「耐性菌」は何故できてしまうの?~抗生物質の中途半端な使用が危険な理由
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回答:抗生物質を中途半端な使い方で飲むと、「耐性」ができる
適切な量・適切な期間で抗生物質を使えば薬がしっかりと効き、細菌を圧倒して全て退治してしまいます。
しかし、中途半端な量・中途半端な期間で抗生物質を使うと、細菌はトレーニングされ、「耐性」を獲得してしまうことがあります。
症状が治まったからといって、途中で抗生物質を止めてしまうことは、「耐性」ができる大きな原因であることに注意し、処方された抗生物質は用法・用量を守り、きちんと最後まで飲み切るようにしてください。
回答の根拠:薬が効きにくい細菌だけが生き延びて、選別されていく
細菌も生物の一種のため、自然界でも様々な特徴を持つ多様な細菌が存在しています。
その中には、薬が少し効きにくいものや、増殖速度が速いもの、移動速度が速いものなど、様々な特徴の細菌が混在しています。
抗生物質を適切に投与すると
抗生物質を投与すると、細菌は死滅します。
少しくらい薬が効きにくい特徴を持っていたとしても、抗生物質を適切に使用した場合には薬が圧倒し、完全に退治することが可能です。
抗生物質を中途半端に投与すると
しかし、抗生物質を中途半端に投与すると、薬が効きにくい特徴を持った細菌が生き残ることがあります。
すると、次はこの細菌がベースとなって増殖するため、全体的に薬が効きにくい菌集団ができあがります。
中途半端な抗生物質の使い方を繰り返し、薬の効かない完璧な「耐性菌」が完成する
このように、中途半端な抗生物質の使い方を繰り返していると、薬が効きにくい細菌だけが生き残る、という淘汰を繰り返すことになります。
その結果、最終的には薬が効かない完璧な「耐性」を獲得してしまった「耐性菌」が出現することになります。
こうなってしまっては、抗生物質を適切に使用したところで、全く効きません。
薬剤師としてのアドバイス①:「耐性菌」を生まないためには、薬の適切な使用が重要
薬の飲み方や量を勝手に変えてしまうこと、治療の途中で抗生物質を中断してしまうこと、長期間に渡って同じ抗生物質を使い続けることは、「耐性菌」を生む最大の要因になります。
医師・薬剤師は、こうした「耐性菌」が生まれないように用法・用量や服用期間を調節して薬を使用します。
そのため、症状が治まっても抗生物質は処方された日数をきちんと飲み切り、自己判断で薬を途中で止めたり、前の薬が残っているからと中途半端に抗生物質を使ったりすることは、絶対に止めてください。
薬剤師としてのアドバイス②:下痢がひどい場合は、一旦中断することもある
抗生物質は、腸内の善玉菌も一緒に退治してしまうため、下痢や便秘などの副作用を起こすことがあります。
多少の下痢であれば、「耐性菌」の観点からも我慢して薬を飲み続ける必要があります。
しかし、下痢に血や粘液が混ざっている場合や、脱水症状を起こしかねないほどのひどい症状の場合には、一旦薬の服用を中断し、主治医と対応を相談する必要があります。
こういった場合も、自己判断で中止や継続の判断はせず、必ず医師とまず相談するようにしてください。
+αの情報①:「耐性」には3つのパターンがある
細菌が「耐性」を獲得する方法には、主に以下の3つのパターンがあります。
1.抗生物質を破壊する酵素を作る
2.抗生物質を外に排出する膜やポンプを備える
3.抗生物質がターゲットにしている部分の構造を変える
このメカニズムを逆手にとり、細菌の作る酵素の阻害剤を配合した『クラバモックス(一般名:アモキシシリン + クラブラン酸)』や、抗生物質では死滅しない善玉菌の薬『ビオフェルミンR』といった、耐性を利用した薬も開発されています。
+αの情報②:プラスミドによる「耐性」の伝播は、急速に拡大する
細菌には、ヒトと同じような染色体による遺伝子とは別に、もう一つの遺伝子「プラスミド」を持っています。
この「プラスミド」は、細菌同士で受け渡しが簡単にできる遺伝子で、細菌の形質変化に大きく関わっています。
薬の「耐性」に関する遺伝子が染色体上にある場合、その細菌が子孫を残していくことで「耐性」が拡大していきます。そのため、ある程度の条件が整わなければならず、時間もかかります。
ところが、「プラスミド」上に「耐性」遺伝子があった場合、最悪の場合は他の細菌と接触するだけで「耐性」が伝播していき、急速に「耐性化」が進んでしまいます。
つまり、抗生物質を使う・使わないに関わらず、「耐性化」が進むことになります。
このような「耐性」の急速な拡大は非常に危険なため、各国が遺伝子データを蓄積して監視を続けています。実際、人類にとって最終兵器ともされる抗生物質の「コリスチン」に対して、この「プラスミド」上に耐性を持つ菌が発見され、その拡大が危惧されています1)。
1) Lancet Infect Dis.16(2):161-8,(2016) PMID:26603172
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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