エボラ出血熱の特効薬『アビガン』ってどんな薬?~『タミフル』と異なる機序の切り札
回答:『タミフル』などと同じ抗ウイルス薬
『アビガン(一般名:ファビピラビル)』は、ウイルスが増殖する際に必要な酵素「RNAポリメラーゼ」を阻害する抗ウイルス薬です。エボラ出血熱に効果があるとして注目されましたが、本来はインフルエンザ治療薬です。
『タミフル(一般名:オセルタミビル)』等の既存の「ノイラミニダーゼ阻害薬」が効かないインフルエンザの大流行(パンデミック)が起こった際、切り札とするための国家備蓄用の薬です。
詳しい回答:既存の『タミフル』などとの違い
そもそもウイルスは、ヒトや細菌とは大きく異なり、呼吸したり、生殖したりといったことをしません。構造も、タンパク質でできた外殻の中に、遺伝情報としてDNAかRNAを持つ以外には、何も持っていません。そのため、単体では数を増やすことができず、まずは何かの細胞に感染しなければなりません。
ウイルスがヒトに感染すると、以下のような現象が起きます。
①ウイルスがヒトの細胞の中に入り込む
②自分の持つ遺伝情報DNAやRNAを、ヒトの細胞にコピーさせる
③数が増えたら、ヒトの細胞を破壊して外に飛び出る
インフルエンザの治療薬である『タミフル』や『イナビル(一般名:ラニナミビル)』は、③の時点で効果を発揮します。
ウイルスが細胞の外に出ようとする際、「ノイラミニダーゼ」という酵素を使用します。「ノイラミニダーゼ阻害薬」はこの酵素を阻害することで、増えたウイルスが外に飛び出てくることを防ぎます。
直接ウイルスを退治する薬ではないため、既にインフルエンザウイルスが増えてしまった場合には、あまり効果が期待できません。48時間以内に薬を飲む必要があるのは、このためです。
『アビガン』は、②の時点で効果を発揮します。エボラウイルスは遺伝情報としてRNAを持っているRNAウイルスです。このRNAをコピーする際に必要となる「RNAポリメラーゼ」を阻害することで、ウイルスが増殖することを防ぎます。
『アビガン』誕生の裏話
『アビガン』はもともと、インフルエンザに対する治療薬として2011年に登場しました。ところが、催奇形性のリスクが大きいわりに、既存の『タミフル』等の治療薬よりも効果が低いといった理由から、承認されずにいました。そんな中、2013年に鳥インフルエンザがヒトにも感染するという事例が起こります。またこの鳥インフルエンザウイルスに対して、既存の抗インフルエンザウイルスがあまり効果を発揮しませんでした。
こうした事態を受けて、専門家たちは「既存の薬が効かないインフルエンザが流行した場合に備えて、全く別の治療薬が選択肢に必要」という結論に達します。
そこで、新型または再興型インフルエンザで、なおかつ、他の抗インフルエンザウイルス薬が無効または効果不十分な場合、という非常に限定的な条件下で『アビガン』が承認されることになります(一般には使用されません)。
更に、この条件付きで承認されたインフルエンザの治療薬が、エボラウイルスにも効果を発揮したため、注目されることになりました。
一般には流通していませんが、『タミフル』等の薬が効かない新型インフルエンザが大流行(パンデミック)した際には、国の判断によって使用されることになります。
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