『葛根湯』って風邪薬?~葛根湯が効く風邪と、効かない風邪
記事の内容
回答:「全人に最適」の風邪薬ではない
『葛根湯』は、風邪や肩凝りなどに広く使われる漢方薬です。
しかし『葛根湯』がよく効くのは、もともと体力が充実した人で、汗をかいておらず、頭痛や発熱・寒気などを感じているような風邪です。
既に汗をかいている場合や、虚弱体質で微熱が続いているような風邪、胃腸が弱っているような風邪には適していません。
落語に、どんな症状でも『葛根湯』を使おうとする「葛根湯医者」という小噺があるほど、色々な場面で使われますが、漢方薬は自分の体質に合っているかどうかを確認してから使うようにしてください。
回答の根拠①:『葛根湯』の薬理作用
『葛根湯』には、抗アレルギー作用や抗炎症作用があります1,2)。
1) ツムラ葛根湯エキス顆粒(医療用) 添付文書
2) Phytomedicine.5(4):275-82,(1998) PMID:23195899
そのため、鼻風邪や、結膜炎・中耳炎・扁桃腺炎などの炎症性疾患の治療に適応があります1)。
日常生活で「風邪をひいた」と思う疾患のほとんどは、これらの熱性疾患か炎症性疾患のため、『葛根湯』=「風邪薬」という認識でもおよそ問題は起こりません。
また、インフルエンザに対する発熱抑制作用もあります3)。そのため、何らかの理由で『タミフル(一般名:オセルタミビル)』などのインフルエンザ治療薬を使えない場合には、『麻黄湯』や『葛根湯』などの漢方薬を使うこともあります。
3) 和漢胃薬学雑誌.13(3):201,(1996)
回答の根拠②:『葛根湯』の漢方医学的な作用
『葛根湯』は、汗をかかせることで体にこもっている熱を発散させ、風邪などの諸症状を解消する処方です。
そのため『葛根湯』は、身体に汗をかく能力が十分にあり、体内に熱がこもっているような人では大きな効果を発揮できます。
一方で、既に汗をかいている場合や、もともと体力がなく体内に熱がこもっていない場合には、十分な効果が期待できません。
『葛根湯』の処方と、各生薬の役割
葛根(カッコン)4.0g
麻黄(マオウ)3.0g
桂皮(ケイヒ)2.0g
芍薬(シャクヤク)2.0g
甘草(カンゾウ)2.0g
大棗(タイソウ)3.0g
生姜(ショウキョウ)2.0g
処方の中心は、「葛根」と「麻黄」です。
「葛根」は発汗・解熱作用があります。更に、首から肩にかけての強張りに対して、筋肉をほぐす作用もあります。
「麻黄」は「エフェドリン」という喘息薬の成分を含んでいます。強い発汗・解熱作用と、咳止めの効果があります。
これらの効能を、「桂皮」と「芍薬」で調節しています。
「桂皮」は発汗作用が強く、「停滞しているものを動かし、発散させる」という効果があり、「麻黄」の作用を高めます。
「芍薬」は「葛根」や「麻黄」による発汗作用が強くなり過ぎないように調節すると共に、筋肉をほぐす効果もあります。
こうした作用を、最後に「甘草」・「大棗」・「生姜」で調節しています。
「甘草」と「大棗」は、「芍薬」との組み合わせで、筋肉の緊張を和らげます。
「生姜」は身体を温め、発汗・解熱作用を高めます。
薬剤師としてのアドバイス:普段元気な人は、「風邪に葛根湯」で良い
『葛根湯』は、普段元気な人に適した「風邪薬」です。
アレルギーの薬のような眠気もないため、特に不快な副作用を気にすることなく使えるものとして、非常に便利な薬です。
また、「アスピリン喘息」など解熱鎮痛薬を使えない人にとっては、貴重な鎮痛薬としての選択肢にもなります。
ただし、漢方薬は体質によって最適な薬は変わります。『葛根湯』も全ての人にとって最適な風邪薬ではないことに注意し、効きにくい場合には一度自分に最適な風邪薬は何なのか、専門家に相談するようにしてください。
類似漢方
似たような処方の漢方薬もいくつかあり、体質や症状によって使い分けをします。
『麻黄湯』・・・咳が酷いとき、関節痛などがあるとき、インフルエンザの初期にも。
『桂皮湯』・・・既に汗をよくかいている場合。
『麻黄附子細辛湯』・・・風邪の症状だが、発熱が少なく、悪寒が強い場合。体力の低い人向け。
『香蘇散』・・・胃腸虚弱な人で、抑うつ・不安・不眠傾向にある人向け。「麻黄」や「桂皮」は含まれておらず、発汗作用も弱い。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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