『抑肝散』って、認知症に効くの?
記事の内容
回答:周辺症状に効く
『抑肝散(よくかんさん)』に、認知症そのものを治療する効果はありません。
認知症が原因で起こる、興奮状態や攻撃的な性格、不安や不眠、イライラといった「周辺症状」を抑える効果があるため、『アリセプト(一般名:ドネペジル)』や『メマリー(一般名:メマンチン)』といった認知症と併せてよく処方されます。
「周辺症状(BPSD)」が強い場合は、『リスパダール(一般名:リスペリドン)』などの抗精神病薬を使います。しかし、抗精神病薬では副作用も多いため、緊急度が低い場合は『抑肝散』などの漢方薬も選択肢になります。
回答の根拠①:認知症の治療薬ではない
認知症、特にアルツハイマー型認知症は、脳の神経細胞が壊れることによって起こります。今のところ、一度壊れてしまった脳細胞を治す方法はありません。
そのため、脳細胞が壊れないようにする治療が主流です。この治療で使われる薬は2種類あります。
※コリンエステラーゼ阻害薬
『アリセプト(一般名:ドネペジル)』
『レミニール(一般名:ガランタミン)』
『リバスタッチ(一般名:リバスチグミン)』
※NMDA受容体拮抗薬
『メマリー(一般名:メマンチン)』
『抑肝散』を認知症に使用する場合、これらの認知症治療薬と併用するのが一般的です。
回答の根拠②:アルツハイマー型・レビー小体型の周辺症状に効果
『抑肝散』は、認知症患者の興奮・攻撃性・幻覚・妄想などを改善する効果が報告されています1)。
また、アルツハイマー型認知症の周辺症状だけでなく、「レビー小体型認知症」の周辺症状にも効果を発揮するとされています2)。
1) Hum Psychopharmacol.28(1):80-6,(2013) PMID:23359469
2) Psychogeriatrics.12(4):235-41,(2012) PMID:23279145
抑肝散の効果:生理学的な視点
『抑肝散』は、脳シナプスでの神経伝達物質「セロトニン」と「グルタミン酸」の働きを整えます3)。
「セロトニン」が減ると不安や焦燥感が強まり、精神状態が不安定になる傾向があり、うつ病との関連も高いものです。
「グルタミン酸」は、増えすぎると興奮状態になり、攻撃的になります。
3) ツムラ抑肝散エキス顆粒(医療用) 添付文書
抑肝散の効果:漢方医学的な視点
『抑肝散』には、「釣藤鈎(ちょうとうこう)」、「紫胡(さいこ)」、「甘草(かんぞう)」、「当帰(とうき)」、「茯苓(ぶくりょう)」、「白朮(びゃくじゅつ)」、「川芎(せんきゅう)」といった生薬が含まれています。
君薬・・・処方の中心になるもの。鎮静効果の中心となる「釣藤鈎」。
臣薬・・・「君薬」の作用を強めたり、補助したりするもの。「釣藤鈎」の鎮静作用を高める「柴胡」。
佐薬・・・君薬、臣薬の効能を調整するもの。興奮を鎮め、気の巡りを良くする「甘草」と「当帰」。
使薬・・・処方全体の作用を調節するもの。血を保養し、血を巡らせる「茯苓」、「白朮」、「川芎」。
「釣藤鈎」は『抑肝散』の主薬で、鎮静効果を持っています。
「紫胡」は、精神活動が不安定で、栄養の巡りが悪く、神経過敏や蕁麻疹、貧血、肩凝りといった諸症状を示す状態(肝鬱)を解消する生薬です。
この2つの効果を、残りの生薬が補助し、高める配合になったものが『抑肝散』です。
『抑肝散』は、認知症の周辺症状のためだけの薬ではなく、子どもの夜泣きや癇癪(かんしゃく)、不眠症などにも適応があります2)。
類似漢方
似たような処方の漢方薬もいくつかあり、体質や症状によって使い分けをします。
『釣藤散』・・・癇癪持ち、頭痛持ちに。
『紫胡加竜骨牡蠣湯』・・・抑肝散よりも体力が充実している人向け。動悸や便秘がある場合。
『加味逍遥散』・・・抑肝散よりも虚弱体質の人向け。冷えのぼせのある女性に。
『抑肝散加陳皮半夏』・・・症状が長期間続いて慢性化してきたような場合。
『半夏厚朴湯』・・・神経性胃炎、喉や食道の違和感、吐き気がある場合。
『甘麦大棗湯』・・・けいれんを起こしている場合。
+αの情報:アロパノール
ストレスに効果があるとして、テレビCMでも放映されている「アロパノール」は、『抑肝散』の生薬を使った薬です。
~注意事項~
◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。
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