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消化性潰瘍治療薬 似た薬の違い

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『ネキシウム』と『オメプラール』、同じPPIの違いは?~光学異性体と代謝酵素による個人差・小児用量

回答:『ネキシウム』は『オメプラール』より個人差が小さく、適応症も広い

 『ネキシウム(一般名:エソメプラゾール)』と『オメプラール(一般名:オメプラゾール)』は、どちらも胃酸を抑える「プロトンポンプ阻害薬(PPI)」です。

 『ネキシウム』は、遺伝的体質によって効き目に個人差が出てしまう『オメプラール』の弱点を改良した薬です。
 
 また、『ネキシウム』には『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』などNSAIDsによる副作用を防ぐ使い方や、小児に対する処方にも保険適用があります。

回答の根拠①:光学異性体と、代謝酵素「CYP2C19」による影響

 『オメプラール』には、光学異性体の「R体」と「S体」の両方が含まれています。

 「R体」は、全体の98%近くが代謝酵素「CYP2C19」によって代謝されます1)。そのため、遺伝的にこの酵素がよく働く人とあまり働かない人とでは、薬の効き目にも差が生まれてしまうことになります。
 「S体」も、代謝酵素「CYP2C19」によって代謝されますが、それは全体の6~7割で、他の酵素でも代謝されます1)。そのため、「CYP2C19」の働きだけで効き目が大きく左右されることはありません。
オメプラールのS体とR体~CYP2C19の影響
 1) ネキシウムカプセル インタビューフォーム

 『ネキシウム』は、この「CYP2C19」の影響が小さい「S体」だけを分離・抽出した薬です1)。そのため、『オメプラール』よりも遺伝的体質による個人差を小さく抑えることができます。

PPIの個人差はピロリ除菌の成功率にも影響

 胃のpHが3.0(酸性)付近ではピロリ菌にほとんど抗菌薬が効かないため、除菌の際は『オメプラール』のようなPPIを使って胃のpHを4.5以上にする必要があります2)。
 しかし、「CYP2C19」の働きが強く『オメプラール』がすぐに代謝・分解されてしまうと、胃のpHが十分に上がらず、除菌を失敗しやすくなります。実際、遺伝的にPPIの代謝が速い人(薬が効きにくい人)とPPIの代謝が遅い人(薬がよく効く人)の間で、除菌成功率に23.5%もの差が生まれることが報告されています3)。
ピロリ除菌成功率とPPIの代謝速度
 2) Aliment Pharmacol Ther.36(10):972-9,(2012) PMID:23009227
 3) Clin Pharmacol Ther.81(4):521-8,(2007) PMID:17215846

 そのため、除菌の三剤併用療法で使うPPIは『ネキシウム』のように個人差の少ないものを選ぶ必要があります。
 ただし、2015年に登場した新薬『タケキャブ(一般名:ボノプラザン)』が従来のPPIよりも高い除菌成功率を発揮する4)ことから、最近はこの『タケキャブ』を使った除菌が増えています。

 4) H.pylori感染の診断と治療のガイドライン 2016改訂版

回答の根拠②:『ネキシウム』の広い適応症と使い方

 『ネキシウム』は、『ロキソニン』や『ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)』などのNSAIDsを使用した際に起こる胃・十二指腸潰瘍の副作用を防ぐ使い方に保険適用があります1)。
 また、現在日本で使用されているPPIの中では唯一、小児に対する用量も設定されている1)ため、若年層の消化性潰瘍や逆流性食道炎に対する貴重な選択肢になります。

※『ネキシウム』の小児用量 (2018年1月に追加)
通常は1歳以上
体重20kg未満・・・10mgを1日1回
体重20kg以上・・・10~20mgを1日1回

薬剤師としてのアドバイス:繰り返す潰瘍は、ピロリ検査を

 『ネキシウム』や『オメプラール』などのPPIは、胃酸を抑える作用は強力ですが、ピロリ菌を退治する効果はありません。
 ピロリ菌に感染していると、いくら胃薬を飲んでも胃炎や潰瘍を何度も繰り返すことがあります。そのため、除菌によって根本治療する必要があります。

 場合によっては、除菌することで胃薬の必要ない生活を送ることもできます。胃薬を飲んでいてもなかなか良くならない場合には、一度ピロリ菌の検査をすることをお勧めします。

ポイントのまとめ

1. 『ネキシウム』は、『オメプラール』の光学異性体「S体」で、個人差が小さい
2. PPIの個人差は、ピロリ除菌の成功率にも影響する
3. 『ネキシウム』は、NSAIDsによる潰瘍予防や、小児への使用にも保険適用がある

添付文書、インタビューフォーム記載内容の比較

◆有効成分
ネキシウム:エソメプラゾール(オメプラゾールのS体)
オメプラール:オメプラゾール

◆適応症
ネキシウム:胃・十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎・胃食道逆流症、Zollinger-Ellison症候群、NSAIDs・低用量アスピリン投与時における胃潰瘍又は十二指腸潰瘍の再発抑制、ピロリ除菌
オメプラール:胃・十二指腸潰瘍、吻合部潰瘍、逆流性食道炎・胃食道逆流症、Zollinger-Ellison症候群、ピロリ除菌

◆小児用量
ネキシウム:1歳以上(体重20kg未満は10mgを1日1回、20kg以上は10~20mgを1日1回)
オメプラール:なし

◆用法
ネキシウム:1日1回
オメプラール:1日1回

◆投与制限
ネキシウム:最長8週(※再燃を繰り返す場合の維持療法を除く)
オメプラール:最長8週(※再燃を繰り返す場合の維持療法を除く)

◆代謝酵素「CYP2C19」の寄与度
ネキシウム:73%
オメプラール:98%

◆剤型の種類
ネキシウム:カプセル(10mg、20mg)
オメプラール:錠(10mg、20mg)、注射

◆製造販売元
ネキシウム:アストラゼネカ
オメプラール:アストラゼネカ

+αの情報:光学異性体の薬

 『ネキシウム』と『オメプラール』のように、従来から使われていた薬の光学異性体の片方だけを分離・抽出し、弱点を補うように改良された薬がたくさん登場しています。

※光学異性体の薬の例
『クラビット(一般名:レボフロキサシン)』・・・『タリビッド(一般名:オフロキサシン)』の「R体」
『ザイザル(一般名:レボセチリジン)』・・・『ジルテック(一般名:セチリジン)』の「R体」
『ルネスタ(一般名:エスゾピクロン)』・・・『アモバン(一般名:ゾピクロン)』の「S体」
『レクサプロ(一般名:エスシタロプラム)』・・・「シタロプラム(※日本未承認)」の「S体」

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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コメント

    • Fizz-DI
    • 2018年 1月 29日

    【修正】
    2018年1月、『ネキシウム』にPPIとして初めて小児用量が設定されたため、その旨を加筆修正しました。

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