『ルネスタ』と『アモバン』、同じ睡眠薬の違いは?~光学異性体と苦味・減量のしやすさ
記事の内容
回答:『ルネスタ』は苦味が少なく減量もしやすい、『アモバン』の改良版
『ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)』と『アモバン(一般名:ゾピクロン)』は、どちらも不眠症に使う睡眠薬です。
『ルネスタ』は、日中まで苦味が続く『アモバン』の弱点を改良した薬です。また、薬の量を減らした時の反動や副作用を起こしにくく、減量・中止しやすいことも特徴です。
『ルネスタ』と『アモバン』は、どちらも「筋弛緩作用」の少ない睡眠薬で、足元のふらつきが少ないため高齢者にも使いやすい薬です。中でも『ルネスタ』は、薬を減らす・止める時のことも見越して使うことができる睡眠薬と言えます。
回答の根拠①:『ルネスタ』は、『アモバン』の光学異性体「S体」
『アモバン』には、光学異性体の「S体」と「R体」が同じ量ずつ含まれています。このうち、睡眠薬として作用する「S体」だけを抽出したものが『ルネスタ』です1,2)。
1) J Med Chem.51(22):7243-52,(2008) PMID:18973287
2) ルネスタ錠 インタビューフォーム
このとき理論上は、「S体だけ」の『ルネスタ』の用量は「S体+R体」の『アモバン』の半分になるはずです(例:『ザイザル』)。ところが、『ルネスタ』の用量は『アモバン』の半分よりも更に少なめに設定されています。
※『ルネスタ』と『アモバン』の用量 2,3)
ルネスタ(S体だけ) :1回2~3mg
アモバン(S体+R体):1回7.5~10mg
この理由として、『アモバン』は1日5mgでも効果があるとされている3)ことから、そもそも『アモバン』の用量設定が多めであったこと、また『アモバン』が開発された1989年より『ルネスタ』が開発された2012年の方が睡眠薬の使用についての考え方が厳しく、より厳格な用量設定が行われたことなどが要因と考えられます。
実際、『ルネスタ』3mgは『アモバン』7.5mgとほぼ同等とする報告もあり4)、10mgとの安易な切り替えには注意が必要です。
3) アモバン錠 インタビューフォーム
4) Clinics (Sao Paulo).71(1):5-9,(2016) PMID:26872077
『ルネスタ』は薬の量が減って、苦味も少なくなった
『アモバン』は、薬そのものに苦味があります3)。詳しいメカニズムはわかっていませんが、この苦味が翌朝や日中も続くことがあります。
薬としての量が減った『ルネスタ』では、この苦味が軽減されると考えられています。実際、『ルネスタ』の方が苦味を感じる人は少ない傾向にあります5)。
5) 日本病院薬剤師会雑誌.53(2):192-196,(2017)
回答の根拠②:減量や中止をしやすい『ルネスタ』~反跳性不眠と退薬症状
「ベンゾジアゼピン系」の睡眠薬は、副作用も少なく非常に使いやすい薬ですが、その反面、不眠の症状が落ち着いてきてからの薬の減量・中止が難しい薬です。
特に、薬を減量・中止した場合に起こる「反跳性不眠」や「退薬症状」は、睡眠薬を止めづらい大きな要因となっています。
※反跳性不眠
睡眠薬を減量・中止した際に起こる不眠症状
※退薬症状
睡眠薬を減量・中止した際に起こる頭痛やめまい、焦燥感などの副作用
この点、『ルネスタ』は服薬を中断しても「反跳性不眠」が起こらなかったことが報告されています6)。また、耐性や「退薬症状」も少ないとされています2)。
6) Curr Med Res Opin.20(12):1979-91,(2004) PMID:15701215
睡眠薬は、あくまで「一時的な避難」として使うものであって、ずっと使い続けるものではありません。不眠の治療は、最終的には薬なしでも眠れるようにする、という目標を常に念頭に置きながら行う必要があります。
薬の減量・中止をしやすい『ルネスタ』は、この目標達成にも適した薬と言えます。
薬剤師としてのアドバイス:ガムや飴を舐めると、苦味が悪化することも
『ルネスタ』や『アモバン』を服用中に感じる苦味は、詳しくはわかっていないものの、唾液そのものが苦くなってしまう可能性が考えられています。
そのため、苦味を感じるだけでなく、食事の味がおかしくなってしまったと感じる場合もあります。これが別の病気であると勘違いしてしまうこともあるため、『ルネスタ』や『アモバン』を服用していることは必ず主治医に伝えた上で、相談するようにしてください。
また、唾液そのものが苦くなるため、ガムや飴を舐めると唾液が増え、余計に苦味が悪化することもあります。
特に、料理人や主婦は、食べ物の味が変わってしまうことで仕事ができなくなってしまう場合もあります。
『ルネスタ』や『アモバン』の苦味に対する効果的な対策は今のところありません。苦味が不快な場合、仕事に支障が出る場合は、薬の変更も含めて主治医に相談するようにしてください。
ポイントのまとめ
1. 『ルネスタ』は、『アモバン』の光学異性体「S体」で、薬としての量も少なくなっている
2. 『ルネスタ』は、反跳性不眠や退薬症状のリスクが少なく、減量・中止しやすい睡眠薬
3. 『ルネスタ』や『アモバン』で感じる苦味は、ガムや飴では悪化することもある
添付文書・インタビューフォーム記載事項の比較
◆薬効分類
ルネスタ:非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
アモバン:非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
◆有効成分
ルネスタ:エスゾピクロン (※ゾピクロンのS体)
アモバン:ゾピクロン
◆開発された年
ルネスタ:2012年
アモバン:1989年
◆適応症
ルネスタ:不眠症
アモバン:不眠症、麻酔前投薬
◆用法・用量
ルネスタ:1回1~3mg
アモバン:1回7.5~10mg
◆規制区分
ルネスタ:処方箋医薬品
アモバン:第三種向精神薬
◆製造販売元
ルネスタ:エーザイ
アモバン:サノフィ
+αの情報:作用するGABAA受容体サブユニットの違い
『ルネスタ』と『アモバン』では、作用するGABAA受容体サブユニットに違いがあり、このことが効果・副作用の違いの要因ではないかとも考えられています7)。
7) J Psychopharmacol. 2010 Nov;24(11):1601-12,(2010) PMID:19942638
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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