インフルエンザの時に『ロキソニン』を使っても良い?~インフルエンザ脳症・ライ症候群のリスク
記事の内容
回答:使わない方が良い
インフルエンザの時の解熱鎮痛薬は、『カロナール』などの「アセトアミノフェン」製剤を選んだ方が無難です。これは、『ロキソニン(一般名:ロキソプロフェン)』などのNSAIDsでは、インフルエンザ脳症やライ症候群の誘発リスクがあるからです。
普段健康な大人の場合は問題にならないことが大半ですが、『ロキソニン』は15歳未満の子どもへ使用できない薬であることにも注意が必要です。
回答の根拠①:「インフルエンザ脳症」とNSAIDsの関係
NSAIDsに分類される解熱鎮痛薬の中には、インフルエンザの時には使ってはいけない「禁忌」に指定されている薬があります。
※小児のインフルエンザ患者への投与が禁止されているNSAIDsの例 1,2)
『ボルタレン(一般名:ジクロフェナク)』
『ポンタール(一般名:メフェナム酸)』
※小児のインフルエンザ患者への投与が、原則禁止されているNSAIDsの例 3)
バファリンなど市販の風邪薬にも含まれている「アスピリン」
『PL配合顆粒』などに含まれる「サリチル酸」
NSAIDsには多くの種類がありますが、日本小児科学会は「インフルエンザ治療に際しては、NSAIDsの使用は慎重にすべき」という見解を公表しています4)。
1) ボルタレン錠 添付文書
2) ポンタールカプセル 添付文書
3) PL配合顆粒 添付文書
4) 日本小児科学会 「インフルエンザ脳炎・脳症における解熱剤の影響について」 (2000)
インフルエンザの時でも安全に使える「アセトアミノフェン」
解熱鎮痛薬のうち、『カロナール(一般名:アセトアミノフェン)』は「インフルエンザ脳症」のリスクを高めないことが示されているため、子どものインフルエンザの際には推奨されています5)。特に、38~38.5℃を超えるような異常な高熱は消耗や脱水のリスクにもなるため、適切な解熱をするようにしてください。
5) 日本小児神経学会 「インフルエンザ脳症はどうしたら予防できますか?」
なお「アセトアミノフェン」製剤はドラッグストア等でも購入できるため、病院受診できない場合には良い選択肢になります。
▼こども用の「アセトアミノフェン」製剤 ▼成人用の「アセトアミノフェン」製剤
回答の根拠②:「インフルエンザ脳症」の大人と子どものリスク
「インフルエンザ脳症」は、発症すると約30%が死亡し、約25%で後遺症が残るとされている、インフルエンザの最も重い合併症です6)。ほとんどは乳幼児で起こりますが、大人であってもリスクはゼロではありません。
6) 国立感染症研究所 「インフルエンザ脳症ガイドライン」 (2009)
薬剤師としてのアドバイス:熱を下げても早く治るわけではない
解熱鎮痛薬は、インフルエンザの高熱による辛さ・不快感を和らげるための「対症療法」の薬であって、熱を下げてもインフルエンザが早く治るわけではありません。そのため、特に高熱や関節痛で休養に支障があるわけでなければ、無理に解熱鎮痛薬を使う必要はありません。
また、普段健康な人であれば、インフルエンザは寝ていても3日ほどで自然に治癒しますが、5歳未満のこどもや65歳以上の高齢者、妊娠中や産後直後、呼吸器疾患をもつ人などでは重症化しやすいため、できるだけ病院受診をした方が無難です。こうした条件にあてはまらない人でも、「重症化」の兆候がある場合は早めに病院を受診するようにしてください。
なお、こうした重症化を防ぐためには、ワクチンによる予防が効果的です。特にリスクを抱えている人は、毎年の予防接種をお勧めします。
ポイントのまとめ
1. インフルエンザの時は『カロナール』などの「アセトアミノフェン」を選ぶのが無難
2. インフルエンザ脳症は子どもに多いが、大人でも絶対に起こらないわけではない
3. インフルエンザが重症化しやすい人は、ワクチン(予防接種)が大切
+αの情報:「インフルエンザ脳症」と「ライ症候群」
「インフルエンザ脳症」は、インフルエンザウイルスに感染したことが原因で起こる意識障害やけいれんなど、インフルエンザの合併症のことを言います。
NSAIDsを使っていなくても発症することがありますが、NSAIDsを使うことで発症や重症化のリスクが高まることが指摘されています。
「ライ症候群」は、インフルエンザの時に「アスピリン」等のサリチル酸系の解熱薬を使ったことが原因で起こる副作用のことを言います。
この副作用は「アスピリン」等に限らず、NSAIDs全体でリスクが指摘されています。
そのため厳密には、インフルエンザの時にNSAIDsを使うと、「インフルエンザ脳症(合併症)」の発症・重症化と、「ライ症候群(副作用)」の発症という、2つのリスクを発生させることになります7)。
7) Clin Infect Dis.36(5):567-74,(2003) PMID:12594636
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
【加筆】
+αの情報として、「インフルエンザ脳症」と「ライ症候群」の違いについて追記しました。本Q&Aではこの2つを区別した上で、知名度の観点から、「インフルエンザ脳症」の表記で記載しています。