「耐性菌」には、どうして抗生物質が効かないの?~耐性の3つのメカニズム
回答:耐性には3つのパターンがある
「耐性菌」とは、抗生物質が効かない細菌のことです。細菌が、抗生物質に対する「耐性」を得るとき、そのメカニズムには以下の3つのパターンがあります。
1.抗生物質の化学構造を破壊し、薬として作用しなくさせる(無効化する)
2.抗生物質の影響を受けないように、外へと排除するポンプを動かす
3.抗生物質の作用点となっている細菌の構造を変化させる
それぞれ抗生物質を「鍵」、細菌を「鍵穴」に例えると以下のようになります。
1.「鍵」を破壊する
2.「鍵穴」に入ってきた「鍵」を弾き返す
3.「鍵穴」の形を変える
細菌が耐性を獲得してしまうと、その抗生物質は使っても効果が得られません。そのため、別の種類の抗生物質を使う必要があります。しかし、抗生物質の種類には限りがあるため、いずれどんな薬も効かなくなってしまいます。
こういった事態を防ぐためにも、「耐性菌」が生まれないよう処方された抗生物質は症状が治まっても最後まで飲み切るようにしてください。
詳しい回答①:抗生物質の化学構造を破壊し、無効化する
細菌が、抗生物質を破壊してしまう酵素を作り出すことで「耐性」を得る方法は、最も一般的です。 細菌が作り出す酵素によって、薬は重要な化学構造を破壊され、薬理作用を失ってしまいます。
例えば、細菌が作る「β-ラクタマーゼ」という酵素は、「ペニシリン系」や「セフェム系」などの薬の化学構造を破壊し、無効化してしまいます。
「カルバペネム系」の抗生物質は、通常の「β-ラクタマーゼ」では破壊されません。
しかし、この「カルバペネム系」の抗生物質をも無効化する強力な酵素「メタロβ-ラクタマーゼ」を作り出す耐性菌も出現しています。
また、1つの酵素だけで色々な抗生物質を無効化する酵素ESBL(extended spectrum β-lactamase)を作り出す耐性菌も出現し、問題になっています。
細菌の作る酵素を阻害する、という対策
このタイプの耐性菌に対しては、細菌が作る酵素を阻害する、という対策をとることができます。 細菌の作る酵素「β-ラクタマーゼ」は、「クラブラン酸」や「スルバクタム」といった「β-ラクタマーゼ阻害剤」によって、効果を失います。
この作用を利用した抗生物質に、『オーグメンチン(一般名:アモキシシリン + クラブラン酸)』や『クラバモックス(一般名:アモキシシリン + クラブラン酸)』、『ユナシンS(一般名:アンピシリン + スルバクタム)』などがあります。
詳しい回答②:抗生物質を排除するポンプを動かす
人間も、変なものを飲みこむと吐き出そうとします。また、胃腸炎にかかった時は、下痢や嘔吐によって細菌を排出しようとすることもあります。 細菌も同じように、自分にとって毒物である抗生物質を排出することがあります。このとき、細胞には抗生物質を排出するポンプのようなものが備わっていることが数多く報告されています。
しかし、このポンプを細菌はどうやって獲得するのか、どのような機能を持っているのか、詳しいことはわかっておらず、今後の研究が期待されています。
また、「グラム陰性菌」に分類される細菌には、外膜に穴があります。大腸菌では分子量600以上の物質を通さない大きさですが、緑膿菌ではもっと小さく分子量400以上の物質を通さない大きさになっています。多剤耐性緑膿菌は、こうしたふるい分けのシステムを利用して「耐性」を得ていると考えられています。
これは、ヒトの皮膚に備わる角質層のバリアと非常によく似た構造と言えます。
詳しい回答③:抗生物質の作用点となっている細菌の構造を変化させる
一般的に、薬と薬が作用する場所は、「鍵」と「鍵穴」のような関係にあります。「抗生物質(鍵)」も、「細菌の特徴的な構造(鍵穴)」に作用することで、抗菌力を発揮するようにできています。
「鍵穴」が変わると「鍵」が使えなくなるのと同じように、細菌の構造が変わってしまうと抗生物質は効かなくなります。
細菌とウイルスは根本的に異なるものですが、インフルエンザがコロコロと形を変えるために毎年予防接種をしなければならない、というのも同じ原理で起こっています。
薬剤師としてのアドバイス:「耐性」を獲得されないために、薬はきちんと飲み切る
このような「耐性」は、抗生物質を中途半端な使い方で服用した場合に獲得されやすいと言われています。そのため、抗生物質を処方された際には、症状が治まっても、最後まで飲み切る必要があります。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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