■サイト内検索


スポンサードリンク

抗生物質 知っておくべきこと

/

「耐性菌」は何故できてしまうの?~抗生物質の中途半端な使用が危険な理由

回答:抗生物質を中途半端な使い方で飲むと、「耐性」ができる

 適切な量・適切な期間で抗生物質を使えば薬がしっかりと効き、細菌を圧倒して全て退治してしまいます。

 しかし、中途半端な量・中途半端な期間で抗生物質を使うと、細菌はトレーニングされ、「耐性」を獲得してしまうことがあります。
耐性菌と抗生物質の使い方
 症状が治まったからといって、途中で抗生物質を止めてしまうことは、「耐性」ができる大きな原因であることに注意し、処方された抗生物質は用法・用量を守り、きちんと最後まで飲み切るようにしてください。

回答の根拠:薬が効きにくい細菌だけが生き延びて、選別されていく

 細菌も生物の一種のため、自然界でも様々な特徴を持つ多様な細菌が存在しています。
耐性菌ができるまで1

 その中には、薬が少し効きにくいものや、増殖速度が速いもの、移動速度が速いものなど、様々な特徴の細菌が混在しています。

抗生物質を適切に投与すると

 抗生物質を投与すると、細菌は死滅します。
耐性菌ができるまで2
 少しくらい薬が効きにくい特徴を持っていたとしても、抗生物質を適切に使用した場合には薬が圧倒し、完全に退治することが可能です。

抗生物質を中途半端に投与すると

 しかし、抗生物質を中途半端に投与すると、薬が効きにくい特徴を持った細菌が生き残ることがあります。
耐性菌ができるまで3

 すると、次はこの細菌がベースとなって増殖するため、全体的に薬が効きにくい菌集団ができあがります。
耐性菌ができるまで4

中途半端な抗生物質の使い方を繰り返し、薬の効かない完璧な「耐性菌」が完成する

 このように、中途半端な抗生物質の使い方を繰り返していると、薬が効きにくい細菌だけが生き残る、という淘汰を繰り返すことになります。
耐性菌ができるまで5

 その結果、最終的には薬が効かない完璧な「耐性」を獲得してしまった「耐性菌」が出現することになります。
 こうなってしまっては、抗生物質を適切に使用したところで、全く効きません。

薬剤師としてのアドバイス①:「耐性菌」を生まないためには、薬の適切な使用が重要

 薬の飲み方や量を勝手に変えてしまうこと、治療の途中で抗生物質を中断してしまうこと、長期間に渡って同じ抗生物質を使い続けることは、「耐性菌」を生む最大の要因になります。

 医師・薬剤師は、こうした「耐性菌」が生まれないように用法・用量や服用期間を調節して薬を使用します。

 そのため、症状が治まっても抗生物質は処方された日数をきちんと飲み切り、自己判断で薬を途中で止めたり前の薬が残っているからと中途半端に抗生物質を使ったりすることは、絶対に止めてください

薬剤師としてのアドバイス②:下痢がひどい場合は、一旦中断することもある

 抗生物質は、腸内の善玉菌も一緒に退治してしまうため、下痢や便秘などの副作用を起こすことがあります。
 多少の下痢であれば、「耐性菌」の観点からも我慢して薬を飲み続ける必要があります。

 しかし、下痢に血や粘液が混ざっている場合や、脱水症状を起こしかねないほどのひどい症状の場合には、一旦薬の服用を中断し、主治医と対応を相談する必要があります。

 こういった場合も、自己判断で中止や継続の判断はせず、必ず医師とまず相談するようにしてください。

+αの情報①:「耐性」には3つのパターンがある

 細菌が「耐性」を獲得する方法には、主に以下の3つのパターンがあります

1.抗生物質を破壊する酵素を作る
2.抗生物質を外に排出する膜やポンプを備える
3.抗生物質がターゲットにしている部分の構造を変える

 このメカニズムを逆手にとり、細菌の作る酵素の阻害剤を配合した『クラバモックス(一般名:アモキシシリン + クラブラン酸)』や、抗生物質では死滅しない善玉菌の薬『ビオフェルミンR』といった、耐性を利用した薬も開発されています。

+αの情報②:プラスミドによる「耐性」の伝播は、急速に拡大する

 細菌には、ヒトと同じような染色体による遺伝子とは別に、もう一つの遺伝子「プラスミド」を持っています。
 この「プラスミド」は、細菌同士で受け渡しが簡単にできる遺伝子で、細菌の形質変化に大きく関わっています。

 薬の「耐性」に関する遺伝子が染色体上にある場合、その細菌が子孫を残していくことで「耐性」が拡大していきます。そのため、ある程度の条件が整わなければならず、時間もかかります。
 ところが、「プラスミド」上に「耐性」遺伝子があった場合、最悪の場合は他の細菌と接触するだけで「耐性」が伝播していき、急速に「耐性化」が進んでしまいます。

 つまり、抗生物質を使う・使わないに関わらず、「耐性化」が進むことになります。

 このような「耐性」の急速な拡大は非常に危険なため、各国が遺伝子データを蓄積して監視を続けています。実際、人類にとって最終兵器ともされる抗生物質の「コリスチン」に対して、この「プラスミド」上に耐性を持つ菌が発見され、その拡大が危惧されています1)。

 1) Lancet Infect Dis.16(2):161-8,(2016) PMID:26603172

 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • follow us in feedly

コメント

  1. この記事へのコメントはありません。

  1. この記事へのトラックバックはありません。

■主な活動

【書籍】
■羊土社
薬の比較と使い分け100(2017年)
OTC医薬品の比較と使い分け(2019年)
ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
じほう「調剤と情報」「月刊薬事」
南山堂「薬局」、Medical Tribune
薬ゼミ、診断と治療社
ダイヤモンド・ドラッグストア
m3.com

 

【講演・シンポジウム等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

【監修・出演等】
異世界薬局(MFコミックス)
Yahoo!ニュース動画
フジテレビ / TBSラジオ
yomiDr./朝日新聞AERA/BuzzFeed/日経新聞/日経トレンディ/大元気/女性自身/女子SPA!ほか

 

 

利益相反(COI)
特定の製薬企業との利害関係、開示すべき利益相反関係にある製薬企業は一切ありません。

■ご意見・ご要望・仕事依頼などはこちらへ

■カテゴリ選択・サイト内検索

スポンサードリンク

■おすすめ記事

  1. 『メインテート』と『アーチスト』、同じβ遮断薬の違いは?~β…
  2. 『ヒアレイン』と『ジクアス』、同じドライアイ治療薬の違いは?…
  3. 『セレネース』と『リスパダール』、新旧の統合失調症の薬の違い…
  4. 『ルネスタ』と『アモバン』、同じ睡眠薬の違いは?~光学異性体…
  5. 『アムロジン』・『ワソラン』・『ヘルベッサー』、同じCa拮抗…
  6. 『テルネリン』と『ミオナール』、同じ筋弛緩薬の違いは?~効果…
  7. 『ジスロマック』と『クラリス』、同じマクロライド系抗菌薬の違…

■お勧め書籍・ブログ

recommended
recommended

■提携・協力先リンク

オンライン病気事典メドレー

banner2-r

250×63

スポンサードリンク
PAGE TOP