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薬の誤解 薬物動態学

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薬は飲み続けていると効かなくなるって本当?

回答:現在は、耐性のつく薬は少ない

 確かに、ずっと使っていると効きにくくなるタイプの薬はあります。

 しかし、そういった耐性のつきやすい薬が使われていたのは昔の話で、現在使われている薬には、耐性のつきやすい薬はありません。
 そのため、定期的に医師の診断を受け、処方されて使っている範囲では心配の必要もありません。

 薬の効き方が変わった場合、”耐性”よりも体調変化を疑う方が現実的です。

 どういった薬を、どの程度使っていると、どれほど効きにくくなる可能性があるのか・・・といったことを知った上で医師・薬剤師は薬を使います。個人の感想や、根拠のないデマに惑わされて、飲むべき薬を勝手にやめてしまったり、指示と違う飲み方をするようなことは絶対にやめてください。

 最近は、根拠が曖昧な話で不必要に不安を煽るような情報もたくさんあります。疑問や不安はきちんとかかりつけの医師や薬剤師といった専門家へ相談するようにしてください。

 

回答の根拠:耐性が生じる薬

 ある種の薬を飲み続けていると効果が弱まる、”耐性”を持つという現象が起こります。

 耐性とは、初期に投与されていた薬物の用量で得られていた薬理学的効果が時間経過とともに減退し、同じ効果を得るためにより多くの用量が必要になる、身体の薬物に対する生理的順応状態、と定義されています1)。

 1)日本緩和医療学会 がん疼痛の薬物療法に関するガイドライン

 例えば、がん治療に用いる「モルヒネ」は”耐性”のある薬として有名です。「モルヒネ」を続けて使っていると、必要な量が徐々に増えてくることがあります。

 気管支拡張薬である「エフェドリン」にも”耐性”が生じる可能性があります。「エフェドリン」は、交感神経に働きかけて神経伝達物質を放出させます。薬をたくさん使用し、神経伝達物質が補充されるよりも早く放出されていくようになると、いくら薬を飲んでも効果が出なくなってきます。

 また、お酒をよく飲んでいると強くなってくる、というように、アルコールにも”耐性”があります。アルコールの耐性は、全身麻酔薬であるエーテルにも影響を及ぼすため、酒飲みは全身麻酔が効きにくい、ということが起こり得ます(交叉耐性)。

 このように”耐性”が生じる薬は確かに存在します。そのため、生じた”耐性”が治療に影響を与えないよう、薬の量や強さ、使う期間やタイミングといったものを微調整しながら使う必要があります。
 医師や薬剤師は、こういった微調整を行いながら、時には体重から投与量を計算するといったことまでして、薬を使っています。

 医師や薬剤師が、こういった正しい調整をしながら薬を使っている限り、治療や生活に影響が出るほどの”耐性”に困ることはありません。

誇張された情報が出回っている薬:古い睡眠薬で起こった耐性

 睡眠薬や抗不安薬といった薬について、ずっと使っていると”耐性”ができて、薬が効かなくなるのでは、という不安を抱いている方が多いようです。こういった薬についても、耐性ができやすいタイプの薬と、耐性ができにくいタイプの薬があります。

 「バルビツール系」に分類される睡眠薬や抗不安薬・・・『フェノバール』や『ラボナ』といった薬は歴史が古く、ひと昔前に使われていた薬です。このタイプの薬は、比較的”耐性”ができやすいとされています。そのため、「睡眠薬や抗不安薬=耐性ができる」という認識が広まりました。

 しかし、最近は「バルビツール系」の薬はよほどの事情がない限り使われず、主に不眠症や不安に対しては「ベンゾジアゼピン系」という新しいタイプの薬が使われます。この「ベンゾジアゼピン系」に分類される睡眠薬や抗不安薬については、”耐性”が生じにくいとされています。

 インターネットを開けば「ベンゾジアゼピン系」は耐性がついて薬なしで生きられない身体になる、といったような酷く誇張された情報が氾濫しています。
 確かに、ベンゾジアゼピン系の薬でも、耐性が生じる可能性がゼロではありません。ですが多くの場合”耐性”が生じてしまうのは、何種類ものベンゾジアゼピン系の薬を、何十年にも渡って使い続けたような極端な例です。一種類のベンゾジアゼピン系の薬を数年使っただけで、簡単に強い耐性ができるわけではありません。

 薬が処方されたということは、いまその薬が必要な状態である、ということです。睡眠薬や抗不安薬はあくまで対症療法なので、根本的な原因を解決する努力も必要です。
 薬に頼るだけの治療ではなく、薬の力を借りながら根本解決を目指すという姿勢である限り、薬が不必要に増えて、耐性や依存性に困らされる、といったことはないと考えています。

 参考文献) 第107回日本精神神経学会学術総会 ベンゾジアゼピン系薬物の効果と副作用の分子基盤
        

薬剤師としてのアドバイス:何に気を付ければ良いか?

 最もダメなのは、いい加減な話に不安を煽られて、使うべき薬を自己判断でやめてしまう、自己判断で指示とは違う使い方をする、といったことです。

 先にも述べた通り、医師や薬剤師はこういった”耐性”が治療や生活に影響を与えないように、様々な微調整をしながら薬を使います。そういった専門家の微調整を無視して、勝手に薬を止めたり、飲む量を変えたりすると、治療や生活に影響が出るほどの”耐性”が生じてしまう可能性も高くなってしまいます。

 もし、いつも使っている薬の効きが弱くなってきた、と感じるのであれば、”耐性”を疑うよりも体調の変化を疑う方が現実的です。
 薬の効き方が変わった、体調が変わった、という場合には、まず主治医に相談するのが先決です。

 
 

~注意事項~

◆用法用量はかかりつけの主治医・薬剤師の指示を必ずお守りください。
◆ここに記載されていることは「原則」であり、治療には各々の環境や状況により「例外」が存在します。

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薬の比較と使い分け100(2017年)
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ドラッグストアで買えるあなたに合った薬の選び方を頼れる薬剤師が教えます(2022年)
■日経メディカル開発
薬剤師のための医療情報検索テクニック(2019年)
■金芳堂
医学論文の活かし方(2020年)
服薬指導がちょっとだけ上手になる本(2024年)

 

【執筆】
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南山堂「薬局」、Medical Tribune
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【講義・講演等】
薬剤師会(兵庫県/大阪府/広島県/山口県)
大学(熊本大学/兵庫医科大学/同志社女子大学/和歌山県立医科大学)
学会(日本医療薬学会/日本薬局学会/プライマリ・ケア連合学会/日本腎臓病薬物療法学会/日本医薬品情報学会/アプライド・セラピューティクス学会)

 

 

【監修・出演等】
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