統計学から見る、ジェネリック医薬品の落とし穴~「効果は同じ」の意味
ジェネリック医薬品については、マスコミでその利点ばかりが取り上げられています。その一方で、いまひとつ普及が進んでいないのも現実です。
どんな問題があって普及が進まないのか、その問題点について「統計学」という面からのお話です。
記事の内容
実際の治療効果に差はない、という解析結果がある
「ジェネリック医薬品」とは、先発品と同一の有効成分を同一量含み、同一の効果・効能を持つ医薬品のことです1)。更に、生物学的同等試験によって、同じような血中濃度の変化をすることも証明されています。
1) 厚生労働省の定義
これをもって、「効果は同じ」ということが保証されています。
実際、細やかな微調節が必要な薬である『ワーファリン(一般名:ワルファリン)』は、先発品であっても後発品であっても、治療効果や用量変更の程度に差はなかったとする報告があります2)。
また、コントロールが難しい「てんかん」の薬でも、後発品を使ってもほぼ治療効果に差は生じないとする報告があります3)。
2) Pharmacotherapy.31(4):386-93,(2011) PMID:21449627
3) Ann Pharmacother.45(11):1406-15,(2011) PMID:22028417
このように、同一の有効成分を同一量を含み、同じような血中濃度の変化をすることで、同じ治療効果を発揮することが数多くの試験結果の解析により結論付けられています。
あくまで「統計学的に効果は同じ」であって、個人にとっても必ず同じとは限らない
しかし、上記の報告で述べられているのは、「統計上は、同じと結論付けられる」ということです。
そもそも統計学というのは、「100万人の花粉症患者に、この薬を飲ませたら、70%の人は症状が治まる」といったような、非常にたくさんの数を扱うものです。一人一人に焦点を当てたものではありません。
そのため、「効果が同じ」ということが意味するのは、自分が「ジェネリック医薬品」に変更した際に「100%確実に同じ効果が保証される」ということではありません。
例えば、「ジェネリック医薬品」に変更することで、苦手な味の薬に変わったり、飲みづらい薬に変わったりした場合、服薬は疎かになってしまう傾向があります。その結果、治療効果に悪影響を及ぼすことにつながります。
また、高価な薬の方が良く効くはずだ、という心理的な要因から、安価なジェネリック医薬品に変更することによって効果が減弱してしまう可能性もあります(ノセボ効果)。
こういった要因によって、いま目の前に居る一人の患者の薬を「ジェネリック医薬品」に変更することで、その人の治療効果が減弱してしまうのではないか、という不安が生まれ、医師・薬剤師も「ジェネリック医薬品」への変更に躊躇するという面があります。
薬剤師としてのアドバイス:メリット・デメリットをきちんと理解して変更を
ジェネリック医薬品の中には、味が改良されていたり、飲みやすい工夫が施されていたり、良い薬もたくさん存在します。こうした工夫があることによって、日々の服薬の負担が減らせることは非常に望ましいことです。その上、値段も安いとなれば願ったり叶ったりです。
しかし、例え統計学的に同じことが証明されているとは言え、自分にとっても確実に同じ効果を発揮してくれるかどうかはわかりません。心理的な要因によっても薬の効果は左右されることがあるからです。
保険組合に言われたから、薬剤師に勧められたから、ではなく、その薬をジェネリック医薬品に変えるメリットは何か、デメリットは何か、きちんと理解した上で賢い選択をして欲しいと思います。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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