生ワクチンと不活化ワクチン、何が違うの?~生ワクチンは副作用が強くて危険?
記事の内容
回答:病原体の処理方法が異なる
「生ワクチン」と「不活化ワクチン」は、一長一短のため、病気の種類によってそれぞれ使い分けられています。
「生ワクチン」で接種する細菌やウイルスは、毒性を弱めてはいるものの、まだ生きた状態です。
接種した後、体内である程度増殖するため、少ない接種回数で免疫を獲得できるのが長所です。
ただし、病原体が少し増殖した際に発熱などの軽い症状が現れることがあります。
「不活化ワクチン」で接種する細菌やウイルスは、殺処理によって感染力や病原性を失わせてあります。
接種しても病原体は増殖しないため、免疫獲得のためには何度も接種する必要があります。
ただし、発熱などの軽い症状も現れにくいのが長所です。
それぞれの長所・短所を活かして、どの病気に対してどちらのワクチンを使うか、が決まっています。
生ワクチン:病原性を弱らせた状態の、生きた細菌とウイルス
BCG、麻疹・風疹(MR)、水疱瘡、おたふくかぜ、ロタウイルス、生ポリオ等の予防接種には「生ワクチン」を使用します。
「生ワクチン」で使うのは、「生きた細菌やウイルス」の感染力や病原性を弱めたものです。
接種された細菌やウイルスは、体内である程度増殖します。そのため免疫機能も得られやすく、接種する回数も少なくて済みます。
一旦は細菌やウイルスの数が増えるために、免疫が反応して軽い発熱などの症状が現れる可能性があります。ただし、感染力や病原性は十分に弱めてありますので、重大な症状を引き起こすことは滅多にありません。
病原性を弱らせてあるとは言え生きた細菌やウイルスを使うため、免疫不全者や妊婦には使えず、また別の種類のワクチンを接種する際には最低でも27日以上の間隔をあけるなど、より慎重な扱いが必要があります。
麻疹・風疹ワクチンの接種回数
麻疹・風疹ワクチンは従来、1回で十分な免疫が得られるとされてきました。
しかし、自然環境の中で感染する機会が減ったために免疫力が強化される機会も減り、十分な免疫を獲得していない人が増えてしまいました。その結果、2007年頃に大学生を中心に麻疹が流行しています。
こうした事態を受けて、麻疹・風疹ワクチンは2006年から「1歳になったら1回、小学校入学までにもう1回」という2回接種に変わっています1)。
1) 厚生労働省 感染症情報「麻しん・風しん」
不活化ワクチン:殺処理された細菌やウイルス
四種混合、肺炎球菌、ヒブ、日本脳炎、B型肝炎、インフルエンザ等は不活化ワクチンです。
「不活化ワクチン」で使うのは、紫外線などの処理によって感染力や発病力を失わせた病原体、あるいは病原体の一部です。
「生ワクチン」とは異なり、体内に入っても数が増えないため、十分な免疫機能を得るためには何度か接種を繰り返す必要があります。
その代わり、免疫不全患者でも使用でき、また次の接種まで6日以上の間隔を空けるだけで済みます。
妊婦に対するインフルエンザの予防接種
インフルエンザの予防接種は、妊娠中でも行えます2)。
特に、妊婦がインフルエンザに感染すると重症化するリスクが高いことから、世界保健機関(WHO)は妊婦の予防接種を推奨しています3)。
妊娠中は、いざインフルエンザを発症してしまった際に使える治療薬も限られるため、予防接種をしておくことをお勧めします。日本では、妊婦は優先接種の対象となっています3)。
2) 国立成育医療研究センター 「妊娠と薬情報センター:インフルエンザのワクチン」
3) 厚生労働省 新型インフルエンザワクチンの接種にあたって「妊娠されている方へ」
トキソイド:細菌の毒素だけを抽出したもの
細菌の持つ毒素だけを取り出し、無毒化して使用するものを、不活化ワクチンの中でも特に「トキソイド」と呼びます。ジフテリアや破傷風のワクチンが該当します。
補足情報:混合ワクチンのアルファベットが持つ意味
乳幼児の予防接種時にも耳にする「DPT-IPV」や「MR」といった表記は、それぞれの混合ワクチンに含まれる病原体の頭文字をとったものです。
・DPT-IPV・・・【Diphtheria】ジフテリア、【Pertussis】百日咳、【Tetanus】破傷風、【IPV】ポリオ
・MR・・・【Measles】麻疹、【Rubella】風疹
薬剤師としての意見:生ワクチンは危険か?
よく、「生ワクチンは、生きた病原体を使うから危険だ!」という意見を耳にします。
確かに、「生ワクチン」に限らず、予防接種はそもそも痛いほか、アレルギーなどのリスクもゼロではありません。しかし、ワクチンの予防接種によって得られるメリットは遥かに大きいものです。
極端な話をすれば、「生ワクチン」で副反応が起こる可能性は数万分の1という確率ですが、麻疹に感染すると1000人に1人の割合で死に至ります。
また、予防接種を受けないでいると、自分だけでなく周囲の人の感染リスクを高めることにもつながります。
ワクチンの危険性について不確かな情報を基に論じるよりも、身体が全力で免疫獲得に専念できるよう十分に健康なタイミングで接種を受けることや、接種を受けたあとは不必要な疲労を溜めないよう心掛け、注意深く観察し、何か異変があれば主治医へすぐ連絡をとる、といった努力をする方が、建設的です。
インターネット上では特に、「インフルエンザワクチンは打たないで」というデマが広まっていることについて、その悪影響を極めて危惧しています。
オカルトな話に惑わされて正しい医療を受けられなくなる、といった事態に陥らないよう、必ず疑問や不安は医師・薬剤師などの専門家に相談するようにしてください。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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