「インフルエンザ脳症」は、大人では起きない?~年齢によるエネルギー供給の違いとリスク
記事の内容
回答:大人でも、起こらないとは言えない
「インフルエンザ脳症」は、主に乳幼児で起こるインフルエンザの合併症ですが、大人でも絶対に起こらないとは言えません。
特に糖尿病や心不全などを患っている場合、極端な食事制限を伴うダイエットを行っているような場合には、発症のリスクは高くなります。
また、インフルエンザの時に『ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)』や『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』などの解熱鎮痛薬を使うことで、「インフルエンザ脳症」が引き起こされる可能性も示唆されています。
インフルエンザの疑いがある場合には、病院で処方された薬以外のものを安易に使わないようにしてください。
回答の根拠①:成人の死亡例も報告されている
成人でも、「インフルエンザ脳症」による死亡例が報告されています1)。
1) 国立感染症研究所 IASR.36:87-9,(2015) ※PubMed外
稀なケースではありますが、大人ならば絶対に起こらないというわけではありません。インフルエンザは普通の風邪と違い、重症化しやすい感染症であることを念頭に予防や治療を行う必要があります。
回答の根拠②:インフルエンザ脳症の原因~乳幼児で起こりやすい理由
「インフルエンザ脳症」は、脳にウイルスが侵入することで起こるのではありません。
色々な機序が複雑に絡み合って起こりますが、基本的には、ウイルス感染に対する免疫反応で増える「サイトカイン」が原因と考えられています2)。
2) 厚生労働省 「インフルエンザ脳症ガイドライン」
「サイトカイン」は血管透過性に影響します。
そのため、「サイトカイン」が大量に増えると血管外に大量の水分が滲み出るようになります。これによって血管の周辺組織に水が溜まると、組織が酸素不足・機能不全に陥ります。
こうした酸素不足・機能不全が脳で起こることよって、「インフルエンザ脳症」を発症すると考えられています。
ウイルス感染で、脳の血管がエネルギー不足に
脳の血管は、もともとエネルギーの大部分を「糖」ではなく「脂肪酸」に依存しています3)。
3) Circ Res.88(12):1276-82,(2001) PMID:11420304
インフルエンザウイルスに感染すると、免疫反応で増えた「サイトカイン」によって「糖」の供給が減るため、全身で「脂肪酸」の需要が高まります。
その結果、脳の血管で利用できる「脂肪酸」が減り、エネルギー不足の状態になります。
エネルギー不足の血管は、「サイトカイン」による血管透過性亢進の影響を受けやすい状態、つまり「インフルエンザ脳症」を起こしやすい状態になっています。
乳幼児は、「脂肪酸」が不足しやすい
乳幼児は、もともと大人よりもエネルギーの消耗が激しいため、普段から「糖」だけではエネルギーが足りず、「脂肪酸」にも頼っています。
そのため乳幼児は、大人と比べると常に「脂肪酸」の不足に陥りやすい状態、つまり「インフルエンザ脳症」も起こしやすい状態にあると言えます。
しかし、年齢が上がると「糖」によるエネルギーだけで安定してくるため、「脂肪酸」が不足することは減ってきます4)。
4) 日本小児神経学会 「脳と発達」47(3):160,(2015)
そのため、小児期を過ぎると重篤な「インフルエンザ脳症」を起こすリスクは減り、死亡するような例もほとんど見られなくなります。
薬剤師としてのアドバイス:大人でも油断は禁物
大人が「インフルエンザ脳症」を起こしにくいのは、「糖」によるエネルギー供給が安定しているからです。
そのため、大人でも遺伝的に「脂肪酸」に依存しやすい体質であったり、食事制限によって「糖」や「脂肪酸」が不足していたり、脳の血管が衰えていたり、といった条件が揃うと「インフルエンザ脳症」を起こす恐れがあります。
こうしたリスクが高い状態の人は、インフルエンザと疑わしい場合には安易に解熱鎮痛薬を使わない、できるだけ予防接種によって発症・重症化を防ぐなど、注意深く予防や治療に取り組むことをお勧めします。
+αの情報:「インフルエンザ脳症」と「ライ症候群」
「インフルエンザ脳症」は、インフルエンザウイルスに感染したことが原因で起こる意識障害やけいれんなど、インフルエンザの合併症のことを言います。
NSAIDsを使っていなくても発症することがありますが、NSAIDsを使うことで発症や重症化のリスクが高まることが指摘されています。
「ライ症候群」は、インフルエンザの時に「アスピリン」等のサリチル酸系の解熱薬を使ったことが原因で起こる副作用のことを言います。この副作用は「アスピリン」等に限らず、NSAIDs全体でリスクが指摘されています。
そのため厳密には、インフルエンザの時にNSAIDsを使うと、「インフルエンザ脳症(合併症)」の発症・重症化と、「ライ症候群(副作用)」の発症という、2つのリスクを発生させることになります5)。
5) Clin Infect Dis.36(5):567-74,(2003) PMID:12594636
本サイトでは知名度や文章の読みやすさを考慮し、「インフルエンザ脳症」という表記で統一しています。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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