、1週間のんで次の週は違うのを1週間など。
    これくらいの程度では耐性菌の問題にはならないのでしょうか?

      • Fizz-DI
      • 2017年 11月 13日

      耐性菌の出現は、抗生物質の使用頻度と相関しています。
      耐性菌の問題をゼロにするためには、抗生物質の使用量をゼロにする必要がありますが、それでは感染症の治療ができません。
      そのため、どうしても必要な場合にのみ抗生物質を正しく使い、できるだけ耐性菌が生まれないように注意する、というのが最善の方法になります。

      一般的に、小さな子どもは感染症を起こし重症化もしやすいため、抗生物質を使う頻度も大人よりは高くなるかと思いますが、今の使用頻度が適正かどうかは子どもの病状にもよります。
      基本的に、薬は使った方が良い場合に処方されるものですが、耐性化がどうしても心配な際は主治医の先生にその旨を相談してみてください。

    • Fizz-DI
    • 2016年 7月 30日

    >imaさん
    コメントありがとうございます。
    そういった未来にならないよう、抗生物質・抗菌薬の適正使用を進めるべきと考えています。そのために、一般向けにも安易に抗生物質を欲しがったりしないよう、啓蒙を行っています。

    • ima
    • 2016年 7月 30日

    抗生剤乱用のため 抗生剤の利かない耐性菌が増えています。このままだと子供が成長した未来はどうなるでしょう。有効な抗生剤なく気管支炎、膀胱炎で死ぬ未来を子供に勧めますか。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講演・シンポジウム等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

利益相反(COI)
特定の製薬企業との利害関係、開示すべき利益相反関係にある製薬企業は一切ありません。

■ご意見・ご要望・仕事依頼などはこちらへ

■カテゴリ選択・サイト内検索

■おすすめ記事

  1. 『チャンピックス』と『ニコチネル』、同じ禁煙補助薬の違いは?…
  2. 「ピボキシル基」を持つ抗菌薬で低血糖が起こるのは何故?~カル…
  3. 『ナウゼリン』と『プリンペラン』、同じ吐き気止めの違いは?~…
  4. 『デパケン』・『インデラル』・『ミグシス』、同じ片頭痛予防薬…
  5. 『アムロジン』・『ワソラン』・『ヘルベッサー』、同じCa拮抗…

■お勧め書籍・ブログ

recommended
recommended

■提携・協力先リンク

オンライン病気事典メドレー

banner2-r

250×63

PAGE TOP